ビルとフラーの結婚式は、隠れ穴でおこなわれることになった。マクゴナガルはホグワーツで挙げてはどうかと提案したが、モリーが断わった。戦いの準備と結婚式の準備が重なっては申し訳ないと考えていたのだろう。そして、できれば重ねたくはない、とも。

隠れ穴の庭に、豪華な舞台を用意し、式は小規模ながらも華やかにおこなわれた。
ビルとフラーは、ずっと笑みを浮かべていた。幸せそうだった。
そんな中、リーマスと手を繋ぐトンクスを目にし、は複雑な思いに苛まれた。

 

111. Live well. It is greatest revenge
いきよ

 

「あの……ちょっといいですか」

式が終わって、その余韻も消え始めてから、ハリーがぎこちなく切り出した。彼によって集められたのは、彼と親しい者たち。ムーディやハグリッドはホグワーツに残っていたので、をはじめ、リーマス、トンクス、ウィーズリー家の者たち、マクゴナガル、ハーマイオニーらが室内に入った。魔法省の役人やビルとフラーの友人も出席していたが、ハリーは彼らの姿がなくなるのを見計らっていたようだ。

「みなさんに、言っていないことがあって」

隠れ穴はお世辞にも広いとは言えず、この人数では窮屈に感じられた。

「……僕は、今学期、ダンブルドアとの個人授業を何回かおこないました。それは、ペンシーブでヴォルデモートの過去を見たり、そんなことです。敵の内情を知っておくべきだ、って。    ダンブルドアは、ホグワーツを空けて何か調べものをしていたようですが、そのことについては、僕に話してくれたことはありませんでした。でも、一つだけ」

ハリーは淡々と語ったが、そこで言葉を強めた。

「ヴォルデモートは僕が1歳の時に力を失いましたが、何故死にはしなかったのか。それは、奴が身につけていた闇の力があったからだったんです。ダンブルドアはもともとそれを知っていたのか、突き止めたのかは分かりませんが、僕に教えてくれました」

ハリーは一旦区切り、すぐに続けた。

「トカゲの尻尾切り。自分の肉体なり力なりを一部切り捨てて逃げ、死を逃れる術があるそうです。けれど、その切り捨てた部分は時が経てば蘇る。強大な力を使うし、昔から禁忌の技として伝わってきたから、使える人間はヴォルデモートしかいないそうです」
「なるほど。奴は自身の力を過剰に誇っているような節があったが、もしや、その技のせいか」

アーサーが独り言のように漏らす。ハリーは頷いた。

「ダンブルドアもそう言ってました。でも、奴にその力がある限り奴は倒せない、って。ダンブルドアは、その力を封じてヴォルデモートを倒すすべを調べていたようでした」

そしてその方法は結局分からず仕舞い、か。
皆口を閉ざし、沈黙が流れた。しかし、しばらくして、再びハリーが口を開く。

「僕はその方法を探し出します。必ず。そして、ヴォルデモートを倒します」

決意表明のような彼の言葉に、皆ハリーを見つめた。

「ハリー……しかし、当てはあるのかい?」

リーマスの問いに、ハリーは肩を落とす。

「それは……あまり……。でも、手当たり次第に調べます」
「あなた一人に背負わせるわけにはいきません」

マクゴナガルがきっぱりと言葉を放つ。ハリーは僅かに目を丸くさせ、マクゴナガルを見やった。

「あなたは一人で戦おうとしていますね。そうでしょう?ですが、ご覧なさい。あなたの周りにはたくさんの仲間がいます。共に戦いましょう、ポッター」
「でも」
「ヴォルデモートにないものを誇り、利用しなさい。そうすれば道は開けます」

ダンブルドアも言っていた。力を合わせること。その大切さ。ヴォルデモート側にはないもの。マクゴナガルの言葉で、場の空気が変わったような気がした。重苦しいものから、張り詰めている様子に。ただし、その緊張は恐怖からくるものではなく、思いの固さの表れであるように感じられた。

「はい。よろしくお願いします」

ハリーが強い瞳を覗かせると、マクゴナガルは微笑んだ。

「これで、騎士団のメンバーが3人増えましたね」

トンクスが「3人?」と首を傾げた。マクゴナガルはロンとハーマイオニーに視線を向ける。2人とも力強く頷いた。ハーマイオニーが熱を込めて切り出す。

「ありがとうございます、先生。もちろん、私たちも一緒に戦うわ。嫌とは言わせないわよ、ハリー」

ハリーは目を丸くしたが、やがて小さな声でありがとう、と呟いた。

 

独りになりたくなって、は家の外に出た。中が蒸し暑かった分、外がやけに清々しく感じられる。式の名残の、椅子やステージが残っていた。地面には、花びらや紙吹雪が散っている。
家から死角になるような庭の隅に佇んで、は深呼吸をした。
アミスとの出逢い。ダンブルドアの死。結婚。ここ数週間で、本当に色々なことがあった。良いことも、悪いことも。幸福と不幸は隣り合わせなのだと、改めて感じた。
もうしばらく経ったらホグワーツへ戻らねばならないだろうが、まだ良いだろう。今はこうして独りでいたかった。
ハリーは一旦ダーズリー家に戻るのだという。それがダンブルドアの望みであったから、だそうだ。
ヴォルデモートと戦うために切り札となるハリー。本人はその重さを感じてもいるのだろうが、気丈に振る舞っていた。彼も大切な人を失った。けれど、その分強くなれたのかもしれない。

