ふくろう便を交わし合って、会うことになった親友。たったひとり、傍にいる彼。暫くぶりに会ったリーマスは、随分やつれて見えた。職に就くことに骨を折っているのか、人狼化の影響なのか、それとも大切な人を失った傷が癒えないのか。
最後の理由だとしたら、私も憔悴した顔をしているのかなとは思った。
ダイアゴン横丁、オリバンダーの店近くの喫茶店で、2人は食事をすることにした。
彼と最後に会ったのは、1年前。その月日の隔たりはあれ、リーマスと過ごす時間は、かつての雰囲気のままだった。穏やかで、優しい時間。けれども、彼はまた少し大人の落ち着いた印象が増したように思える。
私はどうなのだろう。この身体は、まだ成長しているのだろうか、……。
「どう、ホグワーツは」
リーマスは運ばれてきた紅茶に口をつけ、尋ねた。
「変わらないよ、何も」
「そうだろうね。は普段、どんなことを?」
「うーん……先生方の雑務を手伝ったり、かな。ハグリッドに頼まれることが一番多いけど」
「へえ。教師をしてるわけではないんだね」
小皿の上に山盛り積まれたチョコレートを一粒摘まんで、リーマスは言った。彼が美味しそうに口元を緩めたので、も一つ口に入れる。成程、ほど良い甘さで、柔らかいチョコレートだった。
「私なんか、教えるの向いてないよ」
「そんなことはないと思うよ。ほら、昔、魔法史教えてもらったじゃないか。分かり易かったよ」
懐かしさと恥かしさが込み上げてきて、は苦笑した。
「歴史は、教え易かったから。リーマスこそ、教師に向いてると思うけどなあ」
彼なら生徒にも好かれるだろうなとは思った。適切で分かりやすい解説。優しい性格。人狼という彼の境遇がそれを妨げているが、彼は教師という職業に合っている。
「そうかな」
「そうだよ」
リーマスも苦笑して、再びチョコを口に放り込む。
「……リーマス、相変わらずチョコ好きだね」
「え?ああ、うん。このチョコ、美味しいんだよ。何処のだろう」
じっとチョコの山を見つめるリーマスに、はくすりと笑う。
「私の分も持って帰っていいよ」
「そうかい?じゃあ、遠慮なく」
リーマスは何処か悪戯っぽい笑みを浮かべる。彼は、ときどきこういう風に笑う。たぶん、彼の親友のせい。
何だか、へんなかんじだなあとは考えた。久しぶりにリーマスと会ったのに、その『久しい』という実感がない。昨日一昨日にも会っているような感覚。かつてホグワーツにいたあの7年間は、毎日のように顔を合わせていたからかもしれない。
でも、いざ明日になってみると、彼に会えないことが寂しくなるのだ、……。
「そういえばスネイプもホグワーツにいるんだって?」
「ああ、……うん、そう。魔法薬学の教師なの」
「へえ。うん、ぴったりだね。彼が教師なんて意外だと思ったけど」
「私もそう思った。でも意外にしっくりくるのよ。セブルスがレポートを添削してる姿」
「是非見てみたいねえ」
リーマスも、ホグワーツに来たら?その言葉が、喉から出かかる。
ホグワーツでの生活はやりがいもあるし、楽しい。けれども、何処にいても、彼らと過ごした日々が、思い出が溢れてきて
「?」
ぼうっとしていたは、リーマスに呼ばれ我に返る。
「あ、うん、ごめん……なに?」
「
彼の言葉にどきりとする。ショックだったから、ではない。自身の思いと似たものでもあったから。
「どうして?」
「君も分かっているだろう?」
たったひとり残った親友。その存在は確実に支えになっている。けれども、こうして実際に顔を合わせてしまうと、幸せだった日々をありありと思い返してしまう。そのことが、辛い。
「リーマス、」
「その指輪、シリウスからのだろう?」
リーマスは、が首から提げたリングを一瞥して言った。
「……そう」
「君はまだ、信じてるんだね」
「リーマスは違うの?」
「信じたいさ。でも、信じるべき証拠もないだろう?」
「証拠がそんなの大切?」
「大切さ。今の僕には」
親友を信じたい。けれども、もし本当にシリウスが裏切ったのだとしたら、信じた分だけ辛くなる。リーマスの中にも葛藤があるのだろう。
の中には、時折揺らぎはするが、一本の芯があった。あの日、最後に会ったシリウスの言葉、表情、瞳、仕草。そして、この指輪。そのすべてが、にとっては『証拠』だった。けれども、もしそうでなかったら、リーマスと同じような思いでいただろう。
「そう、……だね。私も、自分の意見を押しつけたくないから
「うん。……ありがとう。変わらないね、は。少し……いや、すごく、ほっとしたよ」
「うん、私も。リーマスも変わらないよね。チョコ好きなのは、相変わらずだし」
そうだねとリーマスは笑みを浮かべた。
「変わらないさ。僕らの絆も、関係も、ね
絆。はその言葉を胸中で反芻させる。リーマスは間を置いて続けた。
「僕はそれを信じている。だから、と僕が同じように抱えている傷がもう少し癒えるまで、会うのはよそう」
それがいい。会わずとも、彼の存在を感じられる。下手に顔を合わせて、お互いの傷を確かめあって、顔色を窺うのは嫌だ。きっと、いつか時が傷を癒してくれる。その日まで。
「そう、だね」
でも。でも、やっぱり、寂しいよ。
「そんな顔、しないで。手紙、書くからさ」
「……うん」
心から、自然に笑うことができるようになったら、再会しよう。
「忘れないで、。君の存在は、本当に僕の中で大きな支えになっているんだ」
「私もだよ」
リーマスはそっと笑みを浮かべる。も口元を緩めた。
約束の笑いに少しだけ近いものを浮かべることができたような気がした。
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08/1/7