なにもない。ここは無の世界。そう漠然と感じたけれども、快活な声が聞こえてきて、はっとした。
「やあ。君も箒を見に来たの?君もクィディッチをやるの?」
私は『ここ』にいるんだ、と、虚ろだった意識がはっきりとする。
118. under the SKY, under the WORLD
このひろいひろい空、このひろいひろい世界のなかで
ここは一体何処なのか、何なのか、夢なのか、天国なのか、死の世界なのか、そんなことはどうでも良かった。ただ、目の前の人物に懐かしさが込み上げてきて、呆然としていた。
目の前にいたのは、少年だった。黒髪で、眼鏡をかけている。相変わらずの人懐っこい笑み。
「ねえ、マグルには『動いたら負け』っていうゲームがあるんだろう?」
そう。これがジェームズとの出逢いだった。私の、奇跡のはじまり。
「ホグワーツへ行くのね?私もよ!新入生?」
「魔法よ、ま・ほ・う!すてきだと思わない?」
次に出逢ったのは、リリー。彼女の姿が、声と共に現れる。
はじめはね、明るい子だなって思った。私とは合わないかな、って。でも、素敵な女の子だなって思った。明るいけれど、それは押しつけがましいような明るさではなくて、優しく包み込むような温かい明るさだった。リリーを知るようになって、ますます彼女のことが好きになっていった。
「僕は、狼人間なんだ」
リーマス。そう打ち明けてくれたこと、その真実の重さに少しだけ途惑ったけれど、嬉しかったよ。あなたの穏やかさ、優しさ。私、とてもすき。
「ぼ、ぼくも!……ぼくも……力になる」
そう言ってくれたのは、ピーター。フィンスターと父と母のことを彼らに告白した時。そう。彼は、何気なく、無心に優しかった。ピーターの無邪気さは、温かく、胸に染みることがあった。
「ホグワーツには、多くの可能性が詰まっておる。学ぶのじゃぞ。魔法以外にも、多くのことを」
ダンブルドア。私をホグワーツへ導いてくれた。暗い場所から、私を引き摺り出してくれた。
そう。確かに、彼の言う通りだった。ホグワーツには、あらゆる可能性があった。
「授業はどうだ?難しいか?」
ホグワーツに入ってまもなく、ハグリッドがお茶に誘ってくれた。まだ学校に不慣れだった頃。気にかけてくれた彼の優しさが、嬉しかった。
「ホグワーツ入学おめでとう」
マクゴナガル先生。厳しいけれど、優しい先生。変身術は、他の科目以上に一生懸命頑張ったんです。それでもジェームズには勝てなかったけれど。初めて先生に褒められた時のこと、よく憶えています。
「今は、友達と馬鹿やってる方が楽しいから」
そして。私はあなたに恋をした。
シリウスと過ごす時間は、楽しくて、嬉しくて、どきどきした。初めは、それが恋だと気づかなかった。ううん、違う。気づかないようにしていた。怖かったから。恋をするということが。異性を好きになることが。特に女子から、シリウスはすごーく人気のあったし、私なんかよりも可愛い女の子が、たくさんいた。
でも。鈍感で不器用で、けれど、友達思いで。さりげなく優しくて。ときどき見せる、まるで夜の海のような深い瞳。彼に、惹かれていった。
でも、素晴らしく整った顔をしていたシリウスくんは、女の子から絶大な人気だった。だから、一生片思いだって覚悟してた。でも、それで良かった。それもすてきなことじゃない?それに、幸い、私はシリウスと友人同士でいられた。傍にいられたから、その関係は崩したくはなかった。
けれど。私の気持ちが知られてしまった。ごたごたが重なって、あの時はもうだめかと思った。
でも、シリウスにちゃんと言ったんだ。好きです、って。
断わられるかと思った。ごめん、って。でも、シリウスは、少し考えさせほしいって言ってくれた。真剣に考えてくれた。
「俺にとって、お前は、特別であることに変わりはないんだ」
