4年生のグリフィンドールの女子が言った。彼女の言葉の意味が呑み込めず、は目を瞬かせる。
「まだ寝ぼけてるの?クリスマスプレゼントに決まっているでしょう」
そんな。誰が。は急いで包みが3つ積まれているソファのもとへ向かった。震える手でそのうちの1つを開けると、カードと毛糸で編まれた帽子が入っていた。
09. Christmas Days
贈りものは、五つ
『へ。メリー・クリスマス。心をこめてあんだので使ってください』
そう書かれていた文面の下には、ハグリッドより、とあった。帽子にはところどころ隙間があったが、ハグリッドがわざわざ編んでくれたということがとても嬉しかった。彼が四苦八苦しながら編み物をする様子を想像すると、自然と笑みが零れてくる。
次の包みの中には、百味ビーンズ、カエルチョコレートなどのたくさんの菓子が入っていた。
『ホグワーツの生活にはさすがに慣れただろうね。実は、夏が来る前にわしのもとへ来て欲しいのじゃ。年が明けてからでも春になってからでも構わん。マクゴナガル先生に言えば案内してくれるよう頼んでおこう。最後になったが、ハッピー・クリスマス!
ダンブルドアが、一体何の用だろう。気になりつつも、最後の包みを開けた。マフラーが入っていた。これも、手編みのもの。カードを読むと、リリー・エバンズ、とあった。
『へ。ずっと使えるように長めに編みました。喜んでくれれば嬉しいんだけど』
オレンジと白の縞柄のマフラー。ぎゅっとそれを抱きしめる。嬉しかった。涙が出そうなくらいに。
私も、リリーに何か贈ろう。彼女が帰って来た時に、あっと驚かせるんだ。けれども、リリーは何が喜ぶだろうか。アクセサリー、服、ぬいぐるみ。どれも、ここでは手に入らないもの。どうしよう。
「、どうしたんだい?眉に皺が寄ってるよ」
ソファの上で熟考していると、ジェームズの声が頭上から降って来た。顔を上げるが、彼の顔を見定める前に、ジェームズはの隣に腰掛ける。
「あれ、シリウスは?」
「女の子に呼び出されて
「……昨日から。ほら、昨日、家系のこと話したでしょ?それで、その名前で呼ばれたくないんだ、って」
「へえ、ふうん。あいつが女の子に普通に話しかけるなんてなあ」
「普通に、って……。シリウス、どうしてそんなに?女の子が嫌いなの?」
「別に嫌いではないと思うよ。ただ、ほらさ、今もそうだけど。わーわーきゃあきゃあ騒がれるのが嫌らしいよ。ああ、なるほど。その点、はそう騒がないからね。話し易いのかも」
それは、どうも。は曖昧に答えた。
「ところで、どうしたの?悩んでるみたいだったけど」
「ああ、うん。リリーにクリスマスプレゼントを贈りたいんだけど、何にしようか迷ってて」
「なるほどね。エバンズかあ。女の子は、やっぱり花とか?アクセサリーとか?」
「うん。でも、買いに行く場所がないし。ダイアゴン横丁は遠いし……」
「あるじゃないか、近くに」
「どこに?」
「ホグズミード村」
「ええっ?でも、行っちゃだめなんでしょ?ホグズミード週末だって、3年生以上だし」
「行けるよ。ばれなきゃいいんだから」
ジェームズは興奮している様子で、立ち上がった。
「まさか、こんなに早くあれを試せる時が来るとは!ちょっと、待ってて。すぐに戻るから」
ジェームズは風のごとく去って行き、風のごとく戻って来た。その速さに、は呆然としていた。
「じゃ、じゃーん!ポッター家先祖伝来の品、『透明マント』!」
「透明マント?」
ジェームズは銀色の布を広げ、に見せた。いや、布と呼べるのか難しい材質だった。布というより水が波打っているような。
「これを着ると、その名の通り透明になれるんだ」
言いながら、ジェームズは布を羽織ってみせる。彼がマントを被った肩から下が、すうっと消えた。は驚いて口をぽかんと開けた。
「どうだい?これで、ホグズミード村に行くんだ」
顔だけのジェームズは意気揚々と語る。
