広間へと駆け込むと、ダンブルドアとムーディ、その他の騎士団の主要なメンバーが揃っていた。そして、彼らの輪の中にいるのは、見覚えのある顔だった。

「スネイプ!」

シリウスが声を上げる。名を呼ばれた本人はこちらに気づき、とびきり不快だという表情を作った。

 

70. LOST and GONE
もう戻らない君を思う

 

シリウスの後に続き、ジェームズ、リーマス、も部屋に入る。

「先生。捕らえたというのは、彼のことですか?」

興奮気味のシリウスとジェームズに対し、リーマスは冷静に尋ねる。ダンブルドアはこくりと頷いた。

「捕らえたよいうよりも、わざと我々に捕まった、という方が正しいがの」
「どういうことですか?」

ジェームズも声を荒げて問う。

「彼は、闇の陣営側の密偵を買って出てくれたのじゃ」

間髪入れず、シリウスが「嘘だ」と吐き棄てる。

「信じるんですか、そんなこと」
「むろんじゃよ、シリウス。それに、セブルスは、かつてのわしの教え子じゃ。君たちと同じように」

宥められたシリウスも、ジェームズも顔をしかめた。
人を無心に信じられること。それはダンブルドアの美点でもあるけれど、『甘い』と感じてしまう時もあった。いつか、ここはヴォルデモート側のスパイだらけになるのではないか。

「どうして、いまさら」

シリウスはセブルスを睨みつける。セブルスも同様の目つきでシリウスを見返した。

    フィンスターがいなくなってからというもの、闇の陣営側も多少荒れた。帝王は統一を図るために、裏切り者をまとめて始末した」

セブルスは淡々と語る。は少し離れた場所で眉をひそめた。
フィンスター、か。彼の話はもう聞きたくなかったのに。

「帝王が直々に手を下した者もいるし、手下に任せた者もいる」

シリウスはそれで、と促した。セブルスはふんと鼻を鳴らし、目を細めて言った。

「レギュラス・ブラック。奴も殺された一人だ」
「何だって!?」

声を上げたのはジェームズで、シリウスはただ目を見開かせ呆然としていた。次に、セブルスは、をちらりと見て、言った。

    エリック・ニルソン。あいつも殺された」

うそ。
その言葉は喉から出ることはなかった。上手く声に出せなかった。そん、な……。
は握り締めた拳を震わせた。エリックが死んだ。エリックが、彼が……

「帝王は、情け容赦ない」
「だから殺される前に寝返った、ってわけか」
「そうだ」

シリウスの皮肉にものともせず、セブルスはきっぱりという。シリウスは押し黙った。

    これからは共に戦う仲じゃ。少しは不仲を改めてくれんかの」

ダンブルドアの言葉には答えず、シリウスは無言で部屋を去った。

 



リーマスに呼ばれ、はっとする。

「大丈夫?」
「う、ん」

気がつくと、部屋からはジェームズの姿もなくなっており、他のメンバーの大半もここを去っていた。しかし、セブルスはそこにいて、ずいずいとこちらへ歩み寄って来る。そしての前でぴたりと止まった。

。お前に話がある」

もリーマスも眉を寄せる。

「ニルソンからの伝言だ」

半ば面倒臭そうにセブルスは言った。

 

「その顔だと、ショックは受けたようだな」
「当たり前でしょう!……知り合いが死んだ、なんて」

適当に部屋を一つ見つけ、とセブルスはそこへ入る。
はセブルスの話を独りで聞きたかったので、渋るリーマスを何とか言い包めた。

「お前の方は、あいつのことを嫌っていると思っていたが」
「べつに、嫌っては……」

初めは、嫌な奴だと思っていた。けれども、……『俺もグリフィンドールなら良かったのに』。
そう呟いた彼の遠い瞳。もし彼がグリフィンドールだったら、友人になれていたかもしれない。

「あいつが言っていたのは」

セブルスは不服そうに腕を組む。

「『もう少し素直になったらどうだ』、だそうだ」
「えっ?」

思わず聞き返していた。何、言ってるの。

「それ、だけ?」
「ああ。まったく、至極面倒なことを押しつけてくれた。だが、あいつは死期が近いことは解っていたんだろう。もし万が一、お前に会うようなことがあれば伝えてほしい、と言っていた」
「そんな……どうして……そもそも、どうして死喰い人になったの?」
「あいつはブラックとは違う。家の期待を裏切ることができなかったんだろうな」
「……セブルスは、エリックの……死に際、見たの?」
「いや。ただ、遺体は見た」
「……そう」

