、話があるんじゃ」

ホグワーツで与えられた、自分の『事務室』。そこでぼんやりしていると、ダンブルドアがやって来た。
ここに留まるようになってから、ダンブルドアと話す機会は何度もあった。彼はハグリッド同様、温かく接してくれた。けれども、こうして改まって彼が訪ねて来るのは初めてのことだった。
はダンブルドアをテーブルに案内し、茶を入れた。それを差し出すと、ありがとうと言いながら、ダンブルドアは腰掛けた。彼の向かいにも座ると、茶を一口、口に入れ、美味いの、と言う。

「話、って    
「ああ、そうじゃった」

が言うと、ダンブルドアは思い出したように口を開く。

「ヴォルデモートのことじゃ」

その名に、胸がざわつく。それを悟られぬよう、は無言で頷いた。

 

52. MASQUERADE
舞踏会への招待状

 

「奴の勢力は、日に日に強まっていくばかりじゃ。多くの闇の魔法使いを従え、罪無き者を殺し」

強まるヴォルデモートの勢力。その話は、ハグリッドもしていたし、新聞でも再三騒がれていた。けれど、このホグワーツにいるかぎり、そういう実感はあまりなかった。ダンブルドアがいるから、かもしれない。ダンブルドアの力によって保護されているという安心感がホグワーツにはあったけれども、たまにハグリッドや教師たちの遣いで町に出かけると、不穏な空気を感じた。人々が明るい表情をしていない。背を縮めて生活をしているような。みな、怯えていた。ヴォルデモートの闇の力に。

「誰かが奴を止めねばならん。そこで、わしも奴に対抗する勢力を創ろうと思うておる。。君にも協力してもらいたいんじゃ」
「私、が?」

自分に何ができるかは分からない。けれども、ダンブルドアのためなら力を貸したい。彼は、恩人だから。2度も助けてもらったから。それに、ヴォルデモートのおこないを、黙ってみているわけにもいかない。もちろんですと答えると、彼は微笑んだ。

「それは良かった。わしの知り合いの何人かにも呼びかけてあるんじゃ」

そうですか、とはティーカップに口をつけた。

「あとは、君のよく知っておる者じゃ。ジェームズ・ポッターやリリー・エバンズにも」

口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになったが、寸前のところで堪える。

「早速、集まってもらうことになった。場所はホグズミードじゃ」
「な、……」

そんな、と口にしようとしたが、上手く言葉にならなかった。

「彼らは頭の良い魔法使いと魔女じゃったからの。力になってくれるじゃろうて。もちろん、シリウス・ブラックやリーマス・ルーピン、ピーター・ペティグリューもじゃ」

は凍りついた。もう二度と、彼らと会うことはないだろうと思っていたのに。

「久しぶりじゃろう?卒業以来かの」
「そ……うですね」

曖昧には笑う。そうか、良かったの、とダンブルドアも微笑む。
ちっとも良くない。前言撤回。やっぱり協力するのを止めます。そう言い出したかったのは山々だったが、できるわけがない。この老人の、穏やかな微笑を前にしては。

 

 

会合は、ホグズミード外れの宿で行われることになった。主宰者はもちろん、ダンブルドア。
ハグリッドも参加するそうだが、人数はそれほど多くないということだった。そのハグリッドと共に、はホグズミードに向かった。
その入り口に、明らかに場違いな風貌の男が立っていた。顔中は傷だらけ。お世辞にも、穏やかとは言い難い雰囲気。近づいて行くと、その男は2人を見つめた。その鋭い目つきが印象的だった。じろり、ととハグリッドを凝視し、会合の行われる宿へと入って行った。あの男も参加するのだろうか。

「ハグリッド、今の人は」
「ああ、アラスター・ムーディ。マッド・アイ・ムーディと呼ぶ者もいる。闇祓いで、ダンブルドアの古くからの友人でいらっしゃる」

へえ。あの温厚なダンブルドアとは対照的だと思うけれど。頼りにはなりそうだな、とは感じた。
その宿に入ると、中にはダンブルドアと先ほどの男、ムーディ。そしての知らぬ魔法使いが数人いた。知った顔がないことに、心底ほっとした。
ダンブルドアに促され、とハグリッドは奥へと入る。大きな机を囲んで着席した。の左隣はハグリッドだったが、右隣はムーディで、鋭い目つきで見られ、落ち着かなかった。

