広間へ行くと、既にそこにはマクゴナガルの姿があった。赤いタータンチェックのローブを着ている。
「ああ、、よく似合いますよ」
「……ありがとうございます」
小声で答え、は辺りを見回した。壁は銀色の雪のようなもので覆われ、天井にもヤドリギやツタの装飾が施されている。いつものクリスマスよりも気合の入った飾りつけに、圧倒された。
こんなところでダンスなんて、無理だ。適当に頃合を見て帰ってしまおう。代表選手であるハリーたちのダンスを見終わったら、……。
90. Xmas Day
クリスマスダンスパーティ
はバタービールを飲みながら、ぼんやりとダンスパーティを眺めていた。
みんな、上手いな。それに衣装がとてもきまっている。ダンスができるのって、当たり前なのかな。
しかし、ハリーのたどたどしいダンスには思わず噴き出してしまった。ジェームズは、ダンスは上手くこなしていた。そこは父親に似なかったのねと、は微笑ましく思った。
しばらくぼうっとしていたが、やがて息を切らせたハーマイオニーがやって来て、我に返った。
「暑いですね」
ハーマイオニーは言った。頬が紅潮している。飲みものを勧めると、ありがとうございますと彼女は受け取った。ドレスローブを纏い、髪を結い上げた彼女は、とても可愛らしかった。少女のような普段の雰囲気から、大人っぽさが窺える。
「ハーマイオニー、とてもよく似合うわね」
「いえ、……さんも、とても素敵です、そのローブも」
「ああ、ありがとう。これはね、リーマスが
言ってしまってから、ははっとした。ハーマイオニーがどこか不審そうな表情を浮かべた。
「ルーピン先生が、どうなさったんですか?」
ハーマイオニーは平然を装っていたが、声のトーンが少し上ずっていた。変に誤解されても困るが、ここで誤魔化すのもかえって怪しいと思い、は「プレゼントしてくれたのよ」とさらりと答えた。ハーマイオニーは目を僅かに見開かせる。
「あの……さんと、ルーピン先生って」
「ハーミーオウン」
低い声がして、2人が振り向くと、ビクトール・クラムが立っていた。ハーマイオニーのパートナーであり、ダームストラングの代表選手。
「探しました」
「え、ええ」
がどうぞと手で促すと、ハーマイオニーは軽く会釈をして去って行った。
なかなかお似合いの2人だけれども、ハーマイオニーは、ロンに気があると思っていたのにな。は考えながら、クラムとハーマイオニーの背を眺めていた。
は自室に戻ってしまおうかと思ったが、教師たちはこの広間から去る者はおらず、仕方なくもう少しこの場に留まることにした。再び椅子に座ってぼんやりとしていると、「」と頭上から声が降ってきて、顔を上げた。ダンブルドアだった。
「一人かの?」
ええ、と答えると、彼は右手を差し出してきた。
「では、わしと踊らんか?」
「えっ!」
「こんな老いぼれとでは嫌かもしれんがの」
「そ、そんな、違うんです……私、
ふふ、とダンブルドアは笑う。
「わしとてそうじゃ。ダンスを踊る時の教訓はの、『適当に』、じゃ」
ダンブルドアはぱちんと右目を閉じた。
「こんなことを言うてはミネルバに叱られてしまうの」
もくすりと笑った。
ダンブルドアは確かに『適当に』踊っているようだった。ゆるやかな音楽に合わせて、ただ身体を動かしているだけ。しかし、彼の身のこなしは、きちんとダンスをすれば上手いのではないかと思われた。彼がリードしてくれたので、もそれに委ねているだけだった。
「、よう似合うておるよ、そのローブ」
褒められるのは、これで何度目だろう。胸の中がこそばゆいけれど、やはり嬉しさもあった。
ジェームズやリリーや、
「ありがとう、ございます」
「リーマスと選んだのかの?」
え、とは顔を上げた。
「知っていらしたんですか?それとも」
「君のことじゃから、ローブは持っておらんと思うた。当たっておったじゃろう?」
ダンブルドアは悪戯っぽく笑う。そうか。マクゴナガルだけではなく、彼の気転でもあったのか。
「それに、近状をリーマスにも知ってもらいたかった。話してくれたじゃろう?」
「え、ええ……近状、ですか?」
「そうじゃ。良くない事件を耳にすることが多くての。リーマスには、ここでの出来事を知っておいて欲しかったのじゃ」
何だろう。意味深な言葉だ。彼が、またここで働くということだろうか?けれど、それは半分は建前なのだろう。きっと、この優しい老人は、親友と引き会わせてくれたのだ。
「リーマスの様子は、どうじゃった?」
「仕事は、……決まっていない様子でした」
「そうか……やはりの」
感慨深い様子で、ダンブルドアは唸った。はつい、思っていたことを口にしてしまった。
「それなのに、リーマスは、このローブを私にくれたんです。クリスマスプレゼントだ、って」
「そうじゃったか」
「でも、リーマスは、……そんな余裕あるはずがないのに」
が俯くと、ダンブルドアは力を込め、ぎゅうとの手を強く握った。
「わしがリーマスでも、そうしたじゃろうて。大切な人に贈りものをするのは、その人を想うてのことじゃが、何より自分のためでもあろう。自分の大切な人が喜んでくれれば、贈りものを大事にしてくれれば、自分もこの上なく幸せな気持ちになれるじゃろう?」
ははっとした。嬉しいと思う反面、申し訳ないと考えてしまった自分が情けない。
「わしは、の、。君たちの絆が微笑ましくもあり、羨ましくもある」
ダンブルドアは深いブルーの瞳を揺らした。
「君たちには、友情や男女、そういったものを越えた何かがあるように思えての」
君たち。私とリーマスのことだけでなく、『みんな』のことだろう。
「私も……そう思います。みんなに逢えて本当に良かった。この場所で。この、ホグワーツで」
この、ダンブルドアの魔法の庭で。
ダンブルドアは、嬉しそうに大きく頷いた。顔に触れた彼の髭が、くすぐったかった。
『リーマス、この前はどうもありがとう。お陰で、ハーマイオニーにも、マクゴナガルにも、ダンブルドアも、褒めてくれました。よく似合う、って。あの時は気が動転していたし(というのも、「クリスマスプレゼントだ」って男の人に何かを貰うのは初めてだったから)、もう一度お礼を言いたかったので、手紙を書きました。本当に、ありがとう。嬉しかった、……。それじゃあ、寒いけれど、身体に気をつけてね。
』
そう。私は、みんなに出逢えて、幸せだった。そして、今も、2人がこの空の下で生きていてくれることが、幸せ。だから、2人にも、幸せになってもらいたい。そのために、私ができる精一杯のことをしよう。
でも、本当の幸せって、一体なんだろうか。
私は
は、首を傾げながら待っているふくろうにそっと笑いかけ、手紙をくわえさせた。
「ねえ。ちゃんと届けてね。クリスマスであなたも休みたいだろうけど。とても大切な人への手紙だから」
ふくろうは頷いた
そして、星が輝く空へと吸い込まれるように飛び立ってゆく。
聖なる夜。この夜に、人びとは一体どんな想いを抱くのだろう。
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08/1/16