は目を伏せた。
     死。この騎士団でも何人かの遺体を見たし、何よりも自分の両親のものも、見た。その度に身が切り裂かれるような思いをした。これが、死。身近にあるもの。

「……フィンスターとなったお前と、ポッターたちを接触させたのはあいつだ」
「え、」
「そうすれば、もとのお前に戻れると思ったんじゃないのか」

エリック。は胸がぎゅうと掴まれたように痛くなるのを、感じた。彼のお陰だったのか。

「まさか、そのせいで?」
「恐らく違うだろうな。闇の陣営を抜け出す際に、帝王に見つかったんだろう」
「セブルスはうまく逃げられたのね、……」
「お前も疑うか?」
「どうして。良かったと、思ってる」

ふん、とセブルスは鼻を鳴らした。そして、に背を向け、ドアノブに手をかける。
しかし、思い直したように手を離し、言った。

「ニルソンは、一度だけ    お前たちのことを羨ましいと、漏らしていた」

『心から信頼しあえる仲間。ひとりくらい、いてもいいよな』。セブルスの脳裏にエリックの言葉が蘇る。自分には理解できそうにない感情だったけれども、エリックの遠い瞳は印象的だった。

「とにかく、伝言は伝えたからな。よく意味を考えてみることだ」

 

 

エリックが死んでしまった。
ニルソン家は有名な純血の家系だから、闇の陣営でも確立した地位を築いていて、帝王も信頼していて、彼が死んでしまうことはないと勝手に思い込んでいた。だから、いつか、彼を説得できるのではないかと。けれど、甘かった。甘いんだ。これが、『たたかい』。戦。戦争。

『もう少し素直になったらどうだ』、……。
おっしゃることはもっともです。私、素直じゃないよね。だから、いろんな人を傷つけた。
彼のアドバイスは的確だ。もう少し、話をしてみたかったのに。どうして死んでしまったの。

あのクリスマスのダンスパーティの時。エリックが示した好意は、素直に嬉しかった。それまで、異性に、そういう風に思われたことがなかったから。
だから     胸が、苦しい。



呼ばれて、はっと顔を上げる。声の方向を見ると、シリウスが立っていた。

「どうしたんだよ。入らないのか?」

気がつくと、は自分の部屋の前に立ち尽くしていた。リリーは子供が産まれてから別室に移ったので、今は贅沢にも独り部屋だった。

「ああ、うん……今入ろうとしてたところ」
「随分ゆっくりしてたな、入ろうとしてたわりには」

シリウスは、僅かに目尻を上げて言った。

「……ちょっと考えごとしてて」
「ニルソンのことか?」

リーマスが話したのか。は答えずに曖昧に笑って、扉を開ける。

「シリウスは、何か用事?」
「ああ、……もうすぐ夕食ができる、って」

何度か広間で大人数で食事をしたことがあったが、大抵は配られる食事を各自で食べることが多かった。最近は特に、ここに留まる団員はまばらだった。アリスとその夫、フランクとの間にも子供が産まれたが、彼らは闇祓いという役目のためにここを空けることが多かったし、ダンブルドアとムーディ、そしてハグリッドやマクゴナガルは無論のことだった。
ジェームズたちも情報収集で出かけることがあったが、最近はハリーが産まれたせいか、その頻度は多くなかった。いや。そういえば、ジェームズはほとんど外に出ていない。シリウスとリーマスが出ることは何度かあったが、ジェームズに限っては近ごろ一度もなかった。

「ごめん……せっかくだけど、……私、今日はいらないや」
「俺も    今日は、食べる気にはなれないな」

ははっとした。そうだ。シリウスも、弟を亡くしたのだった。

「……スネイプは、何だって?」

は口を開きかけたが、シリウスが先に言った。

「悪い。答えたくないよな」

少し考えて、はシリウスを見上げた。

「ねえ、話さない?」

 

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07/12/22