闇の中に、ぼう、と鈍い色の光が浮かび上がる。それは、やがて人の形になった。
どこかで見たことがある。否。見たことがある、などという程度ではない。あれは私だ。
自分の姿をしたそれは、勝手に歩き、手を動かし、表情を作っている。
どうして?私なら、ここにいるのに。
自分で自分を見下ろすような、不思議な     けれども、気持ちの悪い感覚。
いや。いやだ。

なに言ってるの。もう、そんなの、慣れたでしょう?自分を押し隠すこと。もう一人の自分がいて、本当の自分を見下ろしている。あなたはいつもそう。いつもそうやって、自分を『ふたり』つくっているのよ。
きっと、いつか、本当の自分を見失うことでしょうね     

 

60. UNREAL image
あるべきかたち

 

薄っすらと目を開けると、天井が見えた。先ほどの夢がやけに鮮明に記憶の中に残っている。けれども、軽く手を動かしてみるときちんと自分の思い通りになったので、はほっとした。
身体を起こすと、ベッドの上にいることが分かった。部屋の中には誰もいない。だが、外はざわざわと騒がしかった。
私、どうしたんだっけ。確か、ダイアゴン横丁でヴォルデモートと対峙して、……それで、そう、頭に激痛が走り、それから……たぶん、倒れたんだ。もう痛みは引いていたが、どこか意識がはっきりとしないような気がした。寝不足のような。
みんな無事だろうか。ジェームズはヴォルデモートと対峙していたけれど。
    ヴォルデモート。あれが。あの男が、ヴォルデモート。闇の王者。恐ろしい風貌。けれども。
……けれども、……?

ばたん。扉が開かれ、赤毛の女性が入って来る。ベッドの上に腰掛けたを見て、顔を綻ばせた。

!良かった……大丈夫?」
「うん、私は。それよりも、ジェームズたちは」
「無事よ」

の隣に腰掛けながら、リリーは言った。

「ただ……メドウズとフェンウィックの2人が……」

リリーは顔を俯かせた。そう、と言いながら、も目を伏せる。
死。死んでしまった    。あの2人。この前まで、何気なく会話を交わしていたふたりが。
再び扉が開かれ、ジェームズがやって来た。彼も、の姿を見、微笑む。

、大丈夫?」
「うん……ごめんね、心配かけて」
「いや。僕の方こそ、ありがとう」

も微かに笑みを浮かべ、尋ねた。

「でもジェームズ、どうしてあんなところに?」

シリウスと共に漏れ鍋を出て行った彼が、何故一人であんな裏路地にいたのだろう。

「それが、ね。セブルス・スネイプの姿を見かけたんで、後を追ったんだよ」
「セブルス?セブルスも、死喰い人に?」

そうらしいよ、とジェームズが答え、詳細を尋ねようとしたところにダンブルドアが現れた。そして、リーマス、ピーター、シリウスもやって来る。この小部屋に7人が収容されると、さすがに狭く感じた。

、大丈夫かね?」

3度目の問いともなると少し疲れて、ははいとだけダンブルドアに言った。

「アラスターから話は聞いた     例の、頭痛かの?」

例の頭痛。満月の夜、セブルスを追いかけた時に感じた痛み。そして、防衛術の授業で、ボガートと対面した時の痛み。その時の激しい頭痛に、今回の痛みも似ていた。

「そう……かもしれません」

曖昧に答えると、ダンブルドアはうむと唸る。

「本物のヴォルデモートと会ったことで、発現したのかもしれん」

ダンブルドアの言葉に、シリウスとリーマス、ピーターは眉を寄せる。

「発現、って……フィンスターの意識が、ですか?」

尋ねたのは当のではなく、ジェームズだった。事情を知っているジェームズとリリー。そして、知らぬシリウスとリーマス、ピーター。彼らの驚き方には、明らかに違いがあった。

「そうかもしれん     何ともないかの、
「……はい」
「なら良いが。しかし、今一度、ポンフリーに看てもらいなさい」

ダンブルドアの表情はあまり冴えなかった。

「……どういうことですか?」

訳の分からぬやりとりに、とうとうリーマスが口を開いた。彼の言葉に、ダンブルドアは僅かに目を見開いて、を見る。話していないのか、と。目を逸らすに、リリーは言った。

は、疲れていると思います……今は、休ませてあげて下さい」

ありがとう、リリー、……。
は心の中で呟いた。

 

