だが、ハリーのことは彼が教えてくれた。ディメンターから身を護るためにパトローナス・チャームを使い、未成年の制限事項を破ったということで、魔法省が尋問をおこなうらしい。
「尋問?そんな」
が呟くと、ダンブルドアは憂いを吐き出すように、深いため息を吐いた。
「魔法省
「どうしてでしょうか。ヴォルデモートのことも……シリウスのことも、魔法省は聞く耳を持とうとしない」
ダンブルドアはに背を向け、ううむと唸る。
「人は、権力に囚われると、それを失うことを何よりも恐れるのかもしれん」
たとえ、現実から目を背けても。ダンブルドアの背は、嘆いているように見えた。
95. go round in CIRCLES
まわればまわるほど、遠くにゆくおもい
が再びグリモールド・プレイスに戻った際には、ハリーの裁判は無事終了していた。アーサーやモリー、ロンたちは喜んでいるようだったが、当のハリーとシリウスは、少し複雑そうな表情をすることがあった。もし、ハリーが裁判でホグワーツを退学になれば、シリウスはハリーと共にここで暮らせただろうから。ハリーの方は
「。すこーし良いかい?」
ある夜、休もうと思っていたのところに、リーマスが訪ねて来る。ええ、と答えると、リーマスは扉を静かに閉め、ベッドに腰掛けるをじっと見た。
「どうも、ややこしいことになっているようだが」
「ややこしい?何が?」
「君と私のことだよ」
リーマスと私のこと。はああ、と漏らした。そのことね。
「どうしてシリウスに真実を説明しなかったんだい?」
「どうして、って……面倒だったから」
「面倒、ねえ」
リーマスが呆れたように息を吐いたので、は慌てて弁解した。
「だって、そうでしょう。私たちが疑われるようなことをした?」
「どうも、君と世間の常識は、ずれているようだ」
リーマスは苦笑した。
「ハーマイオニーに言わせると、『君が私のことを話す時は嬉しそう』で、『私がプレゼントしたローブを喜んで着ていた』、だそうだ」
「それが不味いのかな、何か」
は顔をしかめる。
「年頃の子には、そう映るんでしょう」
「どうだろうね」
リーマスはそう答え、何故かくすりと笑った。
「君と私は恋人同士なのかと聞かれたよ、トンクスに。ハーマイオニーやジニー、ハリーとシリウスもその場にいたんだがね、違うと答えた。そうしたら、『君の片思い』ということになったよ」
「ええっ」
は声を上げた。どうしてそうなるんだろう。
「私は一応違う、と答えたが、良かったかな?」
「うーん」
もう、どうしてそう話が飛んでしまうのか。リーマスのことは大切に思っているし、大好き。そのことのどこがいけないの?それを彼に告げると、リーマスは優しく言った。
「光栄なことだね、それは。ただ、世の中には、そう簡単にいかないこともある」
「
は肩を竦めた。これが、私の本心なのだから。
「まあ、君の自由だが、……シリウスには説明してくれないかい」
「どうして?」
が尋ねると、リーマスは一瞬眉をひそめたが、穏やかでありつつも真剣な瞳をした。
「何故、シリウスに君の本当の気持ちを言わない?」
は咄嗟に、リーマスから目を逸らしていた。彼の瞳は好きだけれど、こういう時は苦手だった。
「シリウスが好きなのだろう?私ではなく」
「私、リーマスのことは」
「解っているよ」
リーマスは壁に寄りかかり、続けた。
「それは、解っている。私もそうだ。君は大切な親友だからね
は黙った。リーマスには全てを見透かされているような気がした。
「それとも、シリウスが言ってくれるのを待っているのかな?」
「リーマス、私」
「それとも、シリウスは既に告げたのかな。君が
リーマス、と強く呼んで、まくしたてる彼を制した。そして、ゆっくり彼の目を見る。
「……私……分からないのよ」
「分からない?何が?シリウスのことが?それとも、」
は首を横に振った。
「違う。私は、……どうすれば良いのか分からない」
は、組んだ自分の手に視線を移した。
「考えれば考えるほど、色々なことが複雑に絡み合って、分からなくなるの。情けない話だけど」
「絡んでいるなら、解けばいい。一つずつ、ね」
リーマスは優しく言った。は途端に情けなくなった。大人になったというのに、未だにこういうことをリーマスに相談しているなんて。いつも彼には相談に乗ってもらってばかり。
「ごめん、……私がしっかりしないとね
リーマスはしばらく沈黙していたが、やがて静かに口を開いた。
「君だけの力で『答え』が見つかるのなら、君はそんなに苦労していないだろう?」
「私、そんなに苦労しているように見える?」
「ああ。眉間に皺が寄っているよ。セブルスのようにね」
は笑みを零した。リーマスも笑う。
「私で聞けることがあるなら、何でも話して欲しい。君は私を『大切』と言った。そうだろう?」
はそうね、と答えた。
ありがとう、リーマス。本当にあなたが、大好きよ。
リーマスには素直になれるのに。
は軽く息を吸い込み、言葉と共に吐いた。
「でも、大丈夫。……やっぱりこれは、私の問題だから」
「そうか」
リーマスは曖昧に笑った。
「でも、……どうしても行き詰ったら、私の話、聞いてね」
「ああ、もちろんだよ」
ありがとう。私には、あなたしかいないのだから。
リーマスにはああ言ったものの、この迷路から抜け出せる自信はあまりなかった。はベッドの上に仰向けになって、目を閉じる。
シリウスがアズカバンに投獄された時は、もう会えないかと思いつつ、それでも会いたい、会えると矛盾した思いを抱え続けてきた。でも、彼に会うことができた。ずっと望んでいたはずではないか。
それは、どうして?彼のことが
そうかもしれない。でも、それでも、彼と共にはいられない。年を取らない私。ハリーと暮らすべきシリウス。そう。シリウスは、13年前と同じ気持ちだと言ってくれた。でも、それは、彼がそれまでずっと閉じた空間にいたから。こうして、枷の取れた身となって、周囲を見渡せば、違う女性へ抱く想いもあるのではないか。
そうするべきなんだ
また堂々巡り。けれど、次にホグワーツに戻るまでに、シリウスに話をしておかないといけない。このままの中途半端な想いは、いけない。
翌朝階下へ行くと、トンクスが出かけようとしているところだった。彼女はドアノブに手をかけようとしていたが、に気づき。首を向けた。
「おはよ」
おはようと応えると、トンクスは一瞬気まずそうに目を伏せたが、思い直しての瞳を見つめた。
「ねえ、リーマスとは付き合ってないんだよね?」
彼女の真剣な様子に、は瞬時に察した。そうか。彼女はリーマスを好いているんだ、……。
トンクスの瞳を真っ直ぐに見返し、「ええ」とはっきり言うと、彼女はほっとしたような笑みを浮かべた。
「そう、そっか、うん。でも、ハリーたちは勘違いしちゃってるよ」
「そうらしいわね。これから誤解を解きに行くところよ。シリウスは、何処にいるか知ってる?」
「たぶん、2階の書斎じゃないかな」
トンクスはくい、と顎で階上を指した。ありがとうと言うと、トンクスはにこりと微笑