そして暗い。
然し恐れてはならぬ。
恐れない者の前に道は開ける。
行け。勇んで。
小さき者よ。
(『小さき者へ』 有島武郎)
51. Everlasting, everlasting
えいえんにつづく
後悔はしていない。きっと、過去をやり直すことができようとも、同じ道を選んだだろう。
は、自分の両の手の平を広げ、見つめた。
私に宿ってしまったちから。目を閉じると今でもあの時の光景がありありと浮かんでくる。
死にたくない。必死で、縋る思いで掴んだ、あいつの
けれど、フィンスターの力と意識がに移った結果ゆえ、ああした惨事になったのだ、とダンブルドアは言った。つまり、が罪の意識に苛まれる必要はない、と。父をこの手にかけてしまったと、思い悩んできた。けれど、それは自らの意志ではなかった。そのことはずっと解ってはいたけれど、何か黒いものがの意識を横切っていた。
お父さんが死んだのは、私のせいじゃない。それは解ってる。
でもきっと、この黒くもやもやした意識は消えることはないだろう。けれど、そのことで無闇に自分を責めることはもうしない。しかし、あのできごとを忘れることはない。忘れないようにしようと思っていた。
すべては、起こってしまったことだから。
本当に、紙一重だなあ、運命って。いろんなことが重なって、起きている。
そのうちのひとつがなかったとしたら、今のわたしはないのだ。
でも、やっぱり、憂えはある。流れ込んでしまったあいつの意識、力。望んではいないのに手に入ってしまった力。けれど、その影響で、身体に異常を来たすということはないようだった。ポンフリーに(聖マンゴの医療設備を借りて)精密に検査してもらっても、身体的な異常、たとえば、病気とか、悪影響があるとか、そういうことはないと診断された。けれど、ひとつだけ
強くないの、私は。ひとりだけ『異質』な存在で、みんなと共に歩んでいこうと思えるほど、強くない。
自分の選択に間違いはない、と思っていた。でも、そう理解していても、胸をつくこの痛みだけは、消えることはなかった。
きっと、みんなを傷つけた。不快な思いをさせた。
でも、それも一時のこと。どうか、私のことを、忘れて下さい。
と、思ってはいても。
『。あれから、リリーはぼうっとする回数が増えたよ。あの時はああして別れたけど、僕は納得してない。きちんとした理由を説明してくれ。リリーだけじゃない。シリウスだって、傷ついた。そのこと、分かってる?ねえ、何か事情があるなら、力になるからさ』
ジェームズからきた手紙。あの時はあっさり別れたものの、やはりジェームズはジェームズだった。どこまでも、人を気遣うのがうまくて、優しい。
だからこそ、忘れなくてはならない。そういう彼だからこそ、彼らだからこそ、私に変な気を遣うようなことは、させたくない。
「インセンディオ」
は短く唱えて、その手紙を燃やした。はらり、と炭が舞い散る。それを運んで来たふくろうは、驚いているかのように見えた。『どうして燃やすの。せっかく運んで来たのに』、と。
「ごめんね。返事はないの。お帰り」
首を横に振り続けると、諦めたようにして、ふくろうは飛び去って行った。
「どうだ?慣れたか?」
そう尋ねながら、ハグリッドはの向かいに腰掛けた。まあね、と彼の淹れてくれた茶を啜る。
ホグワーツに留まるようになって、半年あまりが過ぎた。その間に、ハグリッドはこうして何度かお茶に誘ってくれた。そして、その度に同じ質問をされた。
の事情を知っている者は、ダンブルドアとマクゴナガル、マダム・ポンフリー、そしてハグリッドだけだったけれども、ホグワーツの教師たちは皆、に優しく接してくれた。そのことが唯一の救いだった。辛うじて、自分の居場所がある。
力になるからな。そう言ってくれたハグリッドが、嬉しかった。彼は自分の仕事を分けてくれたり、お茶に誘ってくれたり、気を遣ってくれた。も与えられたことに打ち込むようにして、日々を過ごしていた。
けれども、どうしたって思い出してしまう。このホグワーツにいる限り。
ホグワーツの何処へ行っても、彼らと過ごした時間が思い出される。
あのころは、あのときは
「でも、会いたいんだろう?」
ハグリッドの言葉に、は我に返った。誰に、と尋ねる。
「リリーたちに」
「……」
「手紙は?来るんだろうが?」
「来ないよ。みんな、忙しいんじゃない?」
そう言い、さり気なくハグリッドから目を逸らす。
「あー。まあな。新卒は忙しいだろうな」
「きっと、その忙しさで、みんな私のことなんて忘れてるって」
「そんなことはねえだろう」
の言葉に、ハグリッドは怒ったように、むきになって言った。
「たまには、お前さんから連絡をしてやれ。きっと待ってるって」
は曖昧に口元を緩め、お茶を飲み干した。
ハグリッドには、言わない方がいい。みんなと別れたこと。きっと、責められる。どうしてそんなことをした?と。分かってる。私だって分かってるの、ハグリッド。でも、こうする他思いつかなかった。仕方なかった。だから、今は、そっとしておいて
『』
『俺にとって、お前は、特別であることに変わりはないんだ』
『俺は
『俺は結局、お前に何もできないんだな』
シリウス。シリウス
シリウスは、誰か好きな人ができただろうか。恋人はできただろうか。そうなればいい。そうすれば、きれいさっぱり、忘れられる。シリウスはシリウスの道を歩んで欲しい。
みんな、幸せになって。
それが、私の望み。
独りで歩くと決めたんだ。それでも、明るく生きようと。
ここで立ち止まって、振り返るわけにはいかない。思い出に浸っていては、いけない。前を見るんだ。
そうすれば、きっといいことが、あるから。
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07/12/3