「今年のクリスマスは、ダンスパーティが開かれることになりました」

マクゴナガルの言葉に、室内がしんと静まり返った。先生、今、何て言ったの?ぽかんとしたまま反応のない生徒たちに、マクゴナガルは咳払いをして「ダンスパーティですよ」と繰り返した。

「フリットウィック先生のご友人方に、音楽家の方がいらっしゃるそうです。その方たちがここへ来て演奏してくださるのです。そこで、校長先生の提案でダンスパーティが催されることになりました」

ようやくざわざわと騒がしくなり、マクゴナガルは心なしか満足そうだった。

 

40. Xmas Days
エリック・ニルソン

 

ダンスパーティは、12月24日の午後7時から開催されるが、参加できるのは5年生以上であること。パーティ用のドレスローブを持っていない生徒は、ホグズミードで探すなり、家族や親戚に送ってもらうなりして各自準備すること。グリフィンドール寮の一員として、浮かれることなく節度ある振る舞いをすること。そして、当日までにダンスのパートナーを見つけておくこと。それらがマクゴナガルの口から語られた。
授業終了後、生徒たちの話題はその話で持ちきりだった。

「参加できない4年生以下は、ちょっと可哀想ね」

リリーの言葉に、は眉をひそめた。

「……リリー。ダンスパーティ、楽しみなの?」
「え?それは、そうよ。滅多に開催されないらしいわ。私たち、運が良かったのね」

むしろ運が悪かったな、とは思った。ダンス?パーティ?両方とも、があまり好きでないものだった。ダンスなんて踊ったことはない、踊れるわけがない。パーティなんて大勢ではなくて少人数でしんみりやっていたい。何よりも    『パートナー』?

「……リリーは誰を誘うつもりなの?」
「別に、パートナーはいなくてもパーティには参加できるでしょう?、踊りましょうよ」

リリーらしい、とは苦笑した。でも、そんな事情が許されるのだろうか。

「きっとさ、リリーには申し入れがたくさんくると思うなあ」

ジェームズはどうするのだろう、とは思った。

「そうかしら?……はどうするの?」
「不参加って、ありかな」
「ええ?せっかくのパーティなのに」
「ダンスローブも持ってないし」
「買いに行けば良いでしょう。それか、私のものを貸すわ」
「ダンスなんて踊れないし、……パートナーとか、……嫌だし」
「何言ってるの。ブラックを誘えば良いでしょ」
「冗談!そんなことできるわけないでしょ!それに、……シリウスなら、もう女の子に誘われてるよ」
「彼が承知すると思うの?」

どうなのだろう、とは思った。今まで女の子からの告白を承諾したことのない彼が、女の子とダンスをするとは思えなかった。けれども、の誘いを受けてくれるとも考えられない。

「私、男装しようかな」
「あ、それ、すごくいいわよ」

くすくすと笑うリリーにも笑い、本当にそうしようかと真剣に考えた。

 

「君たちはどうするんだい?」

4人だけになった変身術の教室で、そう切り出したジェームズに、3人とも眉をひそめた。もちろん、ダンスパーティのことを言っているのだろうとは分かっていた。

「そういうお前こそ、どうするんだよ」
「もちろん、エバンズを誘うさ」

当然だとでも言うかのように微笑むジェームズに、リーマスは苦笑した。

「オーケーをもらえる自信が100パーセントあるのかな?」
「ないさ。でも、彼女が他の男とダンパに行こうものなら、僕は家に帰るよ」
「なら、荷物まとめた方がいいんじゃないか?」
「それか、相手を襲う準備でもしておくかね」

口々に言うシリウスとリーマスに、ふんとジェームズは鼻をならす。ピーターはその様子に噴き出した。

「問題なのは君たちだろう。誘う女の子すら決まっていないくせに」

ジェームズは、それぞれの顔を眺め、怖い表情を作ってみせた。

「僕は遠慮しようかな。満月も近いことだし」
「おーっと。満月のせいにするつもりかー?」

ジェームズは馴れ馴れしそうにリーマスの肩に手を載せる。リーマスは苦笑した。

「満月に感謝しないと。君と違って誘いたい女の子がいるわけでもないしね。談話室でゆっくりさせてもらうよ」
「そりゃ、残念だ。僕とエバンズのダンスが見られないなんて」

そうだね、とリーマスは笑う。一方で、ピーターの様子は冴えなかった。

「ぼくもムーニーと一緒にいようかな……。いいよね、プロングズとパッドフットは。何もしないでも女の子が誘ってくれるし」

そう言って、ピーターは2人を見やる。現に、去って行く女の子の中に、シリウスに意味深な視線を向ける子が何人もいた。
ピーターの嘆くような視線に、シリウスはさらりと答えた。

