「光栄です、卿」
は
「しかし、お前が死んだという知らせを受けた際は、心底驚いた」
フィンスターは苦笑した。どんな理由があるにせよ、不覚にもたがが11歳の小娘に身を滅ぼされたことは、自分でも恥じていた。
「それで、私は何をすれば?」
「まずは、『お前の仕事』を頼もうか」
「御意に御座います」
ヴォルデモートは口端を上げた。『御意』。フィンスターの口癖だった。10年以上の歳月を経て戻った腹心。しかし、外見は女性。だが、魔力、口調、仕草、『容れもの』以外はフィンスターそのものだった。奇妙なものだ。ただ、頼もしくは思う。これから先、自分の栄華が極められる時、彼の存在は。
63. DEAD END
そのさきに道はない
漆黒のローブを纏い、暗い廊下をカツカツとブーツの踵を鳴らし歩いてゆく。死喰い人たちは皆、その姿に眉をひそめていたが、中には事情を知っている者もおり、深々と頭を垂らした。
「フィンスター、殿?」
「いかにも」
「ご復活おめでとう御座います」
恭しく頭を下げる男の言い方がどこか気に入らず、フィンスターはふんと鼻であしらった。
「失礼ですが……だった頃の記憶はあるのですか?」
「小娘の知り合いか?」
「数回会った程度ですが」
成程、だから『見たことがある』と感じたのか。年の頃も彼女と同じくらいだ。それにしても、目障りだ。早く娘の意識など消し去ってしまいたいものを。だが、いずれは消え失せるだろう。それまでの辛抱だ。
「小娘の記憶は一切ない。貴様のことも知らん」
男はそうですか、と答えた。彼の顔は暗闇で陰っていて、表情は読み取れなかった。
「それならば、紹介が遅れ失礼致しました。私はニルソンです
「どうだ?死喰い人になる決心はついたのか?」
その問いに、ピーターは俯いた。
ノクターン横丁の小さな店の中だった。光があまり入らず、薄暗い。
「今更、なんていうことはないよな。今抜ければ確実に殺される」
『あの』処刑人に。
「そもそも、お前だろう。にフィンスターの意識が移ったなんて、帝王に進言したのは」
「それは、……」
ある時、かつてホグワーツの同級生だったスリザリン生に、言われた。『これからは帝王の時代だ。帝王に従わなければ生き残れない』、と。そして、会ってみれば帝王の凄さが分かると言われ、会った。一目見ただけで、震え上がってしまった。彼が同じ空間にいるというだけで、彼の禍々しいオーラを肌で感じる。見られていないのに、見られているような。刺すような視線。ダンブルドアでさえ敵わないかもしれないと思った。自分が生きていく道はヴォルデモートのもとにしかないのではないか、と。そして、帝王はより大勢の手下を欲した。だから、咄嗟に言ってしまった。のことを。
「後悔してるのか?」
「えっ?」
「友達、だったんだろ?あいつ」
「……」
ぼくはただ、事実を話したまでだ。あの遺跡での策を思いついたのは他ならぬ帝王自身で、ぼくはそれを実行しただけだ。
「その程度だったんだな。お前たちの言う『友情』なんて」
ともだち。。ジェームズ。シリウス。リーマス。リリー。ともだち。。リリー。ジェームズ。シリウス。リーマス。ともだち。ジェームズ。シリウス。リーマス。ジェームズ、……
でもしかたがなかったんだ。生きるためにはしかたがなかったんだ。
「死にたくない、死にたくないんだ……ぼくは……だから、ニルソンも帝王にしたがってるんだろう?」
「俺は、……」
「そうだ!ジェームズたちもこっちに誘えばいいんだ。そうすれば」
「無駄だ。止めておけ。そうなればお前の立場が危うくなる」
あいつらは、きっと、絶対、こちら側にはつかない。
本当なら、俺だって。
「そんな……」
「ただ、今回のことで、帝王はお前に喜んでる。フィンスターが戻って来たからな」
「……」
「でも……あいつ……もう、戻れないな」
「……」
まさか、本当にあんなことになるなんて。本当に、フィンスターの意識がの中に眠っているなんて。それが蘇るなんて。そんなこと、本当に起こるなんて思ってなかったんだ。だから、ぼくはわるくない。
「ね、ねえ……二ルソンは…のこと、好きだったの?」
言われて彼は
「どうして、そう思う?」
「だって……ほら、昔……とキス、したし……ダンパにも誘った、って」
キス、か。そういえば、そんなこともあったっけ。
「そんなわけがないだろう。大体、あいつはブラックが好きだとかで」
「でも、わかれた。……あ、そうか。今思えば、闇の力がいやだったんじゃなくって、不老のことがいやだったのか……だから、シリウスともぼくらともわかれたい、って言ったのか」
「なんだって?」
エリックは、突然声を荒げた。ピーターは肩を震わせる。
「え?だ、だから……不老なんだよ。フィンスターが、ふ、不老の薬を飲んだから」
「そうか、……」
だから、あいつらと別れたのか。だから、ダイアゴン横丁で会った時、空虚な瞳をしていたのか。
「あーあ!馬鹿だな、本当」
「え、え?ぼ、ぼくのこと?」
お前も、あいつも
ジェームズたちも、ダンブルドアらも、を救う術を必死で探していた。今までに同じような前例はないか、自我を失った者を助ける方法はないか、……。しかし、手がかりになりうる情報は見つからなかった。何もない。道は閉ざされたまま。
フィンスターが蘇ったことで、犠牲者は以前にも増して増加した。彼が直接手を下しているわけではないようだったが、彼が蘇ったことで、ヴォルデモート側に勢いがついたように思えた。状況は、悪い方へ悪い方へと転がるばかりだった。
それを痛感するダンブルドアは、大きなため息を吐く。そんな彼を、同室にいたマクゴナガルとムーディは、複雑そうな表情で見やる。
「……このまま、奴を野放しにしておくつもりか」
責めるようなムーディの問いに、ダンブルドアは目を伏せた。
どうにかしなければ。ダンブルドアには無論、その思いはあった。しかし、どうにもできない。
かつての教え子。彼女の姿をした、悪魔を。
「そんな言い方は、……はホグワーツの生徒だったのですよ」
「解っている。だが、奴を放っておけば犠牲者は増える一方だ。奴一人の命とそれを考えれば、どちらが重いかは明白だろう」
「命を秤にかけることなどできません!」
マクゴナガルは声を上げ、ムーディをきっと睨んだ。
「それは詭弁だろう。この状況を考えろ。これは『戦争』だ」
「ですが、……ですが」
救いを求めるような目で、マクゴナガルはダンブルドアを見た。しかし、彼は深い憂いの表情を浮かべる。『どうにもならない』、彼の目はそう物語っていた。それを見、マクゴナガルも口を閉ざす。
部屋の中に重い空気が流れた。
「……やむをえん」
ダンブルドアがゆっくりと口を開く。
「もし
ムーディは微かに顔をしかめ、マクゴナガルはああと嘆いて項垂れた。
ダンブルドアは何かを噛み締めるように目を閉じた。
『
何だって?偶然、ダンブルドアの話を聞いていたシリウスは、その場に立ち尽した。
彼は今、何と言った?討つ?を?殺す、だって?まさかダンブルドアから、彼自身の口からその言葉が出るとは思わなかった。
待ってくれ、やめてくれ。そう声を上げそうになるのを、必死でシリウスは堪える。
増える犠牲者。血で染まるの手。それなら、いっそ。
殺したほうが、ましだ。
シリウスは、ぞくりと身を震わせた。
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07/12/17