がハリーに言ったことは的中した。ハリーが1位で第一の課題を通過したこと。そのことに、人々が皆盛り上がったこと。そして、彼とロンが、仲直りをしたこと。ハリーにとってはこちらの方が喜ばしいのではないだろうか。彼らがこれまで通り親しそうに話しているのを見かけ、ハーマイオニーに尋ねた時に発覚した。

「それが、2人とも、あっさり。今までのことが、全部嘘みたいに」

一時はどうなることかと思いました、と彼女は言った。

「でも、男の子って、良いですね」

しみじみと言うハーマイオニーに、そうねとも笑った。

 

89. INTERMEZZO
インテルメッツオ

 

トライウィザード・トーナメント『伝統』のダンスパーティ。生徒たちはパートナー探しに奮闘していて、学内は奇妙な空気に満ちていた。熱気、興奮、そして探り合いをしているような、不思議な。
あの時もこうだったっけと、は思い返した。かつてダンスパーティが開催された時。ホグワーツの6年目と7年生の目の頃。でも、前者の時は、シリウスとリーマスと共に過ごし、後者の時には6人だけのクリスマスパーティになったのだった。

あの、日常を少し脱した特別な雰囲気も、何気ない日々も、今思うと    とても愛おしかった。当たり前のように、彼らが傍にいた。リリーがいて、ジェームズがいて、リーマスがいて、ピーターがいて、シリウスがいて、笑っていてくれた、あのころが。

 

「ところで、気になっていたのですが    あなたは、ドレスローブを持っているのですか?」

ある時、マクゴナガルにそう尋ねられ、は目が点になった。そう、そうだ。ダンスパーティと言えど、参加するのは生徒だけではない。自分も行かなければならないのを、すっかり忘れていた。
の様子を見、マクゴナガルはやはりという表情をした。

「……普段の服装は、不味いですよね」
「『伝統』のパーティですからね。正装をしなければ」

どうしよう。出ない、というわがままは、今回は無理。ドレスを貸してくれたリリーもいない。困惑していると、マクゴナガルは柔らかく言った。

「ダイアゴン横丁で買っていらっしゃい。これからも必要になることがあるでしょう」
「でも、……私、ドレスローブなんて……どういうものを買えば良いか」

が小さく言うと、マクゴナガルがふと優しい表情を浮かべた。偶に見せるこういう彼女の表情が、は好きだった。

「1日休みを差し上げます。あなたには見立ててくれる人がいるでしょう?」

マクゴナガルの言葉の意味が解らず、閉口していると、彼女は続けた。

「あなたの大切な友人ですよ、

 

その数日後、ダイアゴン横丁へ向かった。マクゴナガルのアドバイス通り、『彼』に手紙を認めてから。ホグワーツの外に出るのは久しぶりで、ダイアゴン横丁に来ることは尚のこと久しかった。
漏れ鍋に入ると、既に彼の姿があった。コーヒーを飲んでいた彼は、の姿に気づく。

「やあ、

微笑んだリーマスは、前よりやつれて見えたが、彼に会えたことは本当に嬉しかった。

「リーマス、お久しぶり」
「今回は抱きつかないんだね」

リーマスは笑うが、は顔が熱くなっていくのを感じた。

「あの時は、つい……」
「良いんだよ」

リーマスはははは、と声を立てる。相変わらずだなあ、もう。

「ごめんね、急に。何か用事、あった?」

が尋ねると、リーマスは一瞬瞳に翳りを見せ、いやと首を振った。やはり職探しは上手くいっていないのだろうか。

「間抜けな話よねえ、本当。正装のローブがない、なんて」
「良いじゃないか、君らしくて」
「どういう意味、それ」
「褒めているんだよ。    さあ、行こうか。お姫様のドレスを探しに」

そうねとは頷いた。
『姫』なんて柄ではないけれど、リーマスのこういうところは、ジェームズに似ているなと思う。こういう台詞をさらりと言ってのけるところ。シリウスには絶対にないところだなと、は笑った。

 

ホグズミードではなく、あえてダイアゴン横丁を薦めてくれたのは、マクゴナガルの配慮だったのだろう。リーマスもそれは解っているのだと思う。彼と会えたことは嬉しい。リーマスもそう考えていてくれると良いな、……。

ドレスローブを選ぶことは苦だった。地味過ぎず、派手過ぎず、子供っぽ過ぎず。これが意外に難しかった。試着するということにも、ドレスローブを着ることにも不慣れだったは、気恥ずかしくて仕方がなかった。しかし、自分ひとりではどのようなドレスを選ぶべきか分からない。リーマスが見立ててくれるのは良いのだけれども、何処か歯痒い気持ちも感じていた。

何着目かの試着の後、試着室のカーテンを開けると、リーマスがぱっと目を輝かせた。

「よく似合うよ。そういえば、昔も黒のドレスローブを着ていなかったかい?」
「ああ、うん……あの時もそうだったけど、……」

憶えていてくれたんだ。嬉しさとくすぐったさを胸に、店の主人のマダム・マルキンに視線を移すと、彼女は大きく首を縦に振った。

「ええ、とっても!」

けれど、裾は長めだが、胸元の露出が気になる。普段あまりこういったものを着ないせいかもしれない。しかし、2人とも納得しているところを、反論ができなかった。マダム・マルキンはのもとに歩み寄り、ローブのあちこちを触ったり見たりして、ふむと唸った。

