ハリーやロン、ハーマイオニー、ジニー、アーサー、それにリーマスとムーディの姿もあり、楽しい食事となった。ハリーは落ち込んだ様子を見せず、元気そうだった。それが、却って痛々しく思えたのだけれども、彼も彼なりに必死なのだろう。ただ、モリーとジニーが少々不機嫌だった。
その場にいた、もう一人の人物。フラー・デラクール。一昨年の、トライウィザード・トーナメントの代表選手の一人。その彼女が一体どうしてここにいるのかと疑問に思ったが、その理由は彼女の口から聞くことができた。
「私、ビルと結婚するんでーす」
105. wish for the MOON
ねがいとちかい
そのニュースに驚いたのは、だけだった。モリーとジニーは目を吊り上げ、他は無関心を装っていた。ああ、そうか。モリーとジニーは、この結婚をあまり快く思っていないのか。モリーは、母親の心情として解る気もするが、ジニーは何故だろう。大好きな兄を取られて、嫉妬心でも抱いているのだろうか。それとも、単にフラーのことが気に食わないのか。
「それは……おめでとう」
「はい、私、とっても幸せでーす」
ジニーがふんと鼻を鳴らすのが聞こえ、は苦笑した。
「わざわざありがとう、」
食器の片付けを手伝うと、モリーが礼を告げた。彼女は杖を動かし、皿を洗っている。
「いいのよ、これくらい」
そう言い残してキッチンを去ろうとモリーに背を向けるが、「あ、ちょっと」と呼び止められ、振り返る。
「……その、こういうことを聞くのは、良くないと思うの。でも、子供たちが話をしていてね
唐突過ぎる質問に、は何度も目を瞬かせた。
「そういうことに……なるのかな」
こいびと。いまいちしっくりこない響きだけれど、一応、そういうことになるのだろうか。
ぽつりと答えると、モリーは杖を動かしていた手を止め、と向き合う。
「そう。ごめんなさいね、変なことを聞いて。いえね、ほら、あなたとリーマスが恋人同士だって、少し前に噂を聞いて……子供たちからね
饒舌なモリーを訝しんだが、は適当に相槌を打っていた。
「ねえ、本当に、リーマスとは」
「私がどうかしたのかい」
モリーははっとし、は声の聞こえた背後を振り返った。リーマスが立っていた。
「ああ、え、ええ……どうしたの、リーマス。何か?」
「いや……食後に紅茶が欲しいと思ってね」
「ああ、それは気づかなかったわ!ごめんなさい、すぐに作るわ。もリビングへ行っていて」
リーマスもモリーの異変に感づいているようだったが、何も言わなかった。
一体、どうしたというのだろう。ウィーズリー家と、それを取り巻く環境に、何かぎしぎしとした空気が張り詰めているように感じられた。
食後の茶会も終わり、すっかり満腹になったは、リーマスと共に隠れ穴を後にした。結局、モリーの話の続きは聞けずじまいだった。
夜は更け、ふくろうの鳴く声が聞こえる。ほう、ほう、ほう。胸に染み入るような、不思議な響きを持つふくろうの声は、何と言っているのだろうか。
「は、ロンドンにアパートを借りているんだったね」
リーマスの問いに、ええと答える。グリモールド・プレイスに居続けるわけにはいかなかったし、ホグワーツの事務員でもなくなったので、そこに居座るわけにもいかない。ゆえに、キングズ・クロスの近くに部屋を借りて住んでいた。そこまで姿現わしをすればすぐ済むのだが、リーマスと話をしたかったので、しばらく歩くことにした。
月明かりが、道を照らす。2人の長い影が、ぼんやりと前方を歩いていた。
「私もロンドンに住んでいるんだ。もうすぐ離れるんだが」
「
が言うと、リーマスは僅かに声のトーンを落として、そうかと言った。
「ねえ、本当にやるの?危険過ぎない?」
「ああ、大丈夫だよ。上手くやる」
「でも」
彼の決心は解る。私だって、同じことをしただろう。でも、やはり、心配。彼の顔を見て、不安が押し寄せてくる。あなたをうしないたくはないの。でも、彼を止めることは不可能だと、解っていた。
「……無理、しないでね」
「ああ」
「絶対に、無事で帰って来て」
大丈夫、とリーマスはにこりと笑ってみせる。もつられて笑みを作った。
「こそ、ホグワーツを辞めて、騎士団に従事すると聞いたが」
「ああ、うん」
「君の方こそ、無茶はしないでくれ」
お互いにお互いを失うことを恐れている。けれども、それぞれの気持ちが解るので、引き止めることはできないと悟っていた。もう誰も死なせたくない。そのために、自分ができることのすべてをしたい、と。
「
「チェスボード?私たちがいつも使っていたものかい?」
「そう」
何度使ったか分からない、チェス盤と駒。ジェームズとシリウスと、リーマスと、私。ピーターはゲームを見て楽しんでいたっけ。そこに、リリーも加わるようになった。思い出の詰まったチェス盤。最近では、シリウスとリーマスと、3人で使っていた。
「ハリーは、あの屋敷を引き継いだのよね」
「ああ。そう言っていた」
「クリーチャーは?」
「ホグワーツで働かせることにしたらしい」
成程、それは考えたものだ。バックビークは、ハグリッドがまた育てることになったと、この前彼が話してくれた。シリウスのものは、違う者へと引き継がれてゆく。そうして、シリウスの面影はどんどん薄れていってしまう、……。
「……今までずっと……シリウスがもういないんだ、って……死んでしまったんだって、実感がなかった。でも……遺言だ、遺産だっていう話を聞いて、ようやくその事実が呑み込めた気がする」
受け入れたくはない。でも、その現実から逃れることは、シリウスの存在も否定してしまうことになるのではないか。
「前にも言ったの、憶えている?オリバンダーの店から帰る時。ジェームズとリリーのこと。ふたりの死を受け入れないことで、ふたりが存在したことも否定しているんじゃないか、って。シリウスのことも、同じ。まだ、辛いけど……いつか、笑って、シリウスとの思い出を話せたらいいな」
「」
「『死』はすぐ身近にあるのね……でも、だから、私たちは『生』を、生きる喜びを、感じられるのよね」
「ああ、そうだね
生があれば、死がある。死があるからこそ、生の意味がある。だから、シリウスの死を否定することは、その事実から逃げることは、シリウスの生をも否定してしまうことになるのではないか。
彼の死は、とてもとてもとても辛く、悲しい。けれど、それをなかったことにしては、駄目。
彼はたしかにそこに『いた』のだから。
「でも、もう、誰かを失うのはいや」
は、立ち止まり、リーマスを見上げた。リーマスもを見返す。
「死なないで……リーマス
ジェームズとリリー、そしてシリウスは、もうこの世にはおらず、1人は
「君もだ。君も、死ぬな……」
は、頷く。
ありがとう、リーマス。生きていてくれて、ありがとう。私を必要としてくれて、ありがとう。
「リーマス、またチェス、しようね」
リーマスは微かな笑みを浮かべた。
「ああ。きっと、必ず」
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08/1/18