「そんな馬鹿な」
ベラトリックスの言葉に、セブルスは吐き棄てる。
「でも……フィンスター殿、死んだはずでは?」
「いい加減、面倒だ。ベラトリックス、説明してくれ」
首を傾げるナルシッサにうんざりしてみせると、ベラトリックスは渋々といった風に頷いた。
113. And Then There Were None
闇が支配する場所で
ダイアゴン横丁でムーディらと戦闘になったこと。ピーターの磔の呪文でフィンスターの意識が蘇ったこと。それらがベラトリックスの口から語られると、ナルシッサは戦力が増えたと喜んだが、セブルスは「信じられんな」と訝しがった。ベラトリックスは肩を竦める。
「私もそう思った。だが、リーマス・ルーピンを殺したのだ。間違いはないだろう」
「ルーピンを!?馬鹿な、……まさか」
「仮にフィンスター殿でなかったとしても、帝王がお会いになれば判るだろう」
「それはそれは。私はまだ疑われているようだな」
「当たり前だ。疑うなという方が無理だ。なにせ、あなたは15年以上、ダンブルドア側にいたのだから」
「それはスネイプとて同じだろう。それに、心外だな、ベラ。お前はいつから私より偉くなった?」
ベラトリックスの表情にさっと怒りの色が差す。
「私は帝王への忠誠心をずっと貫いてきた!女の中で眠っていたあなたとは違う!」
「お前がしたことと私がしたこと、全てを合算すれば、私の方が帝王の力になっていると思うが?」
「黙れ!」
ベラトリックスは叫ぶ。彼女が何か失態をしたことは、これで間違いないだろう。故に、挑発にむきになり、帝王の傍で任務をおこなっているであろうはずの彼女が、あんな場所でピーターと共にいた。
その間にも、セブルスは鋭い視線を向けていた。かつては同じ場所で働いていた女性の姿に向けて。探るような視線。しかし、それを逸らすことなく、2人はしばらく視線を交し合った。
「帝王は……もうすぐいらっしゃるわ」
「ほう、それは幸運なことだな。やっと帝王にお会いできる」
ナルシッサの言葉に大袈裟に手を広げてみせると、ようやくセブルスは視線を外した。
屋敷は想像以上に広かった。階数は、地下、1階、2階と3つほどしかないが、広々とした大広間があり、玄関ホールも広い。その中に、見覚えのある姿もあった。アズカバンから釈放されたルシウス、彼の息子、ドラコ。かつてスリザリンの寮だった者たち。
彼らをはじめ、その場にいた死喰い人の質問に、ベラトリックスとピーターが答える。
「
やがて、セブルスが低い声で言った。
セブルスの後に続いて、ヴォルデモートの待つ部屋へと向かった。しかし、彼は途中で足を止める。
「フィンスター殿。私はまだ信じられんのですが」
「それでも良い。仕方なかろう。だが、帝王にお会いしてもこの命があった時には、信じてもらえるかな」
セブルスはその問いに答えず、沈黙していた。が、やがて口を開く。
「正気ですかな?帝王の開心術からは逃れられませんぞ」
「私が嘘を吐いていると言いたいのか?」
互いに睨み合うが、先に視線を逸らせたのはセブルスだった。彼は軽くため息を吐き、「分かった」と答える。そして、歩みを進めた。闇の王のいる、部屋へと。
セブルスが戸を叩き、「先ほどの用件ですが」と言うと、中から「入れ」という声が返ってくる。セブルスはゆっくりと戸を押し、中に入った。
その部屋だけは空気が違った。重苦しく、張り詰めている、冷たい空気。明かりは壁に並んだ蝋燭の炎だけ。赤く細長い絨毯の先には、まるで王座のような背もたれの高い椅子があった。
そして無論、そこには王の姿。紅い瞳が、僅かな明かりに照らされ、薄暗い中でくっきりと際立っていた。
「フィンスター殿です」
セブルスが言うと、王はああと短く返した。そして、セブルスの背後にいる人物に目を向ける。
「卿、この度の失態はまことに恥ずべきこと。弁解の言葉も御座いません」
王座の前に歩み出、跪く僕の姿を、ヴォルデモートはじっと見下した。
「顔を上げろ、フィンスター」
ヴォルデモートは目を細める。
「いくつか問いたいことがある。残念だが、易々とお前を信用することはできんのでな」
「無論です」
「事の顛末はベラとワームテールから聞いた。ワームテールの呪文を受けて蘇ったと聞いたが?」