ありがとう。本当に本当に、その言葉、嬉しかったよ。
でも、正直なところ、シリウスの答えを待つのは少ししんどい時もあった。自分に自信がなかった。私はリリーのように可愛くもないし、性格も、ほら、僻みっぽいでしょう?けれど。
「惹かれるのは、お前なんだ」
エリック。あなたのこと、はじめはものすごく嫌なやつ、と思ったけど。あなたは私に、勇気をくれた。
そして、あの夏の日。
「俺は
シリウスがそう言った時は、心臓が飛び出るかと思った。信じられなかった。夢だろうと思った。夢なら覚めないでと思った。でも、現実だった。シリウスはすぐそこにいた。泣きたいくらいに嬉しかった。
それからは、幸せ過ぎる日が続いた。けれど、少しだけ、物寂しい気持ちを抱きながら。ホグワーツで過ごす、最後の年。卒業という現実を押し隠し、考えないようにしながら。
でも。私には、もう一つ、突きつけられた現実があった。
みんなから、離れた。随分悩んで、苦しんで。みんなを傷つけ、自分も傷つけて。
「ひとのこころは、何をも簡単に越えられる。わしは、君に、幸せになってほしい」
ダンブルドアが、勇気をくれた。そう。信じるべきだったんだ。みんなのこころ、私のこころを。それに、私は、死んでしまったお父さんとお母さんの分まで、生きなければならなかった。精一杯に。
先生のその言葉で、私はジェームズとリリーに本当のことを、告げた。
「そんなことを私たちが気にするとでも思った!?」
本当に、くだらなかったね、リリー。くだらない理由で、あなたたちから離れていってしまった。みんなを信じ切れなかった、私の弱さ。だから、フィンスターに意識を乗っ取られてしまった。それでも、みんなのお陰で、また戻ってこられた。
「傍にいてくれ」
シリウス
あなたを傷つけたというのに、老いない身だというのに、まだ私を好きと言ってくれるの?
でも私は、あなたの気持ちに、素直に応えられなかった。エリックがアドバイスをくれたのにね。
「またね」
ジェームズは別れ際に、そう言った。でも、長い長いお別れになっちゃったね、……。
2人がいなくなってからは、とても辛かった。シリウスもいないし、ピーターもいない。
どこか空虚な日々。12年。
それは長かったけれど、私、ホグワーツで働けて良かった。先生たちがいてくれたから。きっとあそこじゃなかったら、押しつぶされていたと思う。それに、またリーマスと一緒に働くこともできたし、シリウスも戻って来てくれた。ピーターの真実は悲しかったけれど。
「俺の気持ちは、その時から変わってない。今も」
驚いたよ、シリウスの言葉には。私のことなんてもう何とも思っていないって、考えていたから。
本当は、私もそうだった。あなたが大好きだった。はじめから、ずっと、ずっと。
でも、私、あなたを愛しすぎたんだと思う。シリウスのことが好きで好きで、……だから、いろいろなことが、怖かった。あなたを失うこと。不老のこと。ずっと一緒にいたら、シリウスの気持ちが変わってしまうかもしれない、って。馬鹿だよね、私。そう笑ってね。
「私が歩んできた過去と、今ここにいること、それがすべてなんだ。まだ見ぬ未来じゃない」
リーマス。あなたの言葉は、いつだって私を励ましてくれた。
「ありがとう、。私は、幸せだわ。あなたに、逢えて」
アミス。あなたは、どん底の私を救ってくれた。私も、あなたに逢えて良かった。
「お前は、アイなどというものの力を、信じるか?」
ヴォルデモート卿。今なら私はイエスと答えます。あなたにも、知って欲しかった。世界は暗く、人々は醜い。確かにそんな部分もあるけれど、それ以上に素晴らしいものもある。あなたは、ダンブルドアの思いに気づくべきだった。あなたを慕う人もいることに。
『忘れないでくれ。僕らはずっと君の傍にいるんだ。君が憶えていてくれる限りね』