「すごい……けど……行けたとしても、村の人に怪しまれないかな。売ってくれないかも」
「大丈夫だよ。今日はクリスマスだから、村の人も浮かれてるって」
「でも、見つかったりしたら」
「透明マントに不可能はない!」
ジェームズがあまりに自信に満ちた様子で言うので、も彼を信じようという気持ちになってきた。彼の言うことなら何でも実現すると感じてしまうから、不思議だ。頼りがいがあるとも言える。
「うん……それじゃあ……お願いしてもいい?」
「もちろん!それじゃあ、もうここから羽織って行こうか。誰もいないよね?」
ジェームズは辺りを入念に見渡し、人がいないことを確認すると、羽織っていたマントを広げ、を招き寄せた。そこで、は顔を引きつらせる。まったく予想していなかったけれど、もしかして。
「ほら、早く!」
ジェームズに腕を引っ張られ、マントの中に潜る。大きいマントなのだな、と思った。
思ったけれども。この密着状態、何とかならないものだろうか。
意外にあっさりと、村へ行くことができ、もジェームズも拍子抜けしていた。教師たちもクリスマスということで気を抜いているのかもしれない。
村に辿り着くと、ジェームズはマントを外した。ようやくも緊張から解放され、清々しい空気を思い切り吸った。
ああ、もう嫌だ。男の子とこんなにくっついたのなんて、生まれて初めてだった。お父さんは別だけれど。
「すごいねえ」
ジェームズが感嘆の声を漏らす。も彼の視線の方を向くと、そこにはクリスマスの装飾にきらきら輝いた店がずらりと並んでいた。赤や緑、青や黄色の光がちかちかと瞬き(電飾のように見えるけれども魔法だろう)、ウィンドウにはクリスマスのお菓子や料理が並べられ、人々は楽しそうにそれらを眺めている。心が温まる光景だった。
「うわあ、目移りしそう
ジェームズはスキップをしそうな勢いで歩いていた。も胸を躍らせながら、リリーへのプレゼントは何にしようと頭を働かせた。
「うわあ、見て見て!ゾンコの店だ!僕、行ってみたかったんだよ!」
「見て来なよ。私、ここのお店を見てるから」
「うん、うん。ありがと」
ジェームズ。あんなにはしゃいじゃって。
くすり、と笑って、は小さな店の中に入った。そこには何人かの客がいて、店員は小さなおばあさんだけだった。にこにこ笑顔を浮かべながら、カウンターの奥から客の様子を見ている。
棚には雑貨が並んでいた。手作り風の可愛らしいもの。ヘアピンやネックレスなどのアクセサリーから、コップやスプーン、ハンカチ、ブックカバーなどもあった。
うわあ、ここ、良いかも。ホグズミードにこんなにお洒落なお店があったなんて。本当に、目移りしそう。このヘアピン、リリーに似合いそう。でもこのブレスレットもいいな。どうしようどうしよう。
ふと、細長い長方形のカードのようなものが目に留まった。金色の縁に囲まれた色の付いた薄いガラスが、ユリの花を現わしている。ステンドグラスのようだった。長方形の先端には、紐が付いている。
ああ、しおりか。綺麗。これ、いいな。これにしよう。
少々高値で、2つが限界だった。1つはユリの花、もう1つはガーベラの花。それを、カウンターの老婆のもとへ持って行く。
「あの、ラッピングして欲しいんです」
「プレゼントだね。相手は?」
「友達です。女の子で。可愛い子です」
老婆は大きく二度頷いて、薄いピンクの布……というよりも紙のようなもので、そのしおりを包み始めた。
「読書好きの子かい?」
「うーん……好きだと思います。でも、それよりも勉強家です。とても熱心に勉強するんです。だから、何冊もの本に羽根ペンを挟んでるのを見て、しおりがあると便利かなあ、と思って」
「そうだね。いい考えだね」
老婆は笑顔で応じて、紙を巻く手を止め、カウンターの下をごそごそと探り始めた。そしてもう1つ、しおりを取り出し、紙の上の2つと合わせて包んでいく。そのしおりには、5つの花びらのある形の良い白い花が一輪描かれていた。
