夜空は金の砂を散りばめたように、きらきらと輝いていた。その星々は、降り注がんばかり。手を伸ばせば掴み取ることができそうなくらいに、近いように感じる。
でも、決して届かない。
だからこそ、憧れるのだ。
そう言葉を交し合った夏の夜は、遠い昔のことのようにも、昨日のことのようにも思えた。
は窓を開け、空に向けて手を伸ばした。
本当、小さな存在なんだ。私たちなんて。
でも、小さいからこそ、悩み、苦しみ、傷つき、恐れる。
もし、私が星を手にすることができたら。そのちからがあったら。
ちがう。欲しいのは、力じゃない。つよさなんだ。
この、胸を突き上げるような痛みに耐えることのできる、強さ。
願いを叶える流れ星は、待っていてもやってきそうにない。
それならせめて、この祈りを届けてほしい。
もし、彼が、遠い空の下、この星を見ていたのなら。
シリウスはふと目を開けた。
ここアズカバンの独房では、昼は気の狂った囚人たちの呻き声が聞こえてくるくせに、夜は恐ろしささえ覚えるほどの静寂に満ちていた。
僅かな石壁の隙間から、夜風の冷たさと月明かりが入り込んでくる。今夜は満月なのだろうか。もしそうなら、あいつは苦しんでいるんだろうなと、シリウスは考えた。
どうしてるかな、リーマス……。
シリウスは頭をこつんと冷たい壁に打ちつけた。頭痛がおきそうな冷たさだった。
夜は目覚めたくはなかったのに。耳障りな叫び声が鳴り止まない昼間の方が、まだ良かった。
夜はいやだ。視覚や聴覚に動きがない分、余計なことを考えてしまう。
失くしたひとたちのことを、思い出してしまう。今のように。
ジェームズ。リリー。ふたりはもうこの世にはいない。
ピーター。裏切り者。かつては親友だった男。
喪失感や虚無感がこみ上げてきて、シリウスは目を閉じた。
けれども、幸いなのは、その2人の息子が生き残ってくれたこと。彼がこの空の下で元気に育ってくれているなら、ジェームズとリリーも微笑んでいることだろう。いや、それ以上に、自分が救われている。
容姿はジェームズに似ているのだろうか、それともリリーにだろうか。どちらに似たにせよ、きっとやんちゃな子に育っているだろうな。そう考えて、シリウスは笑みを漏らした。
そして。たった一人残った友が、生きていてくれるなら。リーマス。疑っているだろうか。
それでも、いい。この世界にいてくれるなら。
『シリウスまで、…………行かないでよ』
シリウスははっと目を開けた。
不意に、彼女の声が脳裏に蘇ってきて、胸の中がざわりと疼く。
彼女のことは思い出したくなかった。思い出さないようにしていたのに。
悩みに悩んだ末に、導き出した想い。一度は封じ込めた想い。再びそれを認識した時には、大きく膨らんでいた。
もう彼女の声を聞くことはできないかもしれない。もう彼女に触れられる日は来ないのかもしれない。
いや、いいんだ。
彼女も、生きてさえいてくれれば。幸せでいてくれれば。たとえ他の男を好きになろうとも。
でも。
できることならば
敷き詰められた石の壁。そこに空いた隙間からふと空を覗き見る。
そこには星が流れるように輝いていた。
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08/1/7