「俺だって、ダンスになんて興味ない」
「まったく、君たちは本当、お子さまだなあ。ワームテール、下級生を誘ったらどうだい」

えー、とピーターは口を尖らせる。確かに、上級生の誘いがないと参加できない下級生なら、誘いを断わりはしないだろう。でも何だかそれって嫌だな、とピーターは口ごもった。

「パッドフット、君はどうする?いっそ、一番初めに誘ってくれた子と行く、っていうのは」
「馬鹿か、お前」

シリウスはあからさまに嫌悪の表情を作った。

「あー、ダンブルドアも面倒なことにしてくれたよな、まったく」
「そうかな?僕にとっては好都合だけどね」

ぼくはパッドフットに同感だ、といった目で、ピーターはジェームズを見上げた。その視線に気づき、ジェームズはにやりと笑みを浮かべる。

「そうだ。ワームテール、君が女装してパッドフットと行ったら?」
「「冗談じゃない」」

合唱したシリウスとピーターに、ジェームズとリーマスは声を立てて笑った。笑いごとじゃない、と口々にシリウスとピーターは抗議する。
    ああ、でも本当にどうしたものかと、2人同時に考えた。

 

どうしたものか。頭を抱え込んで、は机に突っ伏した。
静かな図書館にごん、という鈍い音が響く。頭もぶつけたくなる状況だ。幸い、今この時間に行われるはずだったルーン文字は休講になった。シリウスと顔を合わせたくなかったから、心底安堵した。

     シリウスは、の気持ちを知っている。だからといって、をダンスパーティに誘わなければ、といった変な義務感は持って欲しくなかった。でも、シリウスが他の子と一緒に行ってしまうのも嫌。本当、どうしようもないなあ、私ってば。
そうだ。ダンスパーティは仮病を使って休んでしまおうか。いや、ダンスパーティまでの日々も問題だ。
のろのろと頭を上げた。目の前に、いつの間にか人が座ってることに気づく。

「よう」

エリック・ニルソン。咄嗟のことで口の利けないを察してか、彼は言った。

「数占いが休みだったんだ」

リーマスとピーターも取っていたな、とぼんやり思った。だからといって、どうしてここにいるのだろう。辺りを見渡すと、彼は一人で来ているようだった。

「他の2人は?いつも一緒だったのに」

いつもは、彼の隣に小柄な子とそばかすの背の高い子が、エリックについて回っていたのに。
あー、あいつらかとエリックは苦笑した。

「鬱陶しいから、撒いた。別に仲が良いわけでも何でもないからな」

『鬱陶しい』、ねえ。友達同士だと思っていたのに。が眉をひそめると、エリックは身を乗り出してきて、そっと言った。

「ダンスパーティ、一緒に行かないか?」

彼があまりにもさらりと言ってのけたので、の頭は一瞬真っ白になった。ダンスパーティ、だって?しかし、すぐに我に返って身構える。

    また、何かの罠で?」
「いや、違う。あのことは謝るって」

エリックは苦笑した。

「本気だよ、

名前で呼ばれ、思わずどきりとしてしまう。今までは名字で呼んでいたくせに。
呆気に取られるに、エリックは声を立てて笑った。

、って言い難いから」

ああ、何だかどこかで聞いたことのある台詞だと思いつつ、は首を横に振った。

「……どうして、私を誘うの?」
「さあ。俺もよく分からない」

何だ、それ。やはり裏があるのではないか。

「……ただ、お前のことは嫌いじゃない」

え、とは声を漏らす。てっきり、彼には嫌われているのだと思っていた。

「前は、リリーが良いって言ってなかった?」
「そんなこと言ったか?まあ、エバンズも悪くはないと思う」

偉そうな言い方だな、とは顔をしかめた。エリックは乗り出した身を引っ込める。

「でも     惹かれるのは、お前なんだ」

……。
……。
えっ?……。

「な、ん、……」

口を開けたまま言葉にならない言葉をしゃべるに、エリックは一人笑った。

「お前がブラックを好きなのは、知ってる。でも、人の気持ちなんてすぐに変わるものだろ?」
「……それなら、アナタの気持ちもすぐに変わるんじゃない?」
「どうかな。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「……私、は    変わらないと思う。私自身の気持ちは」

変えられないと思う。今まで何度も、否定してきた想いだけに。

「……へえ。そのブラック様は、レイヴンクローの美人に誘われてたぞ」

顔を強張らせるに、エリックは立ち上がった。

「まあ、考えておいてくれ」

ちょっと、と言おうとするを遮って、エリックは行ってしまった。去り際に、一言を残して。

「そうだ。俺のことは『ニルソン』って呼ばないでもらえると嬉しいな」

その家名は嫌いなんだ、と。

 

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07/10/11