は、時折、フリットウィックやハグリッドの頼みでダイアゴン横丁へ赴くことがあった。そして、幸い、望んでいた時期にその機会に恵まれた。
12月。肌に触れる空気がひんやりとしているが、人々の熱気は1年でもっとも高いように思われた。
フリットウィックの依頼で仕入れたものを抱えて、は横丁を滑り出してロンドンの街へ赴いた。
街はすっかりクリスマス一色に染まっていた。ショーウィンドウには、玩具やクリスマス・ツリーやアクセサリーが工夫を凝らして飾り付けられている。
は電話ボックスに入った。久しぶりだなあ、こうやってマグルのものに触れるのは。
受話器を取り、慣れた手つきで番号に指を滑らせる。出てくれるだろうか。至極気まぐれな人だから。
でも、どうか、    

 

「伯父さん、一生のお願い!」
「ええ?そりゃまた、突拍子も無い話だなあ」
「そういうの、好きでしょう?」

尋ねると、躊躇いもなく、「ああ」という言葉が笑い声と共に返ってきた。
伯父の低い声。この声で、歌を歌うこともある。ずっしりとした重い声も、裏声も、伯父は歌が上手かったけれど、歌うも歌わないも本人の気まぐれだった。彼の周りに集まった仲間は、彼と同じように音楽を愛し、それぞれの楽器を持ち寄ってバンドを組んでいた。しかし、公式的なものではなく、あちこちで演奏会を開いたり、レコードを出したりすることもあるが、それらはすべて本人たちの『気分次第』だった。類は友を呼ぶ。伯父の周りに集まった仲間も、気まぐれな性格だった。
けれど、彼らの演奏は本当に素晴らしい。ピアノをメイン楽器とし、ボーカルを務めることもあり、一応バンドのリーダー的存在の伯父。そして、サックス、トランペット、ドラムなどを奏でるメンバーもいたが、彼らもそれらの楽器だけでなく、ギター、ベース、ヴァイオリン、フルート、ボーカル、様々なものを演奏できた。そう、彼らは気まぐれだが、『音楽』を愛していた。大々的に活動しているわけではないが、ファンもいたし、もその一人だった。

「まあ、1日で往復できるなら問題ないさ。けど、そっちは大丈夫なのか?部外者なんかを入れて?」
「大丈夫……だと思う。校長は……たぶん……」
「ふうん。いいよ。そっちが良いっていうなら、俺の方は問題ない」
「え、本当!?」
「魔法学校だろ?なんかわくわくするなあ」

伯父はうっとりとした声で言った。受話器の向こうから、微かにサックスの音が聞こえてきた。クリスマス・ライブの練習中だったのだろう。伯父に無理を言ったな、と分かってはいたし、気を揉んでいたが、伯父の息は弾んでいた。は少しだけほっとし、「じゃあ、よろしくね」と言った。

「ああ。それじゃあ、詳しい時間は、またな」

声の繋がりを断とうとする伯父を、は慌てて「待って」と引き止めた。

「あと2分、受話器、そのままにして、そこに置いておいて」

『A列車で行こう』。軽快なサックスの響きを、もう少し胸に響かせておきたかった。

 

「ダンブルドア先生、折り入ってお願いがあるんです」

勝手な考えだとは承知だ、浅はかな知恵かもしれない、と前口上をいくつか述べた後、本題に入った。部外者を学校に入れることを、ダンブルドアは拍子抜けするほどあっさりと了承した。念のため、とその場でフリットウィックやマクゴナガルに話を持ちかけてくれたが、彼らも了解してくれた。フリットウィックは喜んで返事をしてくれた。

「クリスマス・イブ・パーティじゃのう。だが、一つだけ条件を出させてくれ」

なんでしょうか、とは唾を飲み込んで返事をした。

「生徒たちもわしら教師たちにも、聴かせて欲しい。是非、頼む」

ダンブルドアは半月形の眼鏡の奥で、ぱちりとウィンクをした。

 

クリスマス・イブ。黄金色に輝く星のついた12本のクリスマス・ツリー。それらに囲まれて、大広間にはホグワーツに残った生徒たちが僅かばかりと、教師たちが一つの机に座っていた。ルーピンの顔色はやはり冴えなかったが、明日のクリスマスの食事に出られぬ分と、その場に出席していた。
その様子を陰で眺めながら、は不安と期待に駆られていた。ダンブルドアの提案によって、ルーピンだけにでなく、皆に演奏を聴いてもらうことになったが、みんな、喜んでくれるだろうか。
けれど、の中では期待の方が大きかった。伯父は何を演奏するのか、どんな演奏をするのか。久しぶりに、伯父たちの演奏を『生』で聴く。その喜びと胸の弾み。
みんなも気に入ってくれると良いな、……。

伯父は数時間前にやって来て、調整を行っていた。伯父だけでなく、バンドの仲間5人も来てくれた。皆ホグワーツの景観に圧倒されており、来て良かった、と言ってくれた。は。バンドのメンバーとも親交があった。の幼い頃から、気まぐれな伯父に付き合ってあちこちを旅し、演奏して回る仲間たち。伯父同様なのか彼に影響されたのか分からないが、彼らも変わった性格だった。それが堪らなく心地良かった。彼らの奏でる音楽は、最高だった。彼らの、音楽に対する『愛情』が、音になって現れるのだ。
ホグワーツの人々も、少しでもそれを理解してくれれば。

ロンドンでの12月25日のライブ。それに出席できなくなってしまったと理由を話し、駄目だろうと半ば諦めながら、24日にホグワーツで演奏をしてくれないかと頼んだ。伯父は快諾してくれた。明日はロンドンで演奏しなければならないというのに。

「伯父さん……ごめんね、ありがとう。わがままに付き合ってくれて」

控え室として提供された教室で、は伯父に囁いた。

「いいや。音楽を必要とする者のところへなら、世界の果てだって行くさ」

まるでヒーローにでもなったかの口調。

「魔法学校に来ることになるとは、思ってもみなかったけどな」

でも最高の経験だ、と伯父は言った。

 

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07.9.27
♪『A列車で行こう』
伯父さんがですね、描いていて、お気に入りになりました。こういう人が傍にいたらなあ。