人の想いはうつろう。時はめぐる。
音楽にのせて。
ワルツのように、優雅に。
マーチのように、勇ましく。
私の想いは、どこに辿り着くのだろう。
辿り着ける場所が、あるのだろうか。
♪ファンタジアにのせて
「なぁ、、お前のことが好きなんだってよ」
「えー?ー?俺、あいつに興味ねーなあ」
「うわ、かわいそー。プリシラだったら?オッケーか?」
「ああ、プリシラだったら即オーケー!」
ぎゃははという男子の笑い声が教室の中に響く。はそのやり取りを、部屋の外でぼんやりと聞いていた。
「いい加減、誰にでも優しくすんのやめろよ」
「だってさ、“保険”はたくさん作っといたほうがいいだろ?」
「けど勘違いされる場合だってあるだろ、みたいに」
「そーだけどさー」
続きの言葉を待つ前に、は一目散にその場を逃げ出した。
彼らの言うとおり、彼のことが好きだった。ハンサムだし、の前では優しかった。人気者だからライバルも多かったが、陰でから彼のことを見ているだけで良かった。
それだけで、よかったのに。
彼らの言葉を聞いて、の中で何かが壊れてしまった。ふっ、と。突然の停電のように。ろうそくの炎が吹き消されたように。の中の何かが消えてしまった。
ひと言で言うならば、恋愛恐怖症。少し、男性恐怖症でもあったと思う。
誰かを好きになることが、怖かった。
また「興味がない」なんて言われたら。嫌われたら。そう考えると、足がすくみあがってしまいそうになる。
それに、目につく男性は
傷ついたり、悲しんだり、腹を立てたり、嘆いたり。
恋をする意味なんて、あるのだろうか?
はこのときから、人を好きになることをやめた。
恋愛に代わるものがあったから、それでいいと思った。それのために生きてゆける、そういうものがあったから、恋愛なんていらない、と。
そう。
私には、
♪
「、折り入って話があるんじゃ」
アルバス・ダンブルドアに呼ばれて立ち止まったは、なんでしょうと首を傾げた。ダンブルドアの淡いブルーの瞳が優しく揺れる。はこの目が好きだった。
「じつは、防衛術の新しい教師のことで、の」
『闇の魔術に対する防衛術』。ホグワーツにおける、生徒が学ぶべき教科の一つ。この二年の間で、その担当教師が連続して辞めていく、という事態が続いていた。
「良い教師が見つかったのじゃ。彼が近々ここを訪れるであろうから、教室と事務室の掃除と、彼の引越しの手伝いをして欲しい」
「ええ、喜んで」
は微笑む。ダンブルドアも同じ笑みを返した。
は、本当は呪文学の教師を目指していた。自らの寮監でもあり、呪文学の担当教師でもあったフリットウィックに憧れてその職を志したが、試験で失敗してしまった。ダンブルドアいわく『惜しかった』らしい。ただ、当時ホグワーツにおいて事務をこなす人間がいなかったため、とりあえず事務職としてホグワーツで働けることになった。
マグルだった。けれども、11歳のある日、一通の手紙が届いた。ホグワーツ魔術学校から。入学を許可する、と。
はじめはなんの冗談かと思いきや、両親はホグワーツに入った者を知っていたらしく、の入学を薦めてくれた。
幼い頃からピアノを習い続けていたは、音楽関係の仕事をすることが夢だった。けれど、ピアノは環境が変わっても続けられる。しかし、魔法学校へはこの機を逃しては入れない。
魔法。憧れない子どもがいるだろうか。
はすぐに、ホグワーツ入学を決めた。
しかし、それからもずっと、ピアノは続けていた。趣味として。大切なひとときとして。
ホグワーツに入ってからも、大好きな音楽に触れる機会は減ることはなかった。フリットウィックが楽団を主宰しており、もそこへ入った。他の生徒の前で演奏することもあった。
魔法に音楽に囲まれて過ごした学生時代はとても充実していた。
恋愛恐怖症になるような“あの”出来事があったときも、音楽が癒してくれた。
こうして教師を目指しながら事務をしている今でも、ホグワーツという城はとても居心地が良かった。
色恋沙汰を気にする必要もない。友人によれば、他の職場ではそうしたことが話題になったり揉めたりすることがしばしばあるらしい。
しかし、ここではその心配は無用だった。素晴らしい教師たちに囲まれている。このダンブルドアも、その一人。
良い職場に恵まれ、音楽を聴き、ときおり奏でる。それだけで、充分な日々だった。
「ええと……その先生の名前は、なんていうんですか?」
が訊ねると、ダンブルドアは噛み締めるように答えた。親しい者の名を呼ぶように。
「リーマスじゃ。リーマス・ジョン・ルーピン」
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07.9.11
♪
いつかやってみたかったルーピン連載。いつか書いてみたかった音楽の話。音楽って『聴いてこそ』のものだから、描くのはとても難しいです。