真黒な闇の中。そこから、抜け出せずにいた。
もがいてももがいても、闇は纏わりついて離れない。いや、自分が離さないようにしているのかもしれない。強烈な輝きをもつ光よりも、温かで静かな闇の方が心地良いから。
それに、闇の力は強い。恐怖で人を支配できる。べんりなもの。
だから、いいんだ。ずっと闇と共に生きてゆくんだ。

 

 

「エリック。お前は私の血を濃く引いているようだ」

そう言われる度に、エリックは誇らしい気持ちになった。父親は有名な闇の魔術師で、ニルソン家もスリザリンの名門だった。自分が何をしないでも、相手は自分を畏怖している。へこへこと頭を下げ、言うことを何でも聞き入れてくれる。ホグワーツのスリザリン寮では    時には他の寮の者でも    『ニルソン』の名を聞くと誰もが自分を敬った。エリックは得意になった。これはいい、これは使える。

けれども。いつしか、あるふたつの存在に目がいくようになっていった。
ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラック。
グリフィンドール寮の、同い年の2人。仲が良く、常に共にいた。それでいて、お互いに干渉しあうような、べたべたした仲ではない。相手にへつらうような様子もない。
はじめは、目障りだった。頭が良く、教師からも生徒からも尊敬の的だったふたり。
けれど、次第に胸の中にもやもやとした感情が浮かび上がってきた。

そうだ。俺も、ああいう仲間を作ればいいんだ。共につるみ、行動し、何でも言い合えるような仲間を。
そうして周りを見渡した時、自分がいかに『孤独』であったかを感じた。皆の目線。そこに含まれているのが、『恐怖』や『不安』、『媚び』といったものでしかないことを。


それからは自分の家名が疎ましかった。スリザリンの寮生は、エリックに対して何処かよそよそしい態度を取るか、媚びへつらうかのどちらかだった。前者は、ニルソンの名前を恐れた者の態度、後者はニルソンの名前を利用しようとする者の態度。それが鬱陶しくて、歯痒かった。

もし、俺が『ニルソン家』の者ではなかったら、……?
どうなっていただろう。何かが変わっていただろうか。いや、変わっていなかったかもしれない。
両親は優しかった。しかし、それは自分が長男だから。親は、エリックを家の『名』や『名声』を引き継ぐものとしてしか見ていように感じられた。そのことも、次第にもどかしくなっていった。けれど、家名を棄てることなどできない。もし彼が家名を棄てると言えば、両親は問答無用でエリックを切り捨てだろう。だから、黙って親の期待や血筋に従って生きていた。楽な生き方だったが、充実感はなかった。


それに引き換え、シリウス・ブラックという男。彼のブラック家は、ニルソン家と同じように純血を誇りとする家柄。その長男が、どうしてグリフィンドールにいるんだ。家名に縛られる様子がなく、自由気ままに生きるシリウス・ブラック。彼の周りに集まる友人たち。その姿は、羨ましくもあり、恨めしくもあった。

そして    家も純血を第一としていたはず。その彼女もグリフィンドールにいる。
なぜ?どうして俺だけが?
羨望と苛立ちの考えで彼女を眺めていた。

そして、目に入ってくる彼女の姿を眺めているうちに、彼女の瞳の深さに気づいた。同年代の少女が持っているとは思えない深さ。媚びるような態度をしてきたり、化粧をしたり、グループで固まっていたり。同じ年代の女子は大概がそうで、そういう女子を『女子』と思っていた。しかし、は違う。始めは生意気な女だと思った。はじめて、自分に盾を突いてきた女子。
けれども、周りとはちがう彼女から、視線が離せなくなっていった。そして、    惹かれていった。
でも、彼女は別に想い人がいる。しかし、そのことはたいして気にはならなかった。彼女とどうこうなりたいと執拗に考えてはいなかったからかもしれない。
それに。彼女へは、恋慕の思いと同じくらい、羨望の気持ちがあったから。

親友。口では馬鹿馬鹿しいなんて言っていた。昔はそうも思っていた。
でも、ほんとうは。

ほしかったんだ、そういう『仲間』が。

 

 

ホグワーツ卒業後は、両親に言われるがまま闇の帝王に従った。父と共に死喰い人として働いた。けれども、まさか『彼女』と共に帝王の下に仕えようとは、思ってもみなかった。
いや、あれは『彼女』ではない。フィンスター・。かつて帝王の忠実な僕だった、死喰い人の間でも名の通っていた男。の祖父。奴はの姿をしながら、多くの人間を殺傷した。裏切った仲間たちも、ダンブルドアサイドの人間も。
の姿で、その手を血で汚していくフィンスター。奴を見ていたくはなかった。
どうすれば良いだろう?
そうだ。彼女が親しくしていた者と会えば、何とかなるかもしれない。
いや、そんなにうまく事が運ぶはずがない。
けれども、エリックは賭けた。彼らの絆に。自身が妬み、羨み、もっとも欲していたものに。

そして、は戻った。
これで、良かったんだ、……。


一方、こちら側も荒れた。このままでは帝王に殺されるかもしれない。そう考えた母親は、夫とエリックに死喰い人を脱退するよう勧めた。父親と、そして何人かの死喰い人は共に帝王の下を去ることを決めた。エリックは、ここで死喰い人を抜けては逆に危ない、もう少し耐えるべきだと父親たちを説得したが、両親は逃げ出すことを望んだ。彼らに懇願され、エリックも死喰い人を脱退した。
結局のところ、俺は家を捨てきれないんだ。
それが今回も仇になるだろうとは、薄々感じていた。だから、『覚悟』はしていた。

 

 

「なあ、スネイプ。一つ頼まれてくれないか」

エリックの言葉に、セブルスは案の定眉をひそめた。

「……何だ?」
「伝言」
「誰に?」


セブルスは今度は思い切り顔をしかめる。嫌だ、と口を開きかけたセブルスに、エリックは慌てて言う。

「俺は、もうすぐ死ぬかもしれない」

『死』。その言葉にセブルスは口を噤んだ。

「だから、最初で最後の頼みだと思って、な」
「……に会うとは思わないが」
「それでもいいんだ。誰かに聞いて欲しい」

セブルスはしばらく黙っていたが、やがて何だとぶっきら棒に言った。
エリックは内心ほっとして、口を開く。

 

 

逃げて逃げて逃げたが、やはり帝王の目からは逃れられなかった。
父も母も、気づいたら倒れていた。
エリックは、杖を構える。
そうして、目を閉じた。

あいつに『伝言』は届いただろうか。
恐らく、彼のことだ、きっと彼女に会えたことだろう。

不器用な彼女。そのせいで苦しみもしたはず。けれど、彼女には支えてくれる人がいる。彼女が心を開けば、受け入れてくれる仲間が。
だから、いつまでも後ろを向いていないで、前を向け。
俺ができなかったこと。お前なら、





もし自分の一言が、何かのきっかけになってくれれば。
自分の生きた証になるような気がする。

そうすれば、
きっと、

しあわせだ。

 

TOP
サイト3周年記念に、Meiさん、三葉さん、匿名さんから頂いたリクエストです。エリック、予想外に好いて下さる方がいて嬉しく思っています^^ リクエスト、ありがとうございました。 08/1/7