「はい。そのことについては既にご承知でありましょうから、割愛させて頂きます。実を申しますと、卿が復活を遂げられた時分、この娘は気を失いました。私の力が勝りかけたのですが、私は一度消えかけた存在。娘の意識を跳ね除けることは敵いませんでした。ですが、今回は、この娘は精神的に弱っておりました。愛する男を殺され、加えて、寵愛していたダンブルドアも死んだゆえに。さらに、卿の力が増大した。そこで、闇の力を受けることで復活できたものと」
ヴォルデモートは瞬きもせずに、語る僕を見つめた。
「その娘の記憶は残っていると聞いているが?」
「はい。ですが、その情報の大部分はスネイプから聞き及んでおりましょう。卿のお役立ちたかったのですが、残念です」
ヴォルデモートはセブルスに視線をやる。彼は扉の前に控えていた。
「ふむ」
ヴォルデモートは顎に手を当て、思慮に耽る。そして、ゆっくりと言った。
「私は真実だと思うが
「まことですか」
帝王の言葉に、セブルスは声を上げた。
「話の筋は通っている。フィンスターの言動も、奴のものそのものだ」
「は……そうですか」
「合点がいかぬか?」
「いえ。帝王がそう仰るなら。不意なことでしたので、少々狼狽しました。ですが、騎士団のメンバー、しかも親しかった者の命を奪うなど、本来の女の意識であったのなら不可能でしょう」
そうだな、とヴォルデモートは笑みを浮かべる。
「騎士団のスパイなのだとしたら、大した役者だ」
それ以来、フィンスター・は闇の陣営に加わった。ベラトリックスのように訝る者もいたが、他でもない帝王自身が認知したことであったので、とやかく言う者はいなくなった。
屋敷に集まった死喰い人たちは
「ダンブルドアがいなくなった今、魔法界は掌握したも同然だ。まずは、魔法省と騎士団などというふざけたものを叩き、その後マグルどもを殺す」
ヴォルデモートは王座の間で語った。同室していたのはセブルス、グレイバック、ベラトリックス、ルシウス、そして、新しく加わった僕。ルシウスはドラコやセブルスの働きにより、何とかヴォルデモートの信用を取り戻したようだ。彼自身も、それに必死だった。
「だが
ヴォルデモートは、その瞳にぎらりと血のような紅い光を輝かせる。
無論、反論する者はいなかった。しかし、ルシウスが口を開く。
「まずは、いかが致しましょうか。ホグワーツを襲撃致しますか」
「いや、それは賢明ではない」
「……何ゆえですかな、フィンスター殿」
「ホグワーツは結界も警備も強化された。あそこで戦うのは得策とは言えません」
「そうだな」
ヴォルデモートは王座の上で足を組む。
「ハリー・ポッターのことはいずれ考えるとしよう。ひとまず、主要な者を集めてアズカバンへ行け」
「アズカバン、ですか?」
ベラトリックスが問う。
「そうだ。囚人を全員脱獄させ、仲間に引き入れろ。断わる輩は殺せ。亡者の材料に使えるだろう」
王の言葉に、全員が頭を垂れた。
アズカバンへは、満月の夜を見計らい、赴いた。
その任務に当たったのは、フィンスター、セブルス、ディメンター、グレイバックをはじめとする人狼。アズカバンは絶海の孤島にあったが、前もって魔法陣を敷いていたため、容易に侵入できた。
辿り着いた岸壁のその場所は牢獄の裏側に当たるようで、見張りはいなかった。もっとも、看守はヴォルデモート側についているのだから、警備が手薄であって当然だろう。
ディメンターはふわりと宙を昇っていき、人狼たちは狼と化し、牢獄の中へ駆けて行った。
「我々の出る幕はないな」
ぽつりと漏らすと、セブルスは屈んで言った。
「我々の任は、陣を広げること」
セブルスは杖を取り出し、描かれた文様をなぞりながら、ぶつぶつと何かを口にした。
「魔法陣は、帝王にしか使えない術だと聞いたが?」
セブルスはしばらくその問いには答えず、呪文のような言葉を唱え続けた。それが終了し、陣が何倍もの大きさに広がると、立ち上がる。
「もともと描いてある陣を広げることは容易にできることなのです、フィンスター殿」
「そうか」
呟いて、空を仰ぐ。ディメンターたちは夜の闇に紛れていった。
聞こえるのは、波が岩壁に打ちつける音と、遠吠えだけ。
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08/1/20