「私、ジェームズ・ポッターって好きになれそうにないわ」

リリーはベッドにどさりと腰掛けながら、    嬉しいことに、とリリーは同じ部屋だった    不機嫌そうに言った。

 

07. CLOSE to you
一歩一歩、恐る恐る、ゆっくりと

 

「彼は典型的な格好つけたがりやのタイプよ。見た?女の子たちに囲まれてる時の彼の顔。得意気で、髪なんて弄っちゃって」

が口を挟む間もなく、リリーは早口で語った。余程ジェームズ・ポッターという人がお気に召さなかったらしい。も、リリーの向かいにある自分のベッドの上に腰を下ろした。
そう、かなあ。そうかもしれない。女子に質問攻めにあった時のジェームズの顔。はにかみながらも嬉しそうだった。一方、シリウス・ブラックは始終しかめっ面で口を閉ざしていた。意外。ああいうハンサムな男の子は、みんな図に乗るタイプだと思っていたのに。もっとも、内心では喜んでいたのかもしれない。
ともかく、彼らが苦手なタイプかもしれないという点では、の考えはリリーと調和していた。

「たしかに、そうかもしれないね……私も少し、苦手かも」
「でも、知り合いなんでしょ?」
「ダイアゴン横丁でね、一緒に杖を買ったの。その時は明るくて気さくな男の子だなとは思ったけど」
「そうなの。あ、でも、気をつけた方がいいわよ」
「何を?」
「気づなかった?が、ポッターやブラックと話してる時の女の子たちの視線。恨めしそうな感じだったわ。女って、嫌ね」

リリーの言い方が可笑しくて、はくすくす笑いながらそうだねと答えた。

「でも、大丈夫だと思うよ。私と彼は、あんまり合わないだろうし……親しくならないと思うな」

明るいジェームズ。きっと人気者になることだろう。一方で、人見知りの。どう考えても、親しくなる余地はない。でも、それなら    リリーとも、そうかもしれない。たまたま列車の席が同じで、今は親しく話している。でも、彼女も明るくて可愛いから、きっと人気者になる。そうして、から離れてゆくだろう、……。

 

初めての授業。初めての魔法。その授業は『妖精の魔法』で、担当はフリットウィックというかなり小柄な教師だった。覚えた呪文は『ルーモス』と『ノックス』。基礎の基礎の呪文だけれども、自分で杖を振る心地や、杖先に光が点った瞬間などは堪らなく嬉しかった。
それから、変身術、魔法薬学、薬草学、飛行訓練、闇の魔術に対する防衛術……など、様々な授業を受けた。そのいずれもが楽しくて、新しい知識や技術が身についていくことが感激で。特に、飛行訓練で箒に跨った瞬間などは、えもいわれぬ心地がした。
そうして、ホグワーツに入学して3週間が経った。そして、いくつかの発見があった。
まず、ジェームズとシリウスは頭が良いということ。どんな授業でも、2人が教師の質問に答えられないということはなかった。そしてこの2人、とりわけシリウス・ブラックは既に女子の間で噂の的だった。同級生だけでなく、上級生からも注目を集めていたけれども、当の本人はそんなことを気にかける様子は全く見せず、相変わらずそのことがにとって予想外のことだった。
そして、彼らにピーター・ペティグリューという小さな男の子と、リーマス・J・ルーピンを加えた4人が一緒にいることが多かった。その一方で、彼らとセブルス・スネイプの仲は最悪だった。スリザリンとはいくつか合同授業があったが、ジェームズとセブルスの2人は目を合わせるなり睨み合っていた。

 

ある朝、皆の元にふくろう便が届くのをぼんやりと眺めながら、はトーストを頬張っていた。ふくろうを持っていないので手紙が来ないのは当然だけれども、どこか寂しいものがある。とは言っても、ふくろうを持っていても送ってくれる人なんていないのだ。両親は、もう    
リリーにはこの2週間の間に2度も手紙が来ていた。今朝のものも含めると3通。全て両親かららしい。

もふくろうを買ってもらえばよかったのに」
「ああ……うん」

曖昧なの返事を、リリーは既に聞いていなかった。手紙の内容に夢中だった。
もし    もし両親が生きていたら、こうして手紙を送ってくれたことだろう。元気でやってる?授業は楽しい?そうして、胸を弾ませながら返事を書く。うん、楽しいよ。新しい魔法を覚えたの、……。
両親の不在は相変わらずに大きな痛みを残していたが、それがあまりに大き過ぎるせいか、時間が経ったせいか、悲しみに暮れることはほとんどなかった。こうして、胸にぽっかりと開いた穴に風が吹き抜けるような心地がするだけ。
嬉しそうなリリーの横顔をぼうっと見ていると、ぱたぱたとの元にふくろうが舞い降りてきた。手紙を持っている。

「あら、、手紙?」

手紙?そんなはずがない。間違いではないだろうか。しかし、この大きなふくろうはに手紙を受け取ってもらうのを待っているようにをじっと見つめていた。ふくろうから手紙を取ると、封筒には『へ』と書かれていた。

『今日の午後は授業が休みだと聞きました。宿題などすることがなければ遊びに来ませんか。ふくろうに手紙を持たせてください。ハグリッドより』

ハグリッド。嬉しさで思わず声を上げそうになる。丁寧な文面だったけれども、字はお世辞にも綺麗とは言い難いが、そこにハグリッドらしい温かさがこもっているような気がした。

