「セブルス」

途惑うような、細い声で呼びかけられて、セブルスは振り返った。そうして、すぐにそれを歪める。なんだ、またこいつか。そう思い切りしかめっ面をされたは、苦笑した。
セブルスは、止めた足を再び進ませ、もその後を追った。彼の隣には並ばずに、少しばかり後ろから、声をかける。

「ありがとう」

しかし、セブルスは振り返らないし、返事もしない。は続けた。

「この前のこと……怪我はなかった?」
「あったに決まってるだろう」

ふん、と鼻息と共に答える。
この前。満月の夜。シリウス・ブラックに『殺されかけた』夜。
校長に宥められはしたが、そのことについて、セブルスは数日経った今も憤慨していた。恐らく、一生忘れることはないのではないか、と思う。本当に汚いやり方。それが許されてしまうなんて、おかしい。
そのセブルスの憤りはにもひしひしと伝わってきて、は声のトーンを落として、言った。

「シリウスも……反省してたよ」

『悪かった』、とは口に出して言ってはいない。しかし、ダンブルドアやジェームズに窘められて    いや、それ以前に、自分の失態には気づいていたのだろう。けれど、止められなかった。

「あいつを庇うのか?あきらかにあいつが悪いのに?」
「庇ってるんじゃないよ」
「ああ、嫌だ。顔が少しいいからって、得だな、あいつは」
「そんなんじゃない。ジェームズだって、私だって、あのシリウスの行動が許されるものだとは思ってない。シリウス自身も、そう思ってる……と思う」
「なのに、どうして退学にならない?それくらいのことをしただろう、あいつは」
「ダンブルドアは、……シリウスの、他の面での良いところを知ってるから……」
「甘いな、校長も。まあ、ブラック家の長男を退学にはできないだろうな」
「……そのことを、シリウスは嫌に思ってるんだよ」

ぼそりと言ったに、セブルスはちらりと視線を投げかける。しかし、はもうこの話題はよそう、と切り換えた。

「セブルス、リーマスのこと、言わないでくれてるんだね」
「……校長に言われたからな」
「ありがとう」
「なんでお前に礼なんて言われなきゃならないんだ」
「リーマスに退学になってほしくないから。それに、……リーマスの痛み、分かるから。    違うな。毎月毎月、耐え抜かなきゃならない苦しみは、計り知れないけど……」

セブルスはもう一度、ふんと鼻を鳴らした。

「僕がそんなことを持ち上げる、卑怯な人間だと思ったか?お前たちじゃあるまいし」
「ジェームズたちだって、人の痛みにつけこむことはしないよ」
「そうか?本当に?」

ジェームズとシリウス。2人が、セブルスを吊るし上げる光景が咄嗟に浮かんできた。は顔を伏せる。

「……昔のことは……前のことは、私も、納得できない。だから、」
「偽善者だな、お前。あいつらから嫌われたくない。だから、あいつらの間違いを正せない。それでいて、僕の前ではそんなことを言う。吐き気がする」

がつん、と何かに押し潰されたような気分になった。セブルスの言うことは、外れてはいない。ジェームズやシリウスは、確かに少々『やりすぎる』ことがある。けれど、人を傷つけるようなことはしない。例外が、セブルスやスリザリンの人間なのだ。ジェームズたちにしてみれば、あれは『いじめ』ではなく『けんか』なのだろうけれど、見ていて心地の良いものではない。あの時は、間違いを間違いだとは言ったけれど、ジェームズたちのそうした行動を諌めることができたのは、少なかった。もし諌めることができていれば、ああしたことは起こらなかったはずだった。

「……成長してないね、私」
「なんだって?」
「ほら、前に、セブルスに図書館で魔法薬学を教えてもらったでしょう?その時、ジェームズたちに間違いを間違いだって言えないこと、悔やんでたのに……」

ジェームズたちからも、セブルスからも嫌われたくはない。自分勝手な私。

「殴って」
「……は?」
「私のこと、殴って」
「馬鹿じゃないのか?」
「吐き気がするって言ったでしょ?きっと、すっきりするよ。私も」
「冗談じゃない。馬鹿馬鹿しい」

セブルスは目を丸くする。しかし、はその隙に、彼の腕を取って、自分の頬に彼の手をぶつけた。
ばっ、という低い音がしたが、あまり痛みはなかった。セブルスは茫然自失する。

「なにを、」
「ああ、すっきりした。これで、もうちょっと改善するかな。私の偽善者ぶりも」
「……馬鹿だな、お前」
「うん」

セブルスは、私の悪いところを気づかせてくれる。
それに、彼は、何だかんだ言っても、リーマスの秘密は口外していない。本当に、人の『傷み』を分かっているのかもしれない。

「……逆に、僕の手が痛い」
「えっ?」

口をぎゅっと結んで腕を撫でるセブルスに、は「ごめん」と笑った。

 

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3周年のリクエストで真理さんから頂いたものです。セブルスとのからみ……ということでしたが……こうした感じが限界で、すみません!時期的には39話の後のあたりの話ですね。 07/10/20