本当にが戻ってきたのか。ジェームズは未だに完璧に信じることができなかった。しかし同時に、彼女であって欲しいと思う気持ちもあった。ジェームズはじっと彼女の横顔を見つめる。フィンスターである気配は感じられなかった。けれども、かつてのとは違うような、違和感を拭いきれない。ここしばらく『ほんもの』の彼女に会っていなかったからだろうか。念のため    本当に万が一の時のため、その時が来ないよう祈りながらも    ジェームズは杖を手に収めて、リリーを庇うように歩いた。

階段を、そっと下りる。はあまり本調子でないらしく、何度かふらついていた。
階下には、ダンブルドアとシリウス、リーマス、ピーターが机を囲んで座っていた。そして、こちらに気がつく。彼らは微笑むを見て、彼女が戻ったことを理解した。ジェームズも、杖をしまいかけた。
     ふたり以外は。
『違う』、そう漠然と、シリウスは感じていた。
彼が立ち上がり、ダンブルドアも腰を上げようとした、その瞬間。

「エクスペリアームス!」

 

66. check the KING
王手したのは、

 

が唱えると、ジェームズは吹き飛び、倒れた。ダンブルドアは杖を構えるが、『』がリリーに杖を突きつける方が速かった。ジェームズは痛む全身の力を振り絞って上半身を起こし、先ほどまで自分が立っていた位置を見やる。そこには、つい数秒前とは全く異なる表情をした『』と、驚愕した様子のリリーが立っていた。

「フィンスターに『戻ってしまった』のか?それとも、我々が騙されていたのかの」

ダンブルドアは低く尋ね、『』はにやりと笑った。

「言っただろう?小娘は戻らない、と」

騙されたのか。くそっ、とジェームズは吐き棄てる。いや、でも……フィンスターがを演じたにしては、あまりに出来過ぎていた。納得のできぬジェームズの表情を見、察したのかフィンスターは言った。

「私がこうも容易く捕まるとでも思ったのか?小娘のことをよく知る者の手を借りたのだよ」
「よく知る者?……ニルソンか!」

ジェームズは杖を拾い、立ち上がる。作戦だったというのか。エリックがあそこにいたのも、そこへフィンスターが来たのも。それにまんまと引っかかった自分が愚かで、情けなく、悔しかった。いや、罠だとは頭のどこかで想定はしていた。それでも、たとえ罠でも、自分たちの力なら彼女を取り戻すことができると、過信していたんだ。

「どうかな」

フィンスターは言い、意味深な笑みを彼らに向けた。ピーターはびくりと身を震わせる。

「さて。ようやく争いに決着がつきそうだな、ダンブルドアよ」

フィンスターは腕を真っ直ぐに伸ばし、杖先をリリーの首筋に当てた。リリーには、恐怖という感情はなかった。親友のことを見抜けなかった自分が、ただひたすらに、恨めしかった。

「さすがの貴様も、『2人』は犠牲にできまい」

ちらりとフィンスターはリリーの大きくなった腹部を見た。ダンブルドアは答えず、フィンスターを睨む。
ああ、馬鹿だ、僕は。ジェームズはぎゅっと拳を握る。どうしてもっと考えなかったんだろう。
リーマスは、ただ無言でフィンスターとリリーを見つめ、ピーターはおろおろとうろたえるばかりだった。
シリウスは、不思議と落ち着いていた。心の中はざわついているが、少なくとも頭の中は冷静だった。
がああなってしまった時から、    こういう事態がいつか起こるのではないかと、薄々感じていたのかもしれない。

「……何を、望んでおる?」
「それは、もちろん」

フィンスターは言い、ちらりと入り口を見やる。空気が、変わった。

「貴様の命、だ」

フィンスターが言うなり、緑の閃光がダンブルドア目がけて放たれる。しかし、寸前のところでかわしたダンブルドアは、素早く背後を向いた。
フィンスターを除く全員が息を呑む。背の高い、紅い目の男が、入り口に立っていた。

「ヴォルデモート」

リーマスが掠れた声で呟く。
最悪の状況だと、誰もが感じた。ヴォルデモートはゆっくりと歩み寄り、足を止める。ダンブルドアをはじめジェームズらは、ヴォルデモートとフィンスターに板挟みされる形になった。