「誰から?嬉しそうな顔をしてるけど」

いつの間にか手紙を読み終えていたリリーは、に視線を向けていた。

「ああ……ええとね    あっ!リリー、今日の午後、暇?」
「え?ええ、薬草学が休みだから」
「それなら、一緒にハグリッドのところに行かない?」
「ハグリッド?」
「そう。入学式の時に、船に乗せてくれた人」
「ああ、あの大きな人ね。森番、だったわね」
「そう。お茶でもどうか、って」
「え……でも、を誘っているんでしょ?」
「ハグリッドも、人数は多い方が喜ぶと思うよ」
「本当?……それなら、私もいい?」
「うん、もちろん」

『よろこんで』と紙に書いて、はそれをふくろうに持たせた。

 

こんこん。大きな戸をノックすると、どすんどすんという足音と共に、「、お前さんか?」という声が聞こえてくる。うんそうだよと答えると、扉が開き、巨大な人影が姿を現した。

「久しぶりだな、!元気だったか?まあ、中に入れや」

ハグリッドは両手を広げるが、のやや後ろにいる少女に気がつき、首を傾げた。は彼女のことを紹介しようと口を開きかけるが、その前に彼女自身が口を開いた。

「こんにちは。の友達で、リリー・エバンズといいます」

    友達。何とはなしにリリーは言ったのだろうけれども、その一言がの胸に深く染み入った。

 

ハグリッドに招き入れられ、とリリーは小屋の中に入った。殺伐とした部屋だったが、不思議と居心地の悪さはなかった。

「まあ、その辺に座れや。今、茶でも出すからな」

ハグリッドは部屋の奥へ行き、コップを2つ引っ張り出し、とリリーの前へ差し出した。それを受け取り、2人はイスに腰掛ける。

「リリー、だったな。船で会ったな?」
「はい、そうです」
「いやいや、敬語はやめてくれ。この辺りがむず痒い」

ハグリッドが腹を擦ると、とリリーは笑った。

「授業はどうだ?難しいか?」

ハグリッドは2つのカップに紅茶を注ぎながら尋ねる。

「ありがとう。授業は、すごく楽しいよ。私もリリーもマグルの中にいたから、途惑うことも多いけど」
「そうかそうか」

ハグリッドは自分のカップにも紅茶を注ぎ終えると、テーブルの中央にクッキーのような丸いお菓子の入った皿を置いた。

「食べろや」
「ハグリッドの手作り?」

ハグリッドは得意気にまあなと言って、鼻の下を人差し指でぐいぐいと擦った。
いただきます、ととリリーは同時に手を伸ばし、クッキーを口に入れる。がりっ、と氷を噛んだような音。思わず硬い!と声を上げてしまいそうになったが、ハグリッドがにこにこ笑みを浮かべていたので、無言で食べた。歯が折れないようにと祈りながら。隣のリリーをちらを横目で見やると、彼女も複雑そうな笑みを浮かべながらクッキーもどきを口にしていた。味の感想を聞かれる前に何か言わなければと考えていると、リリーが口を開いた。

とハグリッドは、いつからのお知り合い?」

とりあえずクッキーの感想を言うことは免れたけれども、別の問題が降りかかった。リリーの問いに答えるには、初めから全部話さなければならない。ハグリッドも、あーと口ごもりながら、にちらちらと視線を送る。このままでは、怪しまれてしまう。

「私のお父さんがね、ハグリッドの後輩で。ねえ?」
「ん?ああ、そうそうそう。昔も、よくこの小屋で話したもんだ」
「へえ。そうなの」
「おお、そうだった!今年、校庭に暴れ柳が植えられたんだ。くれぐれもそれには近づくなよ」

あからさまな話題転換が不自然だなとは思ったが、リリーは首を傾げ、ハグリッドに尋ねた。

「暴れ……やなぎ?」
「ああ。普段はただの木だが、近づく者を容赦なく叩いて攻撃してくる」

はその柳の木を想像し、ぞっとした。生きている、木。本当に魔法って何でもありだなあ。

「どうしてそんな危険なものが植えられたの?」

ハグリッドは、またもリリーの問いに途惑っているようだった。今度はも関知していないことだし、も気になった。

「んー、まあ……生徒がいろいろ悪さをしないように、だ。ともかくそれには近づくな」

それを言われてわざわざ近づく者はいないだろうと思いながら、は紅茶をすすった。

 

それから、色々なことを話した。リリーの家族のこと。両親の他に、妹がいるのだとういうこと。教師たちのこと。宿題のこと。あっという間に陽が暮れてしまい、また来ることを約束して、とリリーはハグリッドの小屋を後にした。

 

「初めは怖いと思ったけど……とってもいい人ね」

「そうでしょ?あのクッキーは頂けないけどね」

が言うと、リリーはあははと声を上げて笑った。リリーの髪が夕陽に照らされて、燃えるような色に輝く。も、笑った。

「今度来る時は、私たちで何か作って行きましょ」

そうだね。そう答えつつも、は先ほどのリリーの言葉を頭の中で反芻させていた。
のともだちの、リリー・エバンズです。
ともだち。    本当に、そう思っていいの、リリー?

 

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07/7/10