「あのね、……リーマスとピーターと、シリウスには、まだ言わないで欲しいの」

リリーが淹れ直した紅茶を飲みながら、は言った。

「私から、いずれ……言うから」
    分かった。でも、一つ、聞きたいんだ。、君はシリウスのことは……今でも?」

ざわり、と心の中が動く。は笑みを作り、答えた。精一杯の、笑顔。

「まさか。シリウスには恋人がいるでしょう」

 

57. tomorrow is ANOTHER day
あしたはあしたの、

 

「僕が聞きたいのは、君の本当の気持ちであって、建前ではないよ」
「私ね、シリウスとは、友達に戻りたいとは思ってる。でも、異性として好きとか、そういうのは……もう」
「どうして?年を取らない、から?」
「……それも、ある」

そんなの、とリリーは声を上げる。ジェームズは静かに言った。

の言っていること、分かるよ。でも、君が真実をシリウスに告げて、その後どうするかはシリウス自身で決めるべきことだ。君じゃない」
「なんて言うの?たとえば、私は不老だけど、まだあなたのことが好きです。こんな私でも付き合ってくれますか、って?」

声を荒げるに、ジェームズとリリーは沈黙する。は、ごめん、と力なく謝った。

「なんだか、前よりいっそう捻くれた性格になっちゃったみたいだね。でも、シリウスには    もう少し落ち着いたら、話すよ」
「そう、ね」

リリーはもうこの話題は置いておこう、という風に言った。そうして、時計を見やる。もつられて視線を移すと、すでに日付が変わってしまっていた。

「今日はもう遅いわ。、泊まっていって」
「そうだね、……そうさせてもらって良い?」

もちろんよとリリーは微笑んだ。

 

あれ、と間の抜けた声を漏らす。ここを使って、と案内された部屋のベッドには、枕が2つ。
立ち尽くすに、リリーはにこりと笑った。

「ああ、それ?私の分よ」
「……添い寝?」
「そ」
「ジェームズは?」
「いいのよ、べつに」

相変わらずだ。はくすりと笑った。

 

「リリー・ポッター、か」
「なあに、突然」

仰向けに呟いたの横顔を、リリーは見つめた。

「そういえば、さ。ジェームズとはどのように結婚に至ったのでしょう?」
「それは……色々よ」

誤魔化そうとするリリーが可笑しくて、微笑ましかった。

「でも、本当は、に相談にのってもらいたかったのに」
「ごめん」
「あなたを信じたかった。でも、信じることが怖かった。頭の中で、『』が占める範囲を、そっくり取り除いてしまっていたんだわ」
「ごめんなさい……」

が言うと、リリーはくすくす笑った。それに合わせてベッドもゆさゆさと揺れる。

「……。できる限り、力になるから。何でも言ってね」
「ありがと」

でも、とリリーは言い難そうに加えた。

「シリウスには、きちんと本当のことを話して。シリウス、きっと、」
「分かってる。……傷つけちゃったよね。……私が勝手に好きになって、勝手に傷つけて、……」

どうしたらいいのだろう。わたしは、どうしたいのだろう。
シリウスのことについては、分からなかった。自分の中で整理がつけられなかった。

「ねえ、    リリーは、もしジェームズが年を取らない身体になってしまったら、どうする?」
「そう、ね」

すぐ傍らにいる少女。少女というには大人びた雰囲気をまとい、女性と呼ぶにはまだ少しだけ幼さの残るリリー。私も、今は彼女と同じ時の流れにのっている。でも、いつか、そこから下ろされてしまう。
一度は別れを告げた人。でも、またこうして隣にいる。そのことに実感がなく、けれどもとても心地が良かった。やっぱり私は、リリーの隣にいたい。

「それでも、ジェームズがジェームズでいてくれたら、変わらないと思うわ」
「そっか」
「変えられない、と思う」
「あらら。いつの間にそんなに好きになったの?」
「知らぬ間よ!」

薄暗闇の中でも、リリーが頬を染める様子が目に見えるようだった。くすり、と笑いが漏れてしまう。

「でも……そんな風に簡単に割り切れる問題ではないのよね。きっと、私もジェームズも、お互いにお互いを遠慮というか気遣うところが出てくるだろうし、色々思い悩むこともあると思う。ジェームズの辛さを分かってはいるつもりだけれど、完全に理解してあげられるわけではない。それでも、傍にいたいと思う、……と思うかしら」
「……そう」
「あなたも同じよ、。あなたの苦しみを完全に解ってあげられるとは言えない。でも、あなたの傍にいたいと思う。あなたを好きだと思う。だから」
「うん、ありがとう」

私も同じだよ、リリー。この身体の呪いを悩む気持ち以上に、リリーへの思いが強かったんだね。

「人の気持ちって、うつろいやすいものだって、あなたは言っていたけど」
「あ、聞いてた……?あの、それは」
「分かってる。でも、変わらないものもあるのよ」

私の見た目は変わらない。でも、同じように、変わらぬものもある。

「……分かる。すごく、分かる。私、結局、変えられなかった」

みんなへの思い。リリーへの思い。
だからせいいっぱい、大切にしていきたい。

「私、リリーのこと、ジェームズのこと、守るから」
「えっ?」
「ヴォルデモートになんか負けない。絶対、守るから」

望んではいないのに手に入れた力。それは、うまく利用すれば価値あるものとなるだろう。そうして、また、みんなで笑って暮らせる世の中にするんだ。そのための力だと、そう思おう。

「かっこいい、。頼りにしてるわ」

リリーがうっとりとしてみせて言う。
「任せて」、とも力強く微笑んでみせた。

 

 

ホグワーツ特急。窓に額を押しつけ、移ろう外の風景をぼんやりと眺める。
     言って良かった、のだろう。2人は受け入れ、支えてくれると言った。もっと早くに2人を信じられれば良かったのかもしれない。でもまだ、脈がどくんどくんと音を立てて鳴っている。
悲しいようだが、2人がどんなに自分を支えてくれると言っても、所詮これは自身の問題。結局は、自分が強くならなければならない。2人に話をしたのは、その第一歩。強くなるんだ。強くなって、私がリリーとジェームズを支える。幸せになってもらいたい。もちろん、リーマスにも、ピーターにも、シリウスにも。
でも、シリウスには。シリウスだけには、まだ言う勇気が持てなかった。

シリウスのことを考えると、胸が苦しくなる。でも、仕方がない、仕方がないと割り切るしかなかった。
彼へ抱いたのは、友情とは異なる感情。だから、辛い。彼と共に、同じ時を歩めないから。
もう少し、強くなったら。彼のことを忘れられるくらい強くなれたら、話をしよう。

 

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07/12/13