「さすがに避けたな、ダンブルドア。だが     今度はどうする?」

ヴォルデモートは杖を持つ手を上げる。

「私に杖を向ければフィンスターに殺られる。フィンスターに杖を向ければ、私が殺る。さて、どちらがいい?選ばせてやるぞ」

ヴォルデモートは、この状況を楽しんでいるようだった。顔には笑みが浮かべられている。

「それとも、その女を見捨てるか?そうすれば、貴様一人くらいなら助かるかもしれないな」

ダンブルドアは答えなかった。シリウスとリーマスは、意見を求めるような目でダンブルドアを見、ピーターは怯えた表情で、視点が定まらなかった。フィンスターは口元を緩ませながら、ヴォルデモートに視線を向けている。ジェームズは、どうにかリリーを救おうと彼女を見つめ、リリーはその視線に応え彼を見たが、やがてフィンスターを見やった。

「1分、待ってやろう。それで答えが出なかったら、ダンブルドア、まずは貴様を殺す」
「待て!」

そう声を上げたジェームズに、ヴォルデモートは視線を移す。

「人質を     僕と彼女を、交換してくれ」
「却下だ」

短く言ったヴォルデモートに、ジェームズはくっと唸る。

「貴様らの願いを聞き入れる筋合いはない。それに、どうせ死ぬんだ、同じことだろう」

どうしたら良い。ジェームズはこの事態を打破するための方法を考えたが、いずれも誰かの犠牲がなくてはならないものだった。どうすればいい。僕が犠牲になって、みんなが助かれば、……。

     私」

嫌な沈黙が続く中で、リリーが口を開く。

「悔しいわ」

そう言って、フィンスターを睨む。彼は口先に笑みを浮かべ、彼女を見返した。

「力になるなんて言っておいて……結局、何もできないなんて」
「馬鹿馬鹿しい。『友情』、か?そんなもの、うつろいやすいものという以外の何ものでもないだろう」

どくん。不意に、フィンスターの心臓が、不自然に鳴った。
『俺は結局、お前に何もできないんだな』
『人の気持ちって、うつろいやすいものなんだよ』
どこかで聞いたことのある言葉。何だ、この違和感。なんだ、これは。

「あなたなんかには、解らないわ    私たちのことは、絶対に!」
「解らずとも結構」

フィンスターは我に返り、投げ出すように言ったが、リリーは声を荒げた。

!お願いよ!戻ってきて」
(どくん)
「……それほどまでに言うのならば、この小娘の手で殺してやろう」
「させるものですか。これ以上、の身体を使って好き勝手なことはさせない!」
(どくん)
「ふん。ならば、この手にかかって死ぬがいい」

ジェームズは血相を変える。

「やめろ!」
「どう足掻いても無駄だ」

フィンスターは冷酷に言い放つ。す、と杖をリリーへと向けた。私は死んでもいい。でも、この子だけは。リリーはぎゅうと腹部を抱きかかえるようにして押さえた。お腹の子供だけでも助けたかった。

「くそっ!リリー!」

ジェームズが悲鳴を上げる。ヴォルデモートは細めた目をジェームズに向けた。

「案ずるな。フィンスターがあの女を殺した後、すぐに私がお前を殺してやる」

リリーの顔からも血の気が引いていく。

「やめて……ジェームズは……」
「仲良く逝くがいい」

耳元で言ったフィンスターを、リリーは睨みつけた。憎い。大好きな親友のかたちをした、この男が。

を、かえして」
(どくん)
「……無駄だと言っておろう」
「あなたのせいで!は苦しんできたんだわ!あなたのせいよ、何もかも!これ以上、をあなたの好きにはさせないわ!」

リリーはフィンスターの杖を持った腕に掴みかかる。

(どくん)

「アバダ    
「やめろーっ!」

そのリリーの様子を見たヴォルデモートが、ゆっくりと唱える。ジェームズの叫びが部屋中に響き渡った。
ダンブルドアは常に隙を窺っていたが、動けなかった。
リーマスもどうして良いのか分からず、顔を歪めて呆然としていた。
ピーターは目を逸らした。
シリウスは、咄嗟に叫んでいた。

!」

(どくん)
    シリウス)

    させない』

フィンスターは顔をしかめる。この声は、何処から?辺りを窺うが、誰にも聞こえてはいないようだった。
しかし、相変わらず、小ざかしい赤毛の小娘が腕にまとわりついてきて、それに構うのが精一杯だった。この女を抑えつけなければ、あのお方の呪文が外れてしまう。

『リリーは、わたしがまもる』

    ケダブラ」

ヴォルデモートがゆっくりと言い終った刹那。彼の杖先から緑の閃光が放たれ、リリーに襲いかかった。

 

TOP | BACK | NEXT
ヴォルデモートの一人称、この連載では(というより私が書く彼はすべて)『私』を用いています。優雅な帝王が理想なんです。 07/12/18