「どうするんですか?」

リーマスの問いに、ダンブルドアは振り返る。

「漏れ鍋に連れて行こう。さすがに、ホグズミードに連れて行くわけにはいかん」

その言葉に皆が浮かない表情をしていると、ダンブルドアは続けた。

「しかし、今回の君たちの行動は褒められん」
「分かっています。でも、」
「もし」

ジェームズの弁解を遮って、ダンブルドアは強く切り出した。

「ソフィアがわしに知らせるのが遅れていたら?知らせることができていなかったら?奴にやられていたかもしれんのじゃよ」

口調は柔らかかったが、彼の声音は低かった。

「それでも    賭けるしか、なかったんです」

ジェームズは目を伏せながら、言う。

「何に、じゃ?フィンスターの中のに、かの?それとも、わしに?」
「両方に、です」

 

65. MISTY
その霧は視界を歪め、小さな光さえ通さない

 

「君たちの気持ちは分からなくもない。じゃが、無謀な行動は慎んで欲しい。特に、ジェームズ。君は父親になるのじゃぞ」

リリーと、もうすぐ生まれてくる子供を悲しませたいのか。ダンブルドアの瞳はそう語っていた。
返す言葉が見つからず、ジェームズは口を噤む。そんなことは僕だって解ってる。でも、何もしないままだったら、何も変わらないじゃないか。リリーだって、きっと親友の帰還を心待ちにしているんだから。そう言いかけ、堪える。確かに、危険な行動であったことは否めない。

「……過ぎたことを責めるのは、もうよそう。ともかく、フィンスターは連れて行く。じゃが    あまり期待はせぬように、な?」

 

ダンブルドアが強い失神術を掛けたことで、フィンスターはしばらく目を覚まさないだろう、ということだった。その間に、奴を『』に戻す方法を考えなければ。ジェームズは一つ、提案をしてみる。

「ショック療法、なんてどうだい?」

漏れ鍋に一室を借り、3人で机を囲んでいた。ダンブルドアは席を外していた。リーマスは、「そうか」と答える。

「もともとは、呪文を受けてフィンスターの意識が流れ込んだんだろう?それなら、失神呪文を受けたわけだから、もう治ってる可能性もあるっていうことだよね」

いまひとつ割り切れぬ様子で、ジェームズは「そうかな」と腕を組んだ。そう簡単にいくだろうか。

「でも、目を覚まして、もしじゃなかったら……どかん、だよ」
「うーん」
「紐で縛っておく?」
「……ジェームズ、……なんだかそれ、ちがう気がする」

あはは、とジェームズは頭をかいた。リーマスはふうと息を吐く。

    リリー、は?」

シリウスはぽつりと口を開く。2人は彼に視線を向けた。

「もしの意識が少しでも残ってるなら、リリーに反応するんじゃないか?」

リリーは、まだフィンスターになったに会っていない。もしかしたら。

「でも……悪い……危ない、よな」
「そうか    リリーか」

ジェームズは低く言ったが、リーマスは首を振る。

「いや、危険だよ。お腹の子供だって」
「分かってる」

ジェームズは乱暴に頭を掻く。

「でも、がずっとこのままでも、リリーは辛いと思うんだ」

リリーと結婚をした時点で、否、彼女を愛した時点で、彼女を全力で守ることは、心の中で誓っていた。でも、だからこそ、リリーの思いを尊重したいとも思う。そして、彼女なら、恐らく    

「リリーを、呼ぼう」

リリーなら、を取り戻したいと考えるだろうから。

「僕ら5人がそろえば……あ、でもピーターのやつがいない。あいつどこに行ってるんだ?……まあ、ともかく、僕らみんなで働きかければ、の意識が蘇るかもしれない」

名づけて『愛の作戦』、だ。
ジェームズが言うと、シリウスはその呼び方やめろ、と苦笑した。

 

 

「ここだよ」

ジェームズは扉を開けた。中に足を踏み入れようとしたリリーを押し留めて、先に部屋に入る。ベッドの上には     が横になっていた。リリーも、彼の後ろから部屋に入る。

……本当に、じゃ、ないの?」

本人に向けて言ったのか、リリーの独り言なのか、尋ねられたのかは定かではなかったが、ジェームズは答えた。

「まだ、分からない」

リリーに……フィンスターを捕らえたことを話すと、案の定彼女は会いたい、と言った。ただし、シリウスらはもちろん、ダンブルドアも階下には控えていた。



今度は強く、リリーは言う。手をそっと伸ばしかけ、止めた。『充分注意をするように』とのダンブルドアの忠告を思い出した。
しかし、固く閉ざされたかに見えたの目が     ゆっくりと、動いた。
リリーは息を呑み、その様子を見つめる。ジェームズは慌てて杖を構え、リリーの前へ出た。まさか、こんなに早く目を覚ますなんて。どうしよう、ダンブルドアを呼んで来ようか。いや、でも、もしかしたら……。
    薄っすらと目を開け、首を横へ向かせた。そして彼らを見つめ、そっと呟く。

「リリー……ジェームズ?」

彼女の口から漏れた言葉に、2人は目を丸くした。リリーはのもとに近寄り、膝を折る。ジェームズははっとしたが、は横になったままで、攻撃に出る素振りは見せない。はそっと手を伸ばし、リリーの髪に触れた。

なの?」
    ごめん」

リリーは首を振りながら、の手を握る。

「あなたのせいじゃない……いいのよ」

ジェームズは2人のやり取りを呆然と眺めていた。まさか、本当に『ショック療法』が成功していたとでもいうのか。

「ジェームズも、……ごめん」
「い、や」

ジェームズは、ただ首を振る。杖を持つ手が震えていた。ほんとうに、戻ってきてくれたのか。

「……みんな、いるの?」
「ええ。シリウスもリーマスも、ピーターもダンブルドアも、下にいるわ」

そう、と言って、はゆっくりと身体を起こした。

「呼んで来る?みんな、配しているのよ」

ううん、とは静かに首を振った。

「私が、    会いに行くよ」

 

TOP | BACK | NEXT
07/12/18