シリウス・ブラックが、12人のマグルとピーター・ペティグリューを殺害。アズカバンに収容された。シリウスが実は死喰い人で、ジェームズたちの居場所をヴォルデモートに売った。
人々は、そう口々に言い合っていた。そんなの、何かの間違いに決まっている。それなのに、充分な裁判も行わずにアズカバン送りにするなんて。
裁判をおこなった、バーテミウス・クラウチという男。魔法省。そして、今なお生のあるヴォルデモート。憎くて憎くて堪らなかった。
せめてもの救いは、ヴォルデモートが力を失ったことと、ジェームズとリリーの子が生き残ったこと。
そして、リーマスが、無事でいてくれることだった。

 

75. The best of FRIENDS must part
わかれ  今度は、永遠の

 

「本当に2人だけになっちゃったね」

は呟いて、黒い服を身に纏い、墓石の前に膝をつくリーマスの背を見つめた。彼の肩は、僅かに震えていた。
2人の葬儀は、壮大に行われた。否、壮大になってしまった。
ホグワーツで主席だった2人。そして、ヴォルデモートを打ち負かした男の子を生んだ夫婦としても、2人の名は広く知れ渡った。だから、大して彼らと親しくなかった人物でも、彼らを英雄扱いして集まった。
ジェームズとリリーのことなんて何も知らないくせに。
魔法省の役人も多く詰め寄り、ファッジやクラウチの姿もあった。彼らがジェームズとリリーの名を、そしてシリウスの話題を口にするのを聞くのが嫌で、は葬儀の間も隅でぼんやりしていた。
腹立たしかった。何もできない自分。耳を貸さない魔法省。
そして、ジェームズとリリーがいなくとも、動き続けるこの世界が。


やがてリーマスはすくっと立ち上がり、振り向いた。
泣いているかと思ったが、涙はなかった。けれども涙の痕は残っていた。

    は、これからまたホグワーツの事務に戻るんだって?」
「うん……リーマスは?」
「僕も、職を探すよ」

狼人間が職に就くのは、相当難しいらしい。ホグワーツ卒業後も彼はずっと職を探していたが、結局見つからなかったそうだ。

「……会える、よね」
「君が望むなら、いつでも」

リーマスは微かに笑う。も同じように、口の端を上げた。
    けれども、会ったとしてもそう回数は多くないだろうと、は思っていた。恐らく、リーマスもそう考えているだろう。お互いの顔を見れば、この痛みを思い出して辛いだろうから。会わない方がいいのかもしれない。けれども彼は、ただ一人残った、大切な大切な親友。それはずっと、変わらない

「私……リーマスがいてくれて、良かった」
「僕も、そう思うよ    でも、君はまだ、シリウスを信じているんだろう?」

シリウス。その言葉が、の胸に突き刺さった。

「リーマスは、信じてないの?」
「さあ……自分でも、よく分からない……でも、ピーターのことがあるからね」
「本当に、シリウスがピーターを殺したと思ってるの?」

は強い口調で尋ねた。

「……証拠があるじゃないか」

ピーターの、一本だけ残った指が。

「どうしてシリウスが殺さなきゃならないの?おかしいじゃない、だって」
「僕だって分からないよ!」

リーマスが声を上げ、はびくりと身を震わせる。
気まずい沈黙が流れた。ひゅう、という風の音だけが聞こえた。

「……ごめん……少し、気が動転してるんだ」
「私の方こそ、ごめん……」

再び、沈黙が時間と共に流れた。今度は小鳥のさえずりが耳に入ってくる。
暗黒の時代は終わったんだなとは感じた。
けれども。それは、犠牲があって得られた平和。にとっては、偽りの平穏だった。
ふたりが生きていてくれたほうが、ずっとずっとずっとよかったのに。
どうして死んでしまったの?

「こんな別れ方は嫌だね」

リーマスは言い、右手を差し出した。もそれを、しっかりと握る。

「元気でね、
「リーマスも」

互いにぎゅうと力を込め、手を放す。

「リーマス。黒いスーツ、似合うね」
「ありがとう」

が笑うと、リーマスも笑い返した。自然に笑ってくれたと、思いたかった。

「それじゃあ、ね」

そう言って背を向けたリーマスが去って行くのを、は見届けた。
彼の姿が見えなくなると、2つの墓石に向き直る。そうして、先ほどのリーマスと同じように膝をついた。

「ねえ……2人に、もっと……話したいこと、たくさん、あったんだよ」

頬に涙が伝う。もう、泣かない。これで最後にするから。だから、今だけは。

「ありがとうとか、大好きとか、ごめんとか、いくら言っても、足りないのに」

墓石の前に飾られた花が、風でゆらゆら揺れる。ユリと、ヒマワリ。2人に合う花を買って来た。

「ハリーは、無事だよ……ヴォルデモートを負かしたんだから、2人も誇らしい、よね」

それでも。ふたりには、生きていて欲しかった。
胸が、どうしようもないくらいに、苦しい。抑えても抑えても、痛みは消えることがない。ぽっかりと開いた穴は、塞がることはないだろう。これからも、ずっと。
     でも。

「見ててね。私、ちゃんと、生きるから、……」

もっと強くなるから。ふたりが見違えるくらい。
ふたりの分も、この世界のゆくえを、見守ってゆくから。

だから。
最後に、いまだけは、泣かせてね。

 

 

は、ダイアゴン横丁で買って来たチェーンに、シリウスがくれた指輪を通した。それを、首にかける。指になんか、はめてやらないんだから。
    彼が、戻ってくる、その時までは。
シリウスは、あの時、何かを言いかけていた。俺の『せい』なんだと言った。きっと、何かきちんとした事情があるはずなんだ。シリウスがジェームズを裏切るなんて絶対にありえない。

『俺は    何があっても、……への気持ちは、変わらない。それだけは忘れないで欲しい』

彼のその言葉と、このリングが、今の私のすべて。
ホグワーツを卒業した後、彼と別れてしまったことを悔やんだ。けれども、もう一度同じ人生を繰り返しても、きっとあの結論を出しただろう。
これが、私だから。弱くて、臆病なわたし。でも、強くなるから。
けれど、回り道をしたことで、強くなったものもあると、そう思いたい。

過ぎたことを悔いてもはじまらない。
今はただ、彼が戻ると、信じて。唯一残された、親友の存在を支えに。
幸い『居場所』がある。そこで、生きていこう。

新しい日々が始まる。
胸にはシルバーのリング。
小さいけれども、唯一の、大きな、私の希望。

 

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07/12/22