夢のような夏の日々。目を瞑ると、浮かんでくる。照りつける太陽、きらきら輝く水面、風に流れる草木。そして、空に浮かんだ満点の星星。シリウスの横顔。シリウスの言葉。
腕をぎゅうと抓ってみると痛みがあって、やはり夢ではなかったのだと幸せな気分になる。



リリーの声に我に返り、僅かに先を歩くリリーの後ろ姿を見つめた。エバンズ家への道のりを、2人で歩いているところだった。

    私、……ポッターと付き合うことにしたの」
「ふうん………………ええっ!?」

早足で、リリーの隣に並ぶ。リリーの頬が赤く染まっていた。

 

45. celestial BLISS
しあわせ

 

「昨日、聞かれたの。答えを急いてるわけじゃないけど、今の正直な気持ちを聞かせて欲しい、って」

リリーは立ち止まる。は彼女の言葉の続きを待った。

「私、とりあえず付き合ってみる、っていうのは、嫌だったの。でも、この人なら……もっとこの人のことを知りたいと思った。だから……それなら傍にいることが一番だ、って思って」

うわあ。良かったね、ジェームズ。良かったね、リリー。
きっと、リリーはたくさん悩んで、その答えを導き出したのだろう。そのことは、恐らくジェームズにも伝わっているはず。そのことが何よりも嬉しいだろうなあ。

「……先に言われてしまって、あれなんだけど」

がぽつりと切り出すと、リリーは形の良い眉をひそめた。

「まさかブラックと付き合うとでも言うの?」
「え?あ、いや」

付き合うという言葉はしっくりこないな、とは思った。ただ、……シリウスへの想いが通じたというだけで。は、昨晩のことを掻い摘んで話した。

「うそ!?本当に!?良かったわね……!」

リリーはの手を取り、力いっぱい握った。まさかリリーがこんなに喜んでくれるとは思わず、はたじろぐ。の真剣な想いをもっとも近くで感じていたリリーは、それが叶って自分のことのように喜んでくれたのだろう。そのことに、は幸福を感じた。こんなに素晴らしい親友が、私にはいる。
彼女なら、きっとジェームズと上手くゆくだろうなと思った。上手くいって欲しい、と。

 

 

ホグワーツ最終学年は、幸せな気分での幕開けだった。シリウスと顔を合わせることはどことなく照れ臭かったけれども、それはジェームズもリリーも同じようだった。ジェームズは「やあ、、リリー」と声をかけたきり、早足で去って行ってしまった。リリーも無言だった。
まあ、はじめはこんなところだろうなあ    


「シリウスは、知ってた?リリーとジェームズのこと」

いつものルーン文字の帰り道。いつものように、隣にはシリウスがいて。けれども、いつもとは違う空気。少しぎこちなくて、でも温かくて柔らかい。は、その空気をそっと吸い込んで、胸の中にしまった。

「まあな。キャンプの朝まで、うるさいくらいに聞かされた」

シリウスは、私たちのことは話したのかな。シリウスのことだから言っていないのだろうという予感はあった。それを問いかけるか問いかけまいか迷っていた時、静かな廊下に声が響いた。

「ったく、ニルソンが何なんだ!お前の親父の嫌がらせのせいで、俺の親父は仕事がなくなったんだ!」

もシリウスも、その怒鳴り声が聞こえた方を見やった。スリザリンの生徒が固まっていた。1人、2人、3人    そして、エリック。罵声を浴びせられたエリックは、無言で相手を見つめていた。

「おい、何とか言え!」

1人がどん、とエリックの肩を強く押す。エリックはよろめいて、壁にぶつかった。明らかに良い雰囲気ではない。はただ唖然とその光景を眺めていたが、スリザリン生の1人が杖を取り出しエリックに突きつけると、シリウスがその輪へと歩いて行った。

「何やってるんだよ」

シリウスが強く言うと、スリザリン生たちは顔を歪め、舌打ちをして去って行った。エリックは体勢を立て直し、じっとシリウスを見る。が、同じく歩み寄って来たを見て、顔をしかめた。

「お前ら、とうとういい仲になったのか?」

口の端を吊り上げたエリックに、シリウスは眉を寄せた。

「何かあったの?」

そう尋ねたを、エリックは一瞥した。否定しない、ということはイエスということか。

「お前らには、まるで関係のないことさ」

そう言い放ち、エリックは背を向けた。

 

「……シリウスは、『ニルソン』って知ってる?」

エリックの姿が見えなくなってから、は尋ねた。

「なんとなく。ブラック家と同じような教育方針なんだろ。でも、スリザリンの家柄は、大体そうだと思う」
「エリックは     でも、『グリフィンドールなら良かったのに』、って言ってた」

シリウスは、僅かに目を見開いた。
それをに言ったとしたなら、エリックは本当にのことを。

「ニルソン家って、他の家と上手くいってないの?」

問いかけるように呟いたを、シリウスは見る。

「気になるか?」

は、以前はエリックを嫌っていたはず。その彼女が、彼を気に留めている。

「何だか、あんまり穏やかじゃなかったから、さ」
「確かにな」

そうぽつりと言って、シリウスはの背を眺めた。
エリックは、のことを本気で好いている。リーマスが言っていた通りなのかもしれない。
でも、……

ジェームズ、というの声で、シリウスは我に返る。視線の先には、軽く手を上げたジェームズが立っていた。背後からはリーマス、ピーターの姿もある。そして、リリーの姿も。

「どうしたの、みんなで」
「どうしたのじゃないよ、。薬草学の教室が変更になったんだよ。君たちが遅いから」
「ねえ、とパッドフットが付き合ってるってほんと!?」

ジェームズの言葉が終わるや否や、ピーターが尋ねた。シリウスは唇を引きつらせ、ピーターの顔を見、満面の笑みを浮かべるジェームズとリーマスに視線を移した。

「リリーから聞いたんだよ、シリウスくん」

ジェームズは腕を伸ばし、シリウスの首を絞める。

「どうして黙ってたのさ」
「べつに、言い触らすようなことじゃないだろ、誰かさんみたいに」

リーマスの問いに、シリウスは呻きながら答えた。

「僕は言い触らしたわけじゃないよ。知らせることが友情だと思ったんだ」

ジェームズは腕に力を込め、シリウスはその腕の中でもがく。

「……べつに、何が変わったわけでもないし、いいんじゃない?」
までそんなこと言うー」

ジェームズがぱっと腕を放し、シリウスは咽込んだ。

「でもさ、今度のホグズミードどうするんだよ。僕はリリーと一緒に行くつもりだけど、君たちは」
「誰があなたと行くって言った?」
「え、行かないの!?」

あまりにジェームズが驚愕した様子を見せるので、リリーは肩を竦めて冗談よと言った。

「……ともかく、ずっと談話室でチェスっていうのもあれだしさ、たまには村の方に行ってみたら?」

シリウスは曖昧にああと返事をしただけだった。
ジェームズはそう言うけれど、べつにチェスでもいいけどなあ、とは思った。本当に、以前と何が変わったというわけではない。変わらなくて良い、と思った。シリウスが傍にいるだけで。
そして、想っていてくれるなら、それほど幸いなことはない。幸いすぎることだから。

 

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07/10/23