71. Millennium Night
ははっと目を覚まし、雨の音を聞いた。まだ降っているのか。相変わらず、その勢いは止まることを知らないようだった。
辺りはまだ暗い。チェストの上にあるランプの明かりが、僅かに灯っているだけだった。
そうして隣の、彼の存在に気がつく。すやすやと寝息を立てて眠っていた。
(まあ、寝顔も整っていることで)
思わず笑みが零れる。ずっとずっと、この横顔を見ていたい。かつて、そっと盗み見をしていたあの頃が懐かしい。その度に、胸の鼓動が速くなっていったんだ。彼と目が合うだけで、その日はずっと明るい気分で過ごせた。彼と言葉を交わせた日は、飛び上がりたいくらいに嬉しかった。
ああ、私、この人と
身体が、熱い。シリウスの体温が、まだ残っているよう。
シリウスは、苦しいくらいに優しかった。
こういうことには慣れていないというか初めてだったし、たぶん一生かかっても慣れないだろうなと思うけれど。それでも、シリウスが堪らなく愛しくて
早く、言わなければ。『あなたと共に生きたい』、と。そう告げたい。なのに、すぐそこまで出かかっているのに、言えない。どうして?
彼が好きだという想いが事実なら、不老に対する恐怖もまた事実。その双方が心の中で渦巻いていて、彼への返事を躊躇わせていた。本当に、『あなたと共に生きてゆく』と言っていいのか。後悔はしないのか。彼は、私は、苦しまないのか。いろいろなことを考えてしまう。昔からの、悪いところ。
でも、悩んで悩んで悩みぬいて、出した答えになら、自信を持てる気がするから。
だから、もう少しだけ、待ってね。
今、何時だろう。すっかり目が覚めてしまった。はそっと、上半身を起こす。
上にかけられていた布団がはがれ、何も纏わない自身の身体が露になる。顔がかっと熱くなった。それと同時に、肌寒さも感じ、咄嗟にベッドに潜り込む。
今更恥かしさが込み上げてくる。顔から火が出そうって、きっとこういうことを言うんだ。
「んー」
シリウスが呻き、ははっとして彼の方へ顔を向かせた。シリウスはぱちりと目を開ける。
「ごめん、起こした?」
「いや」
「何時かな、って思って」
「まだ夜中だろ」
「
「そうだな」
「朝までには止むかな」
「さあ」
短いシリウスの返答に、は眉を寄せた。
「なんだか、冷たくない?」
「寒いのか?」
「そうじゃなくって、シリウスが…!」
が声を荒げると、シリウスはくつくつと笑った。
ああ、隣には、彼女が居る。
今までこうして女性と一夜を共にして、目が覚めるとどうしようもない虚無感に襲われることが、度々あった。けれども今は、
「」
そっと、彼女の名を呼ぶ。
眉根を寄せていたは、胸の詰まるくらいに優しいシリウスの声に、どきりとした。
「
「えっ……?」
シリウスはふと笑って、の頭を引き寄せ、抱く。
「
消え入りそうな声で、シリウスはそっと呟いた。
けれども、その言葉はの耳にもしっかりと届いていて、温かなものが身体中を駆け巡った。
そのせいで、瞼が熱くなる。けれども、堪えた。
伝えたい言葉はたくさんあるはずなのに、何一つ声になって出てこない。
いつか、言おう。たくさんの愛を込めて。
その代わりに、今は、シリウスの温かさを全身で感じられるよう、彼の背に手を回し、力を込めた。
止まない雨はない。朝の来ない日はない。
けれども、今はずっと、このままで。
闇に照らされた世界も、身近にある恐怖も、冷酷な事実も、全てを忘れて。
いま、この夜だけは。
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07/12/22