彼女の姿がないことに気づき、ジェームズははっとした。シリウスとリーマス、ダンブルドアが帰って来たが、彼女の姿が見当たらない。ジェームズは辺りをぐるりと見渡し、目が合ったピーターは顔を強張らせる。嫌な予感がして、ジェームズは立ち上がった。何だろう、寒気がする。
「先生、が
ダンブルドアに言いかけた時、石門の方からふらりと人影が現れる。
「!良かった、どこにいたんだよ」
また何かあったのかと心配したじゃないか。安堵するジェームズとリーマスに、シリウスは眉をひそめた。何だろう、この違和感は。色のない瞳。けれども、口端に笑みを浮かべている。の普段する表情じゃ、ない。ダンブルドアも妙な気配を感じ、眉を寄せた。
「アバダ ケダブラ」
62. AWAKE, the voice is sounding
覚醒
杖先から放たれた光はジェームズの頬を掠め、彼の背後にいた騎士団のメンバーに当たった。彼は目を見開き、どさりと倒れる。あまりに唐突過ぎることに、全員が目を丸くし、驚愕した。
「……!?」
ジェームズは真っ白になる頭で声を上げる。
「……コントロールがまだ冴えないな。お前を狙ったつもりだったのだが」
そう、は言った。
ジェームズを狙った、だって?当のジェームズ本人も、シリウスもリーマスも呆然とした。
声も顔も身体も、彼女のもの。しかし
「フィンスター、か」
ダンブルドアは低く吐き棄てた。
「さすがはダンブルドア。理解が早いな」
「フィンスター、だって!?は!?」
「小娘のことなど知らん。だが、この身体はなかなか使い勝手が良さそうだ」
「の意識を押し退けて覚醒したか
ダンブルドアは厳しい表情を浮かべた。フィンスターは大きく手を広げる。
「長かった。小娘の意識の中で、僅かにも私の意識が残されていた。消えかけてもいた。だが、あのお方のお陰でこうして蘇った。外はやはり気持ちがいいな」
「ヴォルデモートがおるのか?」
「あのお方は既に戻られた。お前たちなどに構っている時間はないゆえ」
フィンスターは、ぐるりと目の前の面々を見渡した。
「の意識はどうしたんだ……?」
「小娘のことなど知らんと言っただろう」
リーマスの言葉に、フィンスターは彼に杖を向ける。しかし、ダンブルドアに杖を向けられ、フィンスターは笑みながら手を下げた。
「攻撃できるのか?この身体は娘のものだぞ」
ダンブルドアはフィンスターを睨みつけていたが、呪文を唱えようとはしなかった。それを見、フィンスターは満足そうに笑い、背を向ける。
「どこへ行く!」
ジェームズの問いに足を止め、フィンスターは答えた。
「行くのではない、帰るのだ
「くっ……」
「私としてもこの姿は不本意だが、お前らの同情を買えるのは良い。私の力も受け継がれているようだ」
くつくつとフィンスターは笑った。
「まさか、不老の力まで継がれているとは。実に素晴らしい」
「どういうことだよ……」
フィンスターが去った後で、シリウスは呆然と呟いた。
今起こったことは、何だ?どくんどくんと心臓が早鐘のように動いている。
人が死んだ。の手によって。いや、あれはではない。別の人格だ。でも、身体も声ものものそのもの。ただ、浮かべる表情は彼女のものと全く違う。彼女はもっと、穏やかに話す。笑い方はもっと柔らかくて、……。
ダンブルドアは、フィンスターによって殺された団員の遺体に近づき、息をしていないことを確認すると、大きなため息を吐いた。
「……ヴォルデモートがいたということは、初めから罠だったのか。フィンスターを蘇らせるための?」
ダンブルドアは自問した。まさかこんな事態になってしまうとは。フィンスターの意識が蘇ることを、全く想定しなかったわけではない。しかし、ポンフリーの検査してもらっても、今の今までもずっと平気だったのだから、心配はないと思ってしまっていた。
甘かった。犠牲者がまた増えてしまった。そして
「の中に眠っていたフィンスターの意識が、奴の主人であるヴォルデモートによって蘇った……そういうことですか?」
冷静にリーマスは尋ねたが、唇が微かに震えていた。
「……そうじゃろう」
「は
独り言のようなシリウスの問いに、ダンブルドアは黙った。しばらくの沈黙の後、口を開く。
「わしには……何とも言えん」
それでは戻らないと言っているようなものだ。
嘘でもいいから、戻ると
「……戻ろう。これ以上ここにいても仕方がない」
ダンブルドアは言ったがリーマスは待って下さいと呼び止めた。聞いておかねばならないことが、あった。
「フィンスターは……『不老』と言っていましたよね。まさか、が隠していたのはそのことですか」
厳しい表情で問うリーマスに、シリウスははっとした。まさか、ありえない。
長い間の後、ダンブルドアはゆっくりと
ジェームズは顔を伏せた。そんな、とリーマスは顔を上げる。
「そんな……そんなの、……」
辛すぎる。だから、自分たちと別れたいと言ったのか。年老いていく自分たちとは対照的に、ずっと同じ姿のままの。だから。だからなのか、。問いかける相手も、もういない
「くっそ……!」
シリウスは、吐き棄てた。
馬鹿野郎。どうして、言ってくれなかったんだ。いや、自分がでも、隠していたかもしれない。年を取らない、ずっと同じ姿、だなんて。辛いことだ。言い難いことだ。だとしてもやはり、話して欲しかった。
「……帰ろう」
半ば放心状態のジェームズは呟いた。
ピーターは
「お帰りなさい…!」
戻って来たジェームズたちの姿を見て、リリーは顔を綻ばせた。しかし、暗い表情の彼らに、親友の姿がないことに気がつく。
「は?」
リリーの問いに答えようとする者はいなかった。しかし、長い沈黙の後、ダンブルドアがゆっくりと口を開いた。
「嘘……うそ、うそよ!そんな!」
泣き叫ぶリリーの肩を、ジェームズはぎゅうと抱いた。部屋の中にはと親しかった者が集まった。リリーらはもちろん、ムーディ、ハグリッド、マクゴナガル。そして、語るダンブルドア。誰もが口を噤んでいた。部屋の中にはリリーのすすり泣く声だけが響いていた。
「……ミネルバ。リリーを休ませてやってくれんか」
ダンブルドアが言うと、マクゴナガルはこくりと頷き、ジェームズの代わりにリリーの肩を抱いて部屋を去った。その後しばらくして、ムーディが口を開く。
「わしとダンブルドアは
ムーディの声音はこの上なく低かった。
「もし、奴による犠牲者が増えるようであれば……殺さねばならん」
「やめて下さい」
ジェームズは声を上げた。
「意識はフィンスターだ。でも、その他は全部です」
「だからこそ、じゃ」
ジェームズを窘めるように、ダンブルドアは言った。ブルーの瞳を嘆きの色に染めながら。
「の手を、血で染めたくはない。自身もそう望んでおるかもしれん」
「のことなら、僕たちの方がよく分かってる!」
ほとんど叫ぶようにジェームズは言った。この時ばかりは、ダンブルドアとムーディが恨めしかった。
しんと部屋が静まり返り、ジェームズは俯く。
「
リーマスは淡々と、しかし強い口調で言った。
「……分かった。結論を急ぐことはなかろう」
ため息とともにムーディは吐き出す。シリウスはぼんやりと、そのやり取りを聞いていた。
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07/12/16