腕をぎゅうと抓ってみると痛みがあって、やはり夢ではなかったのだと幸せな気分になる。
「」
リリーの声に我に返り、僅かに先を歩くリリーの後ろ姿を見つめた。エバンズ家への道のりを、2人で歩いているところだった。
「
「ふうん………………ええっ!?」
早足で、リリーの隣に並ぶ。リリーの頬が赤く染まっていた。
45. celestial BLISS
しあわせ
「昨日、聞かれたの。答えを急いてるわけじゃないけど、今の正直な気持ちを聞かせて欲しい、って」
リリーは立ち止まる。は彼女の言葉の続きを待った。
「私、とりあえず付き合ってみる、っていうのは、嫌だったの。でも、この人なら……もっとこの人のことを知りたいと思った。だから……それなら傍にいることが一番だ、って思って」
うわあ。良かったね、ジェームズ。良かったね、リリー。
きっと、リリーはたくさん悩んで、その答えを導き出したのだろう。そのことは、恐らくジェームズにも伝わっているはず。そのことが何よりも嬉しいだろうなあ。
「……先に言われてしまって、あれなんだけど」
がぽつりと切り出すと、リリーは形の良い眉をひそめた。
「まさかブラックと付き合うとでも言うの?」
「え?あ、いや」
付き合うという言葉はしっくりこないな、とは思った。ただ、……シリウスへの想いが通じたというだけで。は、昨晩のことを掻い摘んで話した。
「うそ!?本当に!?良かったわね……!」
リリーはの手を取り、力いっぱい握った。まさかリリーがこんなに喜んでくれるとは思わず、はたじろぐ。の真剣な想いをもっとも近くで感じていたリリーは、それが叶って自分のことのように喜んでくれたのだろう。そのことに、は幸福を感じた。こんなに素晴らしい親友が、私にはいる。
彼女なら、きっとジェームズと上手くゆくだろうなと思った。上手くいって欲しい、と。
ホグワーツ最終学年は、幸せな気分での幕開けだった。シリウスと顔を合わせることはどことなく照れ臭かったけれども、それはジェームズもリリーも同じようだった。ジェームズは「やあ、、リリー」と声をかけたきり、早足で去って行ってしまった。リリーも無言だった。
まあ、はじめはこんなところだろうなあ
「シリウスは、知ってた?リリーとジェームズのこと」
いつものルーン文字の帰り道。いつものように、隣にはシリウスがいて。けれども、いつもとは違う空気。少しぎこちなくて、でも温かくて柔らかい。は、その空気をそっと吸い込んで、胸の中にしまった。
「まあな。キャンプの朝まで、うるさいくらいに聞かされた」
シリウスは、私たちのことは話したのかな。シリウスのことだから言っていないのだろうという予感はあった。それを問いかけるか問いかけまいか迷っていた時、静かな廊下に声が響いた。
「ったく、ニルソンが何なんだ!お前の親父の嫌がらせのせいで、俺の親父は仕事がなくなったんだ!」
もシリウスも、その怒鳴り声が聞こえた方を見やった。スリザリンの生徒が固まっていた。1人、2人、3人
「おい、何とか言え!」
1人がどん、とエリックの肩を強く押す。エリックはよろめいて、壁にぶつかった。明らかに良い雰囲気ではない。はただ唖然とその光景を眺めていたが、スリザリン生の1人が杖を取り出しエリックに突きつけると、シリウスがその輪へと歩いて行った。
「何やってるんだよ」
シリウスが強く言うと、スリザリン生たちは顔を歪め、舌打ちをして去って行った。エリックは体勢を立て直し、じっとシリウスを見る。が、同じく歩み寄って来たを見て、顔をしかめた。
「お前ら、とうとういい仲になったのか?」
口の端を吊り上げたエリックに、シリウスは眉を寄せた。
「何かあったの?」
そう尋ねたを、エリックは一瞥した。否定しない、ということはイエスということか。
「お前らには、まるで関係のないことさ」
そう言い放ち、エリックは背を向けた。
「……シリウスは、『ニルソン』って知ってる?」
エリックの姿が見えなくなってから、は尋ねた。
「なんとなく。ブラック家と同じような教育方針なんだろ。でも、スリザリンの家柄は、大体そうだと思う」
「エリックは
シリウスは、僅かに目を見開いた。
それをに言ったとしたなら、エリックは本当にのことを。
「ニルソン家って、他の家と上手くいってないの?」
問いかけるように呟いたを、シリウスは見る。
「気になるか?」
は、以前はエリックを嫌っていたはず。その彼女が、彼を気に留めている。
「何だか、あんまり穏やかじゃなかったから、さ」
「確かにな」
そうぽつりと言って、シリウスはの背を眺めた。
エリックは、のことを本気で好いている。リーマスが言っていた通りなのかもしれない。
でも、……
ジェームズ、というの声で、シリウスは我に返る。視線の先には、軽く手を上げたジェームズが立っていた。背後からはリーマス、ピーターの姿もある。そして、リリーの姿も。
「どうしたの、みんなで」
「どうしたのじゃないよ、。薬草学の教室が変更になったんだよ。君たちが遅いから」
「ねえ、とパッドフットが付き合ってるってほんと!?」
ジェームズの言葉が終わるや否や、ピーターが尋ねた。シリウスは唇を引きつらせ、ピーターの顔を見、満面の笑みを浮かべるジェームズとリーマスに視線を移した。
「リリーから聞いたんだよ、シリウスくん」
ジェームズは腕を伸ばし、シリウスの首を絞める。
「どうして黙ってたのさ」
「べつに、言い触らすようなことじゃないだろ、誰かさんみたいに」
リーマスの問いに、シリウスは呻きながら答えた。
「僕は言い触らしたわけじゃないよ。知らせることが友情だと思ったんだ」
ジェームズは腕に力を込め、シリウスはその腕の中でもがく。
「……べつに、何が変わったわけでもないし、いいんじゃない?」
「までそんなこと言うー」
ジェームズがぱっと腕を放し、シリウスは咽込んだ。
「でもさ、今度のホグズミードどうするんだよ。僕はリリーと一緒に行くつもりだけど、君たちは」
「誰があなたと行くって言った?」
「え、行かないの!?」
あまりにジェームズが驚愕した様子を見せるので、リリーは肩を竦めて冗談よと言った。
「……ともかく、ずっと談話室でチェスっていうのもあれだしさ、たまには村の方に行ってみたら?」
シリウスは曖昧にああと返事をしただけだった。
ジェームズはそう言うけれど、べつにチェスでもいいけどなあ、とは思った。本当に、以前と何が変わったというわけではない。変わらなくて良い、と思った。シリウスが傍にいるだけで。
そして、想っていてくれるなら、それほど幸いなことはない。幸いすぎることだから。
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07/10/23