「さあて、時間も経ったところで、きちんと説明してくれるかな」

向かいにリリーとジェームズ、ピーター。そして隣にはリーマスが腰掛けた。
一斉に視線がに集まる。

「僕は納得してないよ。あんな説明で。卒業したら終わり、だなんて。そんなの勝手すぎる」
「勝手なのは申し訳ないと思ってる。でも、あれが私の本心だから」
「そうは思えないね。今までの7年間、ぜんぶを否定するつもりかい?」

ジェームズの声音は、怖いくらいに穏やかだった。はたじろぎそうになるが、彼に向かい合って続けた。ここで顔を逸らせては負けだと思った。

 

52. MASQUERADE
舞踏会には、仮面をつけて

 

「否定はしないよ。それなりに楽しかったし。でも、これからは新しい日々がはじまるわけだから」
「新しい日々がはじまるからって、どうしてそれまでのこと全部、なかったことにしなきゃならないんだよ」
「心機一転、リセット、っていうこと」
「むちゃくちゃだね、その理論」

とジェームズの言い合いが、虚しく部屋に響いていた。

「だから!私の気が変わったんだってば。それだけ。話は以上!忙しいから、じゃあね」

何に対してか苛々して、は声を荒げて立ち上がった。たぶん、一番は私に対して。どうしてか、自分に腹が立つ。上手い言いわけが思いつかない自分。こんな身体になってしまった自分。
待って、とジェームズも立ち上がった時、部屋の扉が開かれた。

「悪い、遅れて     あ、れ?会議は?」
「もう終わったよ」

呆れたように、リーマスが声を出す。は、扉の向こうの相手に思わず立ち尽くしてしまった。一番会いたくなかった相手。は咄嗟に彼から目を背けた。

「でも、よく来られたね。特急はもうなかったはずだろう?」
「バイクだよ」
「それで、ここまで?」

唖然とするリーマスに、シリウスは頷く。

「でも、間に合わなかったみたいだな。ダンブルドアは?」
「もう帰ったよ。今は、僕たちの会議」

シリウスは、立ち上がったままのと、そう答えたジェームズをちらりと見つめた。この部屋に流れるぎすぎすした空気を察しているだろう。「ふうん」と答え、扉を閉めた。

「……。あなたの言ったこと、ぜんぶ、本心なのね?」

絞り出すように、リリーは静かに言った。
は、すぐに「イエス」と答えられなかった。答えたくない、と思ってしまった。
本心?本当は、わたしは、……
でも、本心を隠さないといけないこともある。常に本当のことばかりを言っては、人生は切り抜いていけない。いずれ、私の選択肢が正しかったと、痛感する時がくるから    

「うん」

が頷くのを見るなり、リリーは勢いよく立ち上がった。

「分かったわ」

それだけ短く言い残すと、リリーは部屋を去って行った。彼女の背中に、は目の前が真っ暗になったような心地だった。失ってはならないものを失ってしまったような気がした。

「それじゃあ    僕は、もう、君のことを友達とは思わない。それでいいんだね」

ジェームズの低い声に、はただ頷くだけだった。

「君のこと、親友だと思ってたのに」
「人の気持ちって、うつろいやすいものなんだよ」
「それは君だけだろう。僕らは、ちがう」

胸が痛かった。痛くて痛くて、息をすることがやっとだった。
気がつくと、ジェームズがこちらに歩み寄ってきていた。そして     パシン、と平手打ちをされた。乾いた音が響き渡る。ピーターがはっと息を呑むのが分かった。
痛かった。けれども、は打たれた右頬を押さえることはせず、ただ俯いていた。今、身体を動かしてしまったら、一気に崩れてしまうような気がした。

「その痛みなんかよりも何倍も、リリーは傷ついてる。平気な顔をしてるけどね。それは分かってるよね」

ジェームズはを睨みつけるように一瞥すると、すっと去って行った。
僅かな間、沈黙が流れる。しかし、それはシリウスによって破られた。

「本当、お前の演技にはまんまと騙されたよ」

演技なんかじゃない。
そう叫びたくなるのを必死で堪えた。が沈黙していると、彼は小さくため息を吐いて、外へと去って行った。ピーターもどうしたら良いのか分からずにいたが、やがて3人の後に続いて出て行った。
残ったのは、リーマス。

「……本心じゃないよね?」

リーマスは確認するように尋ねた。はただ首を横に振ることしかできなかった。

「なら、僕の目を見て同じ台詞、言ってみて」

リーマスの方に身体を向けると、彼も立ち上がっていた。けれども、彼の瞳を直視することはできなかった。あまりにも優しすぎる瞳。この瞳に、何度救われたことだろう。

「僕らって、そんなに信用なかった?君の秘密を聞いて、嫌いになるような僕らだと?」

ああ、感づかれていたのか。同じように大きな秘密を握っていたリーマス。どこか、通じるものがあったのかもしれない。でも、悟られてはだめ。ぜったいに、だめ。

「そんなんじゃない。本当に、もう……冷めちゃったの。ごめんね」
「そう」

何を言っても無駄だと考えたように、リーマスは息と共に言葉を吐き出し、去って行った。

 

「やあ」

ぼんやりとした意識で宿を出ると、ジェームズが立っていた。予想外のことに、は目を丸くする。今更、何の用事だろう。もう諦めてくれたと思っていたのに。

「一つ、言い忘れたことがあってね」

ジェームズの口元は笑っていたが、目はそうではなかった。

    シリウス、さ。あいつ、会うたびに違う女性といるんだ」

もう何を言われても動じるつもりはなかった。痛みを感じることもないと思っていた。けれども、心のどこかにちくりと針が刺さったように、痛んだ。

「どうやら、今日もそれで遅れたらしい」

ジェームズはの反応を注意深く探っていたが、もそれを察して、できるだけ素っ気なく、「そう」と返した。

「あのあいつが、だよ?今まで、告白をされても一度も承諾しなかった男が」
「……気づいたんじゃない?自分を取り巻く女の子の多さに、さ」

の言葉に、ジェームズはいっそう厳しい表情を浮かべた。

「本気で言ってる、それ」
「だって、本当でしょう?あれだけ女の子にもててて、それを何とも思わない方が勿体なかったんだよ」
「そう、へえ?あいつがそんな男じゃないって、思わない?」
「男の人なんて、みんな同じでしょう」

もううんざり。これ以上話かけないで。そんな表情をあからさまに見せるようにして、は答えた。

「そんな風に思ってたんだね、君は」

最低だ、とジェームズは吐き棄てた。
その言葉が、に深く突き刺さる。さいてい、さいてい、さいてい。

「シリウスだけは……あいつだけは、裏切らないでほしかった。きっと、もう    

ジェームズはその先の言葉を言うことなく、に背を向ける。

「さようなら、さん」

ジェームズは低く言い、静かに歩みを進めた。

 

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07/12/4