「ダンブルドアよ、この娘が?」

ムーディの視線を受け、ダンブルドアは「そうじゃ」と頷いた。すると、ムーディはほう、と意味深げにを見やる。

家の者、か」
「あ……はい。、です」
「フィンスターとは似ていないな、やはり」

いきなり『フィンスター』の名を出され、目を丸くした。ダンブルドアの友人だというから、彼がムーディに話したのだろうか。

「あの、ムーディさんは、祖父をご存知なんですか?」
「名前で構わん。堅苦しいのは好かんのでな。そうそう    フィンスターのことはよーく知っている。奴には久々に手こずった」

彼は闇祓い。だから、死喰い人であったあの男のことも知っているのだろう。は、何か言おうと口を開きかけた。しかし、一瞬で何を言おうとしたのか忘れてしまった。
扉が開けられ、全員が入り口を見やる。その入って来た人物に、は息を呑んだ。ムーディとの会話で、すっかり忘れてしまっていた。彼らが来るということに。
入ってきたのは。眼鏡を掛けた男性、鳶色の髪の男性、小柄な男性。そして赤毛の女性。
皆、の姿を認めると、あまり心地良いものではない目線をよこしてきた。

 

「こんにちは、お久しぶりです、ダンブルドア先生」

から視線を外し、ジェームズがいつもの明るい調子で言った。それに倣い、リーマスとピーター、リリーも頭を垂れる。ジェームズは、……少しばかり声が大人っぽく低くなった気がするけれど、……随分声を聞いていなかったせいかもしれない。
教え子たちとの再会に、ダンブルドアは柔らかく微笑んだ。

「ああ、久しぶりじゃの。皆、息災か?すまなかったの、呼び立ててしまって」
「いえ、いいんです。先生の役に立てるなら、僕は何でもしますよ」
「嬉しいのう」

ジェームズの言葉に、ダンブルドアはますます表情を明るくさせ、彼らを席に促した。


彼らに視線を向けまいとしても、視界に入ってしまっていた。気にしないようにしても、気になってしまう。
みんな、変わっていない。みんな、少し大人っぽい雰囲気になったかな。リリーは綺麗になった。でも、変わってない。はそのことが嬉しく思えたが、慌ててその感情を掻き消した。

「シリウスはどうしたのじゃ?」

ダンブルドアの言葉で、は我に返る。
シリウス。彼の姿はここにはなかった。どくん、と脈が打つ。何かあったのだろうか、……。

「あー……それが……アイツ、特急に乗り遅れて」

頭を掻くジェームズに、ダンブルドアは笑った。

「そうか。良いのじゃ     とりあえず、始めようかの」

 

まずは、ダンブルドアとムーディによって現状が語られた。
日々強まるヴォルデモートの勢力。その犠牲者の増加。そして、この状況を打開する為の対策。

「わしは、奴と同じように、わしらも組織を作って対抗しようと考えておる。情報収集はもちろん、奴の勢力に対抗するにはこれしかない」

その意見に、この場にいた者で異存のある者はいなかった。

「皆、信頼できる者にこの話をして欲しい。魔法使いでも、スクイブでもそれは構わん。要は」

気持ちの問題じゃ。そう微笑むダンブルドアの言葉で、会合は締め括られた。

 

、話さないか」

案の定きた、とは思った。座ったまま、ジェームズを見上げ、答える。

「……ごめん、忙しいから」

ジェームズは眉をひそめるが、言葉を発したのは彼ではなかった。

「なーに恥ずかしがってんだ、。俺は先に戻っちょるから、話して来いや」

ハグリッド、余計なことを!は内心で叫んだが、一方のジェームズはこりと笑う。

「先生、この部屋お借りしてもいいですか?」
「おお、もちろん。わしらはもう行くからの。ゆっくり話をしていくといい」

ああ、もう、ダンブルドアまで!
の心の叫びは、誰にも届くことなく心中で虚しく響いていた。

 

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07/12/4