リーマスがいなくなるなんて。この1年、彼が傍にいることが当たり前だったのに、……。
86. Fly HIGH
わたしは飛び立てるだろうか
急いで彼の事務所に向かったは、開いた扉の前でリーマス、と呼びかける。彼は、スーツケースに服を押し込んでいたが、その動作をやめて振り返った。やあ、と苦々しい笑みを浮かべている。
は部屋の中に足を踏み入れた。昨晩のシリウスのように、リーマスの顔や手も傷だらけだった。
「リーマス。本当に辞めるつもりなの?」
「残念だがね」
リーマスはばたんとスーツケースの蓋を閉めた。本棚や机の上は、すっかり片付けられていた。
「。君も、セブルスに何か言われなったかい?」
「……言われた」
ダンブルドアの巧妙な弁護のお陰で、セブルスは渋々納得したように見えたが、それまではがシリウスを逃がしたと責め立てた。そのことをリーマスに話すと、「まあ仕方がないだろう」と言った。
「リーマスも何か言われたのね」
「ああ」
リーマスはスーツケースをデスクから下ろし、代わりに自分がそこに腰掛けた。
「彼は私が狼人間だということを、生徒に『漏らしてしまった』んだ」
は眉を寄せ、ため息を吐く。
「セブルスの怒りは相当だったものね」
「そうだね」
リーマスがセブルスを悪く言うことはなかったので、も口にしなかった。それに、たとえセブルスが暴露してしまわなくとも、リーマスは責任を感じて辞任しただろう。
「そんな顔をしないでくれ」
はいつもより目線の高い位置にいるリーマスを見た。今自分がどういう表情をしているのかは、大体想像がつく。
「この1年は、今までの12年で一番良い年だった。母校で教鞭を執ることができた。ハリーや、彼の親友に会えた。真実を知ることができた。シリウスに再会できた。そして、。君と共に過ごせた」
「
リーマスはにこりと笑った。も両方の口端を上げた。
「君に、謝らないと」
「え?」
「君が言っていた通りだった。シリウスは無実だった」
ああ、とは言った。そのことか。
「リーマスだって、完璧にシリウスを疑っていたわけではないでしょう?」
リーマスは曖昧に笑う。
「……シリウスと、話したのかい?」
は目を伏せ、頷いた。
「ねえ、リーマス。アズカバンでの12年って、どんなものだと思う?」
リーマスはしばらく沈黙していたが、やがて解らない、と首を振った。
「想像を絶するな」
「私も……」
シリウスの味わった苦しみを理解するのは不可能だ。けれども、何とか和らげたい、とは思ってしまう。でも、何もできない。そう、何もできないのだ。リーマスの苦痛に関しても、同様に。
「、シリウスは
リーマスは言いかけたが、が、あ、と漏らし、続きを遮る。その視線の先には、広げられた地図。片付けられた机の上に、唯一置かれたもの。リーマスもそれを見やる。一つの点が、この部屋に向かって動いていた。『ハリー』、と書かれている。
「私、行くね」
は地図から目を離し、リーマスを見た。リーマスは頷き、デスクから降りる。
「また手紙を書くよ」
リーマスは微笑み、右手を差し出す。
「それに、また会えるだろう」
「そうね」
も笑み、彼の手を握った。
また会える。
部屋を出る時に見た、彼の後ろ姿や綻びたローブが、12年という月日を改めて感じさせた。
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08/1/13