「誰がそう言った?お前たちが勝手にそう考えていただけだろう」
「でも」
「うるさいぞ、ワームテール」
ぴしゃりと言われ、ピーターは口を噤む。
「私も驚いてはいる。だが、この娘の意識に入り込んだ時も、磔の呪文によってだった。作用したのか。加えて、ダンブルドアらの死で気も滅入っていた」
『生きる希望もないって、どんな気持ちか分かる?』。先ほどのの言葉を、ピーターは思い返した。
「ベラトリックスもいるのだろう?早々に片付けて、帝王のもとへ戻るとしよう」
113. And Then There Were None
そして 、
ワームテールの奴め、何をしているんだ。
ベラトリックスは、赤い炎に包まれる亡者たちを見やりながら舌打ちする。すぐ近くの裏路地にある地下道は、死喰い人の拠点の1つと通じていた。そこから亡者を呼び寄せる番を、彼に任せてある。にもかかわらず、数刻前から亡者の増加がぱたりと止まってしまっていた。
あのグズ、何をしているんだ。帝王の復活を助力したというだけで、他には役に立たない臆病者だ。その功績が大きいのだけれども、今は私の方があの方の役に立っている。
ディメンターの数も亡者の数も数えるほどしかいなくなり、ベラトリックスは下唇を噛んだ。不味い、押されてしまっている。
その刹那、赤い光線が目に入り、咄嗟に横に避けた。ひゅう、と耳元で風が鳴る。閃光が発せられた方向を見ると、ムーディがこちらに杖を向け、すぐというところにまで迫っていた。
「ステューピファイ」
呪文が聞こえたかと思うと、先ほどと同じ赤い閃光がムーディを撃ち、彼は吹き飛ぶ。
誰だ?ワームテール?あいつにしてはやるじゃないか。
ベラトリックスは振り返る。そこには、確かに彼の姿もあった。しかし、杖を構えて立っていたのは、・だった。
ベラトリックスは混乱した。一体どういうことだ。罠か?いや、違う。騎士団の奴らも驚いている。彼らは仲間の行動に硬直していた。リーマスとトンクスは倒れたムーディのもとに駆け寄り、ムーディは上半身を起こす。
「どういうつもりだ、!」
ムーディは苦渋に満ちた声を絞り出した。
「本来の私に戻った。そういうことだ」
その言葉と声音に、リーマスは驚愕する。
「まさか……フィンスターだというのか……!?」
「その通り」
そんな馬鹿な。何故今になって。リーマスは驚くと同時に混乱し、絶望的な気分が胸を侵食しはじめた。いや、だが、先ほどは頭に痛みを感じていたようだ。もしや、死喰い人と遭遇したことで、再びフィンスターの意識が表に出てしまったというのか。まさか十数年前のあのできごとが再来するなんて。だから止めたのに。もっと強引に引き止めておくべきだった。
「そんなことが信じられるか!」
ベラトリックスが叫ぶ。
「フィンスター・は死んだのだろう!何かの策略だろう、違うか!」
「お前たちが勝手にそう思い込んだだけだ。現に私はこうして生きている」
「そんな話が
ベラトリックスは、離れた場所でそわそわするピーターを睨む。
「わ、私がクルーシオを唱えたら……フィンスターが姿を現わしたんだ」
「どういうことだ?」
リーマスもピーターを睨む。ピーターは、かつての友人と、ベラトリックスの顔を交互に見やり、震えた。2人から張り詰めた様子が伝わってくる。
「この娘の中に私の意識が宿ったのは、磔の呪文と、杖と、闇の力が作用したからであろう。今回もそれらが結びついた。ワームテールの磔の呪文と、そして、弱った娘の心」
淡々と語るを
「証拠は?」
ベラトリックスが低く尋ねる。
「証などというものが欲しいか、ベラトリックスよ。そんなことよりも、私は何故お前がこんなところにいるかが気になるな。何故、こんな雑務のようなことをおこなっている?帝王の片腕だと、お前自身で豪語していたではないか」
「うるさい!」
「まあいい。証明してやろう
フィンスターは杖を持った腕を上げる。
そして、ゆっくりと、ムーティの隣に膝をついているリーマスに杖を向けた。
リーマスは、信じられないといった表情をしていた。トンクスの顔からは血の気が失われる。
「うそ……やめて……やめて!」
トンクスは叫び、ムーディと他の団員は呆然とした。
リーマスは歯を食い縛る。信じられない。信じたくはない。親友であるはずの、彼女の姿を見つめた。しかし、冷淡な視線を返される。リーマスはきつく目を閉ざした。ジェームズとリリーもいない。シリウスもいない。ピーターには裏切られた。そして、最後に残った彼女も、失われてしまった。
もうわたしひとりになってしまった。