とリリーを残し、部屋を去った途端、シリウスが口を開いた。

「どういうことだよ」

ジェームズはしばらく無言のまま歩いていたが、やがてのいた部屋から離れると、答えた。

    の口から聞いてくれ。そのうち話してくれると思うから」
「そのうち、ねえ。君とリリーは、もう知っていることなんだ?」

冷ややかに言うリーマスに、ジェームズは顔を歪めた。

「僕らは……無理に聞き出した、っていうか」
「いいんだよ。が何か隠していたのは知ってたし。何か事情があるんだろう?」
「いや」

3人の間にダンブルドアが割り込んだ。

「話しておいた方がいいじゃろう    ヴォルデモートに、多少なりとも関わっていることじゃ」

ジェームズは口を噤み、沈黙した。しかし、軽く息を吐いて、再び口を開く。

「フィンスター・のお祖父さんだ。憶えてるだろう?奴は、が小さい頃、の家を襲った。その時、奴がに呪文をかけたことで、……奴の力と意識が、に移ったんだ」

シリウスとリーマスははっと息を呑み、ピーターはぱくりと口を開けた。

「……ヴォルデモートと対面したことで、フィンスターの意識が蘇ってしもうかと思うたが……大事ないようじゃったの。ただ、あの頭痛のことは、気になる」

ダンブルドアは言い、ぽんとジェームズの肩を叩き、去って行った。

「そのせいでは、いらぬ力を    闇の魔術や許されざる呪文の力を受け取ってしまった、っていうわけさ」

ジェームズも、核心は語れなかった。それでも、シリウス、リーマス、ピーターの3人は、じっと押し黙ったままだった。

 

倒れ込む、。もう二度と目を覚まさないかもしれないとさえと思った。あの時、メドウズの遺体を見た後、はぐれてしまったことを後悔した。けれども、大事はないようで、良かった。でも。

(なんで……言わなかったんだよ……馬鹿野郎)

シリウスは胸の中で毒づいた。
フィンスターの意識、か。自分たちと縁を切りたいと言ったのはそのせいなのだろうか。けれども、ジェームズとリリーはそのことを知り、と復縁した。でも、自分たち3人には話してくれていない。
ホグワーツ入学当時からの知り合いの。何があったとしても、に変わりはないのに。だからって、離れて行くことはないだろう    ……。
いや。そうではないのかもしれない。が俺から離れて行ったのは、俺を、好きではなくなったから。
そこまで考えて、シリウスはため息を吐いた。胸の中がむかむかする。

こんこん。扉をノックされ、シリウスはどうぞとぶっきらぼうに答えた。
開かれた扉から顔を出したのは、ソフィア。彼女はそろそろと部屋に入り込み、戸を閉めた。

「どうした?」

尋ねると、彼女は困ったような笑みを浮かべた。

「……お願いがあるの」

改まったソフィアの態度に、シリウスは苦笑してなんだよと尋ねたが、彼女は笑みを消してしまった。

「もう、危険な任務には就かないで欲しいの     心配で仕方ないのよ」

ソフィアはシリウスの腕をぎゅうと掴む。

「メドウズとフェンウィックのように……あなたもなってしまわないか、って」

メドウズの遺体が頭に蘇ってきて、ソフィアはシリウスにしがみついた。
冷たくなって、動かない彼女。人は、死ぬとああなるんだ……。

「心配性だな」
「そうよ」

シリウスは笑ったが、ソフィアは取り合わなかった。

「あなたが好きなの、シリウス    失いたくないのよ」
「……」

『俺だって、お前が好きだよ』。
そう言うのが当然なのだろう。しかし、その言葉は喉から先に出て来なかった。
いや、たぶん、共にいる時間が長くはないからだ。彼女との時間が増えれば、彼女を好きになれる。
でも。一人の少女といた時間が、長過ぎた    ……。
シリウスはその思いを掻き消すように、ソフィアを強く抱き締めた。

 

 

「駒が欲しいな」

赤い目の男が呟くと、男がそろそろと手を上げた。

「そ、それならば、……」

 

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07/12/14