「おばあさん、それ」
「ディプラデニア。この花には、『固い友情』っていう花言葉があってね。わたしからのプレゼントさ」
「で、でも」
「勉強家なら、しおりはたくさんあった方がいいだろう?それに、子供が遠慮なんてするもんじゃないよ」
けれど。このしおり、高いんじゃ。それを口にはしなかったが、は眉を曇らせた。
「たくさん使ってくれれば、これを作った人も喜ぶだろうよ」
「そう……ですか?ありがとうございます」
「それじゃあ、このカードも付けるから。何か書いて、プレゼントしてあげなさい」
老婆は綺麗な花が描かれた紙を取り出した。しおりを巻いた紙に細く赤いリボンを付け、カードと共に紙袋に入れる。は財布からお金を出し、紙袋を受け取った。
「ありがとう。また来ておくれ」
店を出る際、はそのカードもきちんと値の付けられた商品だと知り、慌てて振り返ったが、老婆は既に別の客と会話をしており、お礼を言う暇がなかった。
店の外でぼんやりしていると、やがてジェームズが戻って来る。さりげなくその手には紙袋がぶら下がっていた。
「ごめん、遅くなった。どうだった?見つかった?」
「うん。ジェームズも何か買ったんだ?」
「へへへ。つい、ね」
さあ戻ろうか、とジェームズはマントを取り出した。
無事に談話室に戻って来ることができたことと、再度の緊張から解き放たれたことには心底安堵した。どっと疲れが押し寄せてくる。ふう、と息を漏らしながらソファに腰掛けた。
「、いいものあげるよ」
ジェームズに今日のお礼を言おうと口を開きかけた瞬間、先を越された。彼は紙袋の中を探って、小さな箱を取り出した。シンプルな茶色い箱。曲がった銀色の棒が付いている。オルゴール、…?
「え、ジェームズ、これ」
「店で見つけたんだ。面白いよ。ねじを回すその時の気分で、奏でられる音楽が変わるんだ」
ジェームズは、目を丸くさせているの隣に座り、の手を取ってその上に箱を載せた。小物入れにもなっているようだ。試しに、ねじを回して音を鳴らしてみる。美しい音色。それが奏でるのは、赤い鼻のトナカイの歌。
「すごい
「だろ?君にあげる。まあクリスマスプレゼント、ってことかな」
「ええ?でも、私、ジェームズには何も」
「僕だって気まぐれに買っただけさ。お返しが欲しかったわけじゃない。ああ、でも来年は期待してるよ」
にっ、と悪戯っぽい笑みを浮かべて、ジェームズは立ち上がった。
「さあて、シリウスはどこだ?ゾンコの店で買ってきたやつを早く試さなきゃ」
ゾンコの店。確か、悪戯グッツが売っている店だ。そこにこのオルゴールが売っていたのだろうか。けれど、この小箱はとても悪戯仕様には見えない。
『ごめん、遅くなった』。
まさか、別の店で?一体いつの間に?が顔を上げると、既にそこにはジェームズの姿はなかった。ああ、お礼を言い損ねた。後できちんと、言わなきゃ。
ありがとう、ジェームズ。ほんとうに。
「うわあ……きれい……すてきね」
クリスマス休暇から戻って来たリリーに、例のプレゼントを手渡した。リリーはしおりを一つ一つ手に取って眺める。
「ありがとう。本当に嬉しいわ。大切に使う」
「私もマフラー、ありがとう」
「初めてだったから、ママに手伝ってもらっちゃったんだけどね。ところでこれ、どこで買ったの?」
は正直に語った。リリーはジェームズとということとが気に入らなかったようだが、違反してホグズミードへ行ったことは責めなかった。
「そんなお店があるのね。3年生になるのが楽しみだわ」
プレゼントが余程気に入ってくれたのか、リリーは上機嫌に言った。
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今回のこの話は完全に一から書いたものです。シリウス相手といいつつジェームズの出番が増えたことに気づいた今日この頃(苦笑) 07/7/18