季節は廻る。年が明け、春がやってくる。しかし、戦況は一向に変わらぬまま。むしろ、悪い方に向かっているような。死喰い人やディメンターに襲われたという人が、日に日に増えていく。しかし、ダンブルドアには何か策があるようで、この状勢の中でも彼には余裕のようなものが感じられた。
それを信じ、騎士団は任務に励んでいた。

 

107. Grand Cross
空の果てをめざして

 

「では、解散」

騎士団の会合は、ムーディの一言で幕を閉じた。リーダーであるダンブルドアは不在であることが多く、ムーディがダンブルドアの意向や指示を伝えていた。
ダイアゴン横丁で、怪しい動きがある。今回は、横丁を調査したメンバーからの情報も伝えられた。なんでも、夜中に不審な集団を見た者が多数いるらしい。ムーディは偽の情報を掴まされたのではと訝しがったが、詳しく調べてみないことには話が進まない。何人かを派遣することになった。
は、志願しようと彼のもとに歩み寄った。彼は顔をしかめた。またフィンスターのことを言われるのかと思ったが、そうではなかった。

、お前は駄目だ。ダンブルドアが呼んでおる」

 

「おお、すまんのう。わざわざ来てもろうて」

はいいえ、と首を振る。
ムーディに言われ、ホグワーツへとやって来た。久しぶりの校長室。相変わらず美しい不死鳥が、ばさりと羽ばたく。

「用件は、君なら見当がついておろう」

ダンブルドアはフォークスをそっと撫で、言う。

「はい    以前仰っていた、遠方への任務のことですか?」
「そうじゃ」

ダンブルドア春になったら、と言っていた。今は、5月。そろそろではないかと思っていたところだった。

、君にはフランスへ行ってもらいたい」
「フランスですか?」

予想外の答えに、は声を上げた。いや、特に何処と予想はしていなかったが、まさかフランスとは。隣国だけれど、国外に行くことになるとは、想像していなかった。

「そうじゃ。会ってもらいたい人物がおる」
「はあ」

つい気の抜けた返事をしてしまう。ダンブルドアの意図が、掴めなかった。

「少々面倒だとは思うが、マグルのルートで行ってくれるかの。つまり、ポート・キーや箒は使わんで欲しいのじゃ。あまり他に知られたくないものでのう」

知られたくない。つまり、極秘の任務?それほど重要な任務なのだろうか。

「君は昔、マグルの中で生活しておったから、問題はないと思うのじゃが。その    何と言ったか……ひくう……違うの……ひてい……ひ、ひ」
「飛行機、ですか?」
「おお、そうじゃ」

ダンブルドアは嬉しそうに顔を歪める。

「わしも一度乗ってみたいと思うておったのじゃ。今度、乗り方を教えておくれ」

はくすりと笑い、はいと答える。

「詳しい場所は、この紙に書いてある」

ダンブルドアは、すっと紙切れを取り出し、に渡す。

「じゃが、ここで憶えてしまっておくれ。燃やしてしまうから」
「はい」

は紙を受け取り、見る。まずはロンドンへ行って、空港へ行き、飛行機に乗ってフランスへ。そして鉄道を乗り継いで……。
たぶん、大丈夫だろう。が頷くと、ダンブルドアは杖を出し、紙切れを燃やした。

「誰なんですか?その、会ってほしい人物というのは」
「内緒じゃ」

ダンブルドアは少年のような笑みを浮かべた。

「着いてからのお楽しみじゃ。その方が、道中気分が良いじゃろう?」

それはそうかもしれないが、『楽しめる』任務なのだろうか。それにも関わらず、他人に知られたくはない、重要なことが絡んでいる?が沈黙していると、ダンブルドアが続けた。

「では、一つヒントをあげよう。その人物は、わしの古い友人じゃ」
「友人?先生の?」
「よろしく伝えておくれ」

ダンブルドアの笑みは温かかった。彼にとって、それほど大切な人物なのだろうか。

「分かりました、行ってきます」
「ああ、頼む」

は部屋を去ろうとした。が、ダンブルドアが「」と呼ぶ。は再び身体を彼の方へ向かせ、何ですかと答えた。しかし、ダンブルドアはじっとを見つめるだけで、何も言わない。彼のブルーの瞳が、揺れていた。

「……いや、……気をつけて、行ってきておくれ」

は内心で首を傾げたが、「ありがとうございます」と言い、彼のもとを去った。

 

階段を下りていくと、踊り場でセブルスと出会った。久しぶりねと声をかけるが、彼はああと答えただけだった。いや、答えてくれただけ、良かったのかもしれない。

「防衛術の教師になったんでしょう?どう、感想は」
「感想というほどのことはない」

さらりとセブルスは答える。ずっと望んでいた役職のくせに、と言いたくなるのを、は堪えた。

「そう。でも、残念ね。セブルスは魔法薬の方が合っていたのに」

彼は眉一つ動かさなかった。ううん、でも、セブルスは闇の魔術も得意なんだっけ。そう、昔、闇の陣営のスパイをしていたこともあったんだ。
    そうだ。は、はっとした。ある考えが浮かんだ。

「セブルスは、開心術が使えるわよね」

ようやくセブルスの眉がぴくりと動く。

「それがどうした?」
「今、ここで、私に使ってくれない?」

辺りは静かだった。授業中のようで、生徒の声が聞こえない。

「……何故だ?」
「ちょっと閉心術を学んでいてね、試してみたいの」
「閉心術を?一体、何のために?」
「騎士団のためよ。これから先、闇の陣営と本格的に争うことになったら、どんなことでも学んでいた方が良いでしょう?」

セブルスは眉根を沖砲に寄せたまま、を見た。も、挑発的な目つきで彼を見返す。

「後悔しても知らんぞ」
「全力でやってね」
    よかろう」

セブルスは軽くため息を吐いてから、を見据える。セブルスの瞳に映った自分の姿を、は見つめた。とても深い色。海の底のような、夜空のような。でも、冷たい色ではない。
それにしても    すごい    セブルスの威圧感    すごいな    やっぱり、本で学ぶだけではだめだ。実際にこうして使ってみないと    一瞬、気が遠退きそうになる。

「まあまあだな」

やがて、セブルスが言った。

「悪くはない。が、お前が少しでも気を抜けば、付け入る隙ができる」

は肩を竦めた。

「どうすれば完璧にできる?」
「何故、そこまで」
「さっき言ったでしょう。騎士団のためだって」

セブルスは目を細め、を見つめた。は、心を空にする。今の自分には、難しいことではなかった。セブルスは、やがて視線を外し、ふんと鼻を鳴らす。

「……まあ良い。集中力と相手への抵抗力を高めるんだな。それをしつつ、心は無にするんだ」

セブルスはそれだけ言って、去ってしまった。残されたは、はあとため息を吐く。
集中し、抵抗しながらも、心は無に?それをいっぺんにやるのって、相当難しい。
額に汗が滲んでくる。僅かでも意識を途切れさせたら、セブルスに意識を読まれていただろう。彼は、すごい。身体中からも汗が吹き出してきた。
でも、ありがとう    セブルス。あなたの、冷たいおもてのうらにある優しさに、シリウスも気がつけば良かったのに。

 

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08/1/19