「よくお似合いですよ。肌の色が白いから、黒のローブとのコントラストが素敵で」
「……そうですか?」
「そうそう。それに、ほら、恋人も似合うと言っているんだし」

マダム・マルキンは囁いた。恋人というのがリーマスを指しているのだと気づくのに時間がかかった。

「え!?あ、いや、彼はそうではなくて」
「照れることはないでしょう。それで、どうします」

は頭に血が上ったせいか、何だかどうでも良くなってきて、これにしますと答えた。

 

もとの服に着替えて外に出ると、マダム・マルキンはローブを受け取り、手際よく包み始めた。べつに袋に入れてもらうだけで良かったのだが、彼女は綺麗な包装紙にローブを包んでいた。

「あの、おいくらですか?」
「お代ならもう受け取りましたよ」
「えっ?」
「ほら、外で待っている、あなたの恋人から」

混乱していたは、もはや訂正することを忘れて呆然としていた。

「お似合いですよ、このローブも、あなたと彼も。良いですね、幸せでしょう」

その言葉にどう応えたのか、は憶えていない。

 

「リーマス、ローブのお金、」

店の外に出、待っていたリーマスに言うと、彼は首を振った。

「いいんだよ。クリスマス・プレゼント」

でも。それ以上、言葉が出なかった。嬉しい、……でも、申し訳ないとも思ってしまう。

「私、そういうためにリーマスを誘ったわけじゃ」
「解っているよ」
「それに、私、ホグワーツで生活してるから、お金も使わないから余ってるし」
「名目が大事なんだよ。クリスマスのプレゼントだ、っていう」

でも    リーマスは、今、きちんとした収入があるのだろうか。が相変わらず浮かない表情をしているので、リーマスは苦笑いを浮かべ、続けた。

「それなら、後で半分をシリウスに請求しておこう」

リーマスがおどけて言ったので、も笑みを浮かべた。ああ、そうだ、シリウスといえば。

「リーマス、私、話したいことが」
「ああ。私も、聴きたいことがたくさんあるよ」

 

長い時間留まっても差し障りがないように、カフェではなく漏れ鍋へ戻ることにした。ここならば、バーも食堂もある。

「リーマス。私、『犬の足跡のついた』便りは、貰っていないのよ」

席に座ってから、はすかさず言った。すぐにでも言い出さないと、切り出すのが困難になりそうだった。リーマスはえ、と目を丸くさせた。かなり驚いているようだった。

「まさか、そんな」
「そのまさかよ」

は今まで溜まっていたことを吐き出すように、強く答えた。

「ねえ、薄情じゃない?リーマスには手紙を書いたのに、私には音沙汰なし、なんて」
「ああ、まあ、……」
「せめて、一通くらい」

は口を尖らせるが、リーマスは歯切れの悪い相槌を打っただけだった。

「シリウスの気持ちも、解らなくもないな」
「えっ」

は声を荒げた。リーマスは賛同してくれると思ったのに。

「いや、ね」

目を見開かせるに、苦笑してリーマスは続ける。

「正直に言うと、君と10年ぶりに会った時    少し、戸惑いがあった。長いブランクがあったわけだからね。もちろん、すぐにそんな感情は何処かへ行ってしまったが、シリウスもそれは感じていると思う。君たちの関係なら……尚更だろう」

は黙った。リーマスの言う通りだった。リーマスと再会したあの時、嬉しさで一杯だったが、気詰まりを感じたのも事実。たしかに    その思いを、シリウスにはより感じたのも、また事実だった。

「まあまあ、そんなに気難しい顔をいないで」

ははっとして、ぎゅうと寄せていた眉をもとに戻した。

「私がシリウスに伝えよう。が拗ねている、って」
「やめてよ」

口に含んだ紅茶を、慌てて飲み込んでは言った。リーマスはくつくつと笑う。冗談だよ、と。

「ともかく、彼なりに理由はあるのだろう。君の気持ちも解るがね」
    そうね」
「ああ、そうそう、マッド・アイはどうだい?ハリーの勇姿も聞きたいな」

は気を取り直し、紅茶のおかわりを頼んで、洪水のように勢いよく語り始めた。

 

ナイトバスに乗り込み、は振り返った。

「今日は、楽しかった」

私もだ、とリーマスは微笑んでくれた。
    嫌だな。学生時代や去年は、「また明日」だった別れの挨拶が、「またね」になった。次にいつ会えるのか、分からないなんて。

「リーマス、……これ、本当にありがとう。大切にするからね」

赤いリボンの巻かれた包みを抱き締めが言うと、リーマスはああ、と答えた。彼は手を振り、バスから一歩下がる。

「恋人との別れは辛いねえ」

車掌のスタンが言ったが、は半ば面倒だったので否定はしなかった。リーマスの耳には聞こえていたのか否かは分からなかったが、彼も否定はせず、「また」と言った。扉が閉まり、バスが発車する。

「オグワーツ、だったな。アーン、出してくれ」

スタンの声をぼんやりと聞きながら、は席に座った。最後にリーマスに手を振ろうと思ったが、発車したバスからはあっという間に彼の姿は遠退いて行った。

 

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08/1/16