「あの」

ぼんやりしていると声が聞こえ、はどきりとした。まさしく彼のことを考えていた最中だった。彼は途惑いがちにこちらへ近づいて来る。

「話があって」

ハリーはの隣に並ぶ。ハリーの背はより高くなっていた。いつ抜かれてしまったんだろう。ついこの前までは、彼を見下ろしていたような気がするのに、今は目先を上げなければならない。

「今更なんですけど    シリウスのことで」

ハリーは言い難そうに頭を掻いた。は思わず目を細める。ジェームズが、よくしていた仕草だった。一瞬、錯覚してしまいそうになり、は目を逸らした。もうハリーにジェームズを重ねることはなかったが、こうしてジェームズがしていた動作と同じようにされてしまうと、途惑う。

「僕、ずっと勘違いをしてて……その、さんは、ルーピンのことが好きだと思ってたんです」
「ハリー。もっと気楽に話して。私はもうホグワーツの職員じゃないんだから」

が苦笑すると、歯切れは悪かったが、ハリーははいと答えた。

「……その、でも、それは違うって知って    シリウスだった、って」

むねが、いたい。
は、咄嗟に押さえてしまいそうになった。彼の死は克服したつもりだった。けれど、ハリーの口からシリウスの名を聞くと、何故か辛かった。大好きだった、死んでしまった3人が愛したハリー。そのハリーから彼らの名を聞く。そこには何か特別なものが込められているような気がした。

「……シリウスと恋人同士だった、って……聞いて」

誰が話したのか。リーマスだろうか、モリーだろうか。

「まあ……そう……ね」
「それなら、遺産はが引き継ぐべきだったんだ」

そんなことを悩んでいたのね。もしかして、ずっと?話すタイミングを見計らっていたのかもしれない。彼自身が切り出し辛かったのか、それとも私に気を遣っていたのか。

「名付け子に相続させるのは当然よ。私はシリウスと『特別な』関係だったわけではないし」

婚約していたとか、結婚していたとか、そういう事実があれば話は異なったのかもしれない。けれども、遺産があっても却って辛いだけ。ハリーもそう感じているのかもしれない。ブラック家の遺産は大きなものだし、それに途惑っていたのかもしれない。
シリウスのこと、とても大切に思っていたのね。ハリー、あなたも。

    ハリー。刺し違えてでもヴォルデモートを殺す。そう思っていたでしょう?」
「えっ」
「さっきのハリーの目。そんな感じがしたの」

ハリーは顔を俯かせ、沈黙した。

「図星ね。でも、それじゃあ意味がないのよ。ヴォルデモートが死んでも、あなたが死んでしまったら、無意味なの。ダンブルドアも、ジェームズも、シリウスも、リリーも、あなたを愛した。あなたが死ねば、その思いを裏切ることになる」
「分かってる。でも……僕は……死なないでいて、ほしかった」

ハリーは小さく肩を落とした。痛みに耐えるように、じっと瞬きをする。
ハリー。それは、私もよ。

「死んでしまっても、その人の思いが消えることはない……そうでしょう、ハリー」

はハリーの傷痕を見た。
リリーの残したしるし。そして、彼のパトローナス。そうした『かたち』にも表れている。それに、何よりも、自分が思い続ける限り、彼らの思いは、彼らとの思い出の中に、ちゃんと残っている。
自分に言い聞かせるように、は語った。

「それに、あなたが死んでしまったら、悲しむ人はたくさんいる。ハーマイオニーやモリーを泣かせたくはないでしょう?」

ハリーは無言で頷く。彼も分かってはいるのだろう。

「じゃあ、約束して。絶対に生き延びるって」

が右手の小指を差し出すと、ハリーは目を瞬かせていたが、やがて彼も小指を出した。

「破ったら……そうねえ。アンブリッジ似のカエルと一緒に埋葬しちゃおうかな」
「げーっ。すごく嫌だな、それ」

ハリーは大袈裟に顔をしかめてみせ、は笑った。ハリーも笑い、そして、指を離す。

「僕    分かる気がする。父さんと母さんと、……シリウスが、のことをとても好きだった、って」
「……ありがとう」

ありがとう、ハリー。

「でもね。みんなが思ってくれる以上に、私もみんなのことが好き」
「うん」
「忘れないで。あなたの傍には、あなたを大切に思う人がいる。たとえ、その人がどこにいたとしても」
「うん」

ありがとう。ハリーも言った。

 

ハリー。ハリーの大切な人。リーマス。ビルとフラー。
マクゴナガル、ハグリッド、ムーディ、アーサー、モリー、トンクス。共に戦った仲間たち。
みんなが幸せな時間を過ごせるように。
ダンブルドアが望んだ、明るい世界が戻るように。
できないことなんて、ない。そう信じる仲間が集うかぎり。

 

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Live well. It is greatest revenge
『立派な生き方をせよ。それが最大の復讐だ』 The Talmud
ホークラックスのことはこの話には盛り込んでいません。代わりに上記のような設定にしました。  08/1/20