虚脱感。リーマスの身体から力が抜けていった。せめてもの救いが、最期は親友の手にかかるということかもしれない。フィンスターは許せない。けれど、彼の身体は紛れもなくのもの。
願わくば
リーマスは親友の姿をした目の前の人物に、瞬きをすることなく視線を送った。
「アバダ ケダブラ」
ベラトリックスとピーターは目を丸くした。彼女
緑の閃光がリーマスを直撃し、彼は大きく後ろに飛んだ。
誰も動けなかった。あまりに信じ難く、突然の出来事だった。
「リーマス
トンクスが声にならない声を上げる。ムーディは我を忘れていたが、やがてはっとし、落とした杖を拾い、立ち上がる。ベラトリックスも覚醒して、杖を構えた。
「全員殺すか?戻るか?」
フィンスターが尋ねると、ベラトリックスは一瞬考えて、答えた。
「戻ろう……分が悪い」
ベラトリックスは右手で合図をし、残った亡者とディメンターをムーディたちにけしかけ、裏路地へ駆けて行った。2人もその後に続いた。
「いやだああああ!リーマス、リーマスっ……!」
トンクスの悲痛な叫びが、いつまでも路地に響き渡っていた。
地下道に入り、そこを通って行くと、ノクターン横丁に出た。念のためにこの地下道は封鎖させる、と、ベラトリックスは呪文を唱え、地下への穴を塞いだ。
ノクターン横丁の路地を通り抜け、1軒の屋敷に入って行く。
「まさか、本当に殺ろうとは」
後に尾けている者はいないか確認しながら、ベラトリックスはぽつりと言った。
「しかも、親しかった友人を」
「『私』が親しかったわけではない。だが、これで信じてもらえたろう?」
「……ああ。だが、とりあえず、だ。絶対的に信用したわけではない」
ベラトリックスはそう言い放ち、屋敷の奥へ進んで行った。やれやれ、と肩を竦めてみせる。
「これで誰もいなくなったな」
ベラトリックスの後に続こうとするピーターの背は、びくりと震えた。
「もとより小娘自身はいなくなった。そして、ワームテール、貴様は裏切り、先に最後の1人が死んだ。友情などつまらぬ、脆いものだ。そうは思わないか、ワームテール」
ピーターは答えなかった。
「娘の記憶があるというのは、実に面白いな」
「なに?の記憶が残っているのか?」
「ああ、興味深いぞ。この娘は、貴様が裏切ったと知ってからも、貴様を恨み、嫌うことはなかった」
「えっ、……」
「甘いことだ、まったく。虚しいな」
ピーターはしばらくじっと動かなかったが、やがて再び歩き出した。
奥へ行くと、寝室があった。ベラトリックスはベッドの前に立ち、杖を取り出す。そして、口の中で呪文を唱えると、ベッドが退いた。その下の床には複雑な模様が描かれていた。
「魔法陣?」
「さすがフィンスター殿、よくご存知で。遠い昔に失われた技だが、帝王はその術を見につけられた」
感情を込めず、ベラトリックスは述べた。
魔法陣。その紋様の描き方によって様々な効果が起こる。書物には書いてあることだが、ベラトリックスの言う通り、今では失われた術なので、実際に目にしたのは初めてのことだった。
「多くの魔法陣がそうであるように、これも移動の魔法陣だ。姿現わしよりも確実で、魔法が使えない者も移動させることができる。陣を広げれば、大勢の者を運ぶこともできる。しかも、その紋様に合った言葉を口にしなければ、陣の効果が発動することはない」
ベラトリックスは語りながら、陣の上に乗った。
成程、それで亡者を呼び出していたのか。姿現わしやフルーパウダーでは、他の人間に気づかれる場合があるし、面倒だ。便利な術だ。
ベラトリックスに促され、2人が陣の上に乗ると、彼女は杖を陣の上にかざし、ぽつりと言葉を口にした。
ぐいと全身に重力がかかり、視界が歪んだかと思うと、辺りの景色が変わった。もっとも、寝室から居間のような部屋に変わっただけで、薄暗く埃っぽい空気に変化はなかった。
ベラトリックスは杖をしまい込み、すたすたと部屋を出て行った。ピーターも後を追う。
「ベラ!」
甲高い女の声が聞こえ、部屋を出ると、ナルシッサ・マルフォイがいた。ベラトリックスの妹で、ルシウスの妻。そして、その隣には、こちらを見て目を見開く男。
「どういうことだ!?何故」
「落ち着きな、スネイプ」
声を上げるセブルス・スネイプを、ベラトリックスが窘めた。
TOP | BACK | NEXT
And Then There Were None 『そして誰もいなくなった』 Mother Goose
魔法陣のことも私の創作です。以前連載していた創設者時代の長編に先に出したのですが、こちらでも使ってみました。 08/1/20