溜まり場にしていた湖畔、教室、廊下、広間。ホグワーツの何処を見ても、彼らの面影がある。
そういえばここでリリーとこんな話をしたっけ。
そういえばジェームズがここでこんな悪戯をしていたっけ。
思い出の方から、に声をかけてくる。
だから、ここでの生活は少しばかり辛い。

 



呼ばれて、振り返る。しかし、積み重ね抱えた本のせいで相手の顔が見えなかった。けれども、声で誰かは分かる。この本の山の先には、恐らく黒髪の背の高い魔女が立っているのだろう。

「大丈夫ですか?ああ、マダム・ピンスは随分な重労働をあなたに与えたようですね」

声の主はそう言って、の顔が見えるように隣へ並んでくれた。

「大丈夫です、マクゴナガル先生。仕事ですから」
「そうですか?これから授業でなければ、手伝って差し上げたいところなのですが」
「いえ、お気持ちだけでありがたいです」

マクゴナガルと話す時はどうしても緊張してしまう。今も声が少し裏返ってしまった。学生時代から未だに直らない。

    。今夜、夕食後、お茶でもどうですか?」
「私、ですか…?」

体勢を崩しかけたが、何とか堪えると、マクゴナガルはええと頷く。

「もちろんです、是非宜しくお願いします」
「では、夕食後に、私の事務所まで来て下さい」

はいと勢いよく答えると、本を落としそうになって、はよろけた。

 

 

夕食を控えめに取って、マクゴナガルの事務所へ行くと、彼女は机の上に2つのティーカップとポット、クッキーを用意して待っていてくれた。

「よく来てくれました。掛けて下さい」
「失礼します」

は微かに震える手で椅子を引き、腰掛けた。マクゴナガルは杖でポットを叩き、魔法で紅茶を注ぐ。ありがとうございますと言い、は宙を漂って来たカップを受け取った。レモングラスのような爽やかな香りがする。

    思えば、こうして2人きりで話すことはありませんでしたね」

向かいに座るマクゴナガルは言った。

「ええ」
「どうです、ここでの生活は?」
「楽しいです。やり甲斐もあるし。学生生活の延長のような感じもしますが」
「……けれど、辛いのでしょう?」

マクゴナガルはどこか探るような視線をに向けた。はカップから目を離し、マクゴナガルに移す。マクゴナガルは続けた。

「色々と思い出してしまうこともあるのでは」

もしや、だからお茶に誘ってくれたのだろうか。
私、そんなに辛そうな顔をしてた覚えはないんだけどなあ。
マクゴナガルの長年の教師としての勘、だろうか。

「……そういう時も、あります。でも、立ち止まってばかりもいられませんから」

そう。前へ進むしか、道はないから。一度止まってしまえば、歩き出すのは難しいだろうから。

    。あなたがここで働くことは、酷なことだとは思っています。けれども、だからこそ、あなたがここにいる限り、私たちは力になれますから、ね」

ははっとした。
そうだ。私は、失った人のことばかりを考えていた。
両親。最愛の親友たち。遠くに去ってしまった人。
彼らを想う気持ちは大切にしていきたい。けれど、もっと周りをよく見るべきなんだ。こうして自分のことを気にかけてくれる人がいる。

「ありがとうございます、……」
「私にできることがあったら、何でもおっしゃいなさい」

自分にも他人にも厳しくて、でもとても温かい。ミネルバ・マクゴナガルという人物が好きだと、今一度思った。そして、彼女と同じ場所で働けることを、幸いと思おう、と。

    それなら、一つお願いがあるんです」
「何です?」
「先生がお暇な時には、またお茶に誘って下さいますか?」

もちろんです、とマクゴナガルは包み込むような柔らかい表情になる。その笑みに、も顔の筋肉が緩んだ。

「さあ、冷めてしまいますよ」

は微笑み、レモングラスの紅茶に口をつけた。
温かいものが、喉を通って身体全体に伝わっていった。
この温もりを、忘れないようにしよう。
そして、それをここにいる大切な人にも感じてもらえるように。

 

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08/1/7