『ラバーズ・コンチェルト』。バッハのメヌエットをジャズ風にアレンジした曲。
冒頭の美しいヴァイオリンとギターの音色。そして、ドラムの軽快なテンポで曲がはじまってゆく。ギターとドラムの軽やかなリズムにのせ、伯父の低い声がしっとりと歌い上げる。それに合わせ、もピアノの鍵盤を叩いていく。陽気でテンポの良い曲だが、恋人たちのさわやかに愛し合うようなさまが目に浮かんでくる。ヴォーカルジャズで、が一番好きな曲だった。
ああ、本当に、気持ちが良い。
こうやって、リズムの波にのって、音階を奏でてゆく。ときにメンバーがアドリブを入れ、それにどう合わせるかを楽しむ。

『音楽の中に幸せを見出すことは運命によって決められていたのです』。そう言ったのは、マーラーの妻、アルマ・シントラー=マーラー。彼女の言うことが、本当に身に染みる。

音楽があったから、私はいまここにいる。
音楽があったから、出逢えた人がいた。

それを、たくさんの人にも感じてほしい。
その、願いをこめて。

 

 

「さまになってたよ、
「本当?」
「ああ。とても良かった。のソロも良いけれど、こうやってバンドとの演奏も素晴らしいよ」
「光栄です」

誰もいなくなったライブハウス。舞台の上にいるのは、ふたりだけ。

「初舞台のお祝いとして」

リーマスはポケットの中から杖を取り出し、振った。どこからともなく花束が現れる。ブルー系の花とカスミソウの花束。そうしてリーマスは、それをピアノの前に座るに手渡した。

「きれい……ありがとう」
「どういたしまして」
「私、花束をもらうなんてはじめてかもしれない」
「これからはきっと、たくさんの人からもらうよ」
「そうだといいけどね」

は曖昧に口元を緩めた。
けれど、花をもらって一番嬉しい相手は、あなたかもしれない。

「でも、魔法、使っていいの?」
「もちろん、内緒にしておいてくれ」

リーマスは悪戯っぽく笑ってみせる。もくすくすと声を出して笑った。

「そういえば、この前会った時、ダンブルドアもフリットウィックも寂しがっていたよ」
「そっか……ホグワーツのことは、ちょっと心残り」
「またいつでも帰ればいいさ。母校だろう?」
「そうね。それは変わらないものね」

あの魔法学校。あそこで失ってしまったものもあったけれど、得られたものはとてもとても大きく、かけがえのないものになった。でも、その時も、常に音楽が傍にいてくれた。

「ねえ、リーマス。音楽って、時間も越えるのね。何百年前の音楽でも色褪せないで残っている。魔法使いもそうでない人も音楽を愛する心は同じだって伯父さんは言っていたけど、音楽は、時間も国も言葉も越えることができる」
「君が良い例だね」
「私が?」
「そう。私にとっては、君が時間を越えて音楽を運んで来てくれたんだ」
「なんだか大袈裟じゃない?私は、何も」

リーマスは首を横に振った。
君が教えてくれた音楽のお陰で、辛かった日々も乗り越えられた。
思い返すと、しみじみと、そう思うよ。

「感謝しているよ、
「うーん…………どういたしまして」

リーマスは、右手を差し出してきた。は花束を左腕に抱え、立ち上がり、リーマスの手を握った。そっと微笑みながら、リーマスは柔らかく握り返してくれる。

「これからは握手の仕方も練習しておかなきゃ、なんてね」
「サインの仕方もね」
「それくらい大物になれればいいけど、あまりそうなるつもりもないなあ。ただ、伯父さんたちと音楽ができれば、それだけでいい」
「でも、伯父さんにもファンは多いだろう?」
「そうね。私も含めて。伯父さんの音楽が、とても好き」
「分かるよ」
「というよりも、音楽そのものが、かな」

でも。でもね。
少しばかり躊躇って、は口を開いた。

「同じくらい、大切なものができた。それまで音楽しかなかった私に、リーマスは教えてくれた」

恋をすることができなかった私に。もう誰かを愛することができないかもしれないと思った私に。

「人を好きになること。だから、    私の方も、ありがとう」

あらためて言っておきたかっただけ。だから、それ以上続けるつもりはなかった。
けれど、    
リーマスは握手をしていた右手を離す。かと思うと、その手をそっとの背に回した。
狭まるリーマスとの距離。思わず、花束を落としてしまった。


「あの曲」


すぐ耳元で、リーマスの声がする。優しい声。
リーマスはそっと、やさしく、腕に力をこめた。


「……うん?」
「最後の曲」
「『ラバーズ・コンチェルト』」
「良い曲だね」


『あなたの腕で わたしを抱きしめて』


「私も、……好きな曲」
「歌詞もきれいだね。詩的で」


『そうしてもういちど 愛しているといって』


「バッハのメヌエットだよね、原曲は」
「そう。子供の頃、一番はじめにきちんと弾けた曲なの」


『もしあなたの愛がほんものなら』


「私もピアノを弾いてみたいなあ」
「教えてあげようか。リーマスには才能、ありそう」
「……やっぱり、聴く側の方がいいな。君のピアノが好きだから」


『すべてが かがやくでしょう』



「それに、    

 

 

この溢れる想いを
音楽にのせて

そしてその想いをあつめれば

『ファンタジア』    

 

 

fin

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07.12.15
♪『ラバーズ・コンチェルト サラ・ヴォーン』