忘れないよ。絶対に、何があっても、みんなのこと。みんなとの、思い出。ひとつひとつ。
ジェームズ、リリー、シリウス、リーマス、ピーター。みんなだけじゃない。
ダンブルドア、マクゴナガル先生、ハグリッド、セブルス、マッド・アイ、モリー、アーサー、ウィーズリー家の子供たち、トンクス、ハリー、ハーマイオニー、ロン。エリック、アミス。
私は、こんなにたくさんの素晴らしい人たちに出逢えたんだ。
「こんなにちっぽけな存在なんだな。俺たちって」
星を見上げ、そう言ったシリウス。
そう、私たちはちっぽけで、この空は広い。でも、大きな大きな空の下、みんなと出逢えた。
それってすごいことよね?それは、奇跡だよね。その奇跡は、空と同じくらい大きく、尊いと思う。
私がここにいられた奇跡。広いこの地で、みんなと出逢えた奇跡。
それは奇跡だけれども、人の力。私自身と、私の周りにいてくれた人の。
私を育ててくれたお父さんとお母さん。ホグワーツへ導いてくれたダンブルドア。
そこからはじまった奇跡。
そう。奇跡は、人の手で、自分の手で起こしてこそ、本当の価値があるのだと思う。
辛いこと、苦しいこと、悲しいこと。ときには、何もかもが嫌になったこともあった。自分の選択に、自分の歩んできた道に、後悔がないとは言えない。むしろ、たくさん悔いていることはある。
でも、
「ねえ、。あなたは、幸せ?」
お母さん、お父さん。
うん。その答えには、今なら自信を持って、頷くことができる。
「私は幸せよ」って。そして、ずっとずっと言えなかった言葉を。
「私を産んでくれて、ありがとう」
ありがとう
ダンブルドア。
私にきっかけを与えてくれて、ときには背中を押してくれて、ありがとう。先生の温かさは、包容力は、いつも私の支えでした。
マクゴナガル先生、ハグリッド。
ときには厳しく、ときには不器用に。そんな優しさを、ありがとう。
エリック。
私を好きになってくれて、ありがとう。とてもとても嬉しかった。あのアドバイス
アミス。
あなたの存在は、あなたとの出逢いは、暗かった私の心を照らしてくれた。ありがとう。
セブルス。
本当に長い付き合いだったよね。あなたがフィンスターを演じていた私を見破ってくれたこと、実は嬉しかったんだ。本当は、誰よりも孤独を知っていて、優しい人なのよね。ありがとう。
ピーター。
ごめんね。助けてあげられなかった。そのつもりだったのに。でも、最後にあなたのこころを見ることができて、本当に嬉しかった。人の思いはうつろいやすいものなんかじゃないって証明してくれたね。あなたとのおしゃべり、楽しかったんだよ。ありがとう。
リーマス。
あなたの優しさは、温かさは、昔からずっとずっと私の支えだった。ありがとう。
ジェームズ。
はじめて出逢ったときから、太陽のように私を照らしてくれた。気さくで、お調子者で、でも誰よりも気遣いの上手いジェームズ。あなたのお陰で何度笑えたことか。ありがとう。
リリー。
最高の親友。明るくて、優しくて、誰からも人気があった。でも本当は、傷つきやすい、私と同じ女の子だった。私を頼ってくれた。信じてくれた。私も、誰よりも信頼してたよ。ありがとう。
シリウス
ごめんなさい。私、あなたのことはすごく後悔してる。どうしてもっと早くに、って。でも、もう一度同じ人生を歩んでも、きっと同じ選択をしてしまうと思う。
けれど、あなたがいてくれて良かった。私、人を愛することなんてできないと思ってた。あなたはその喜びを教えてくれた。ありがとう。
ありがとう
たくさんの出逢い、たくさんの愛、たくさんの奇跡。
そのすべてに、今、ありがとう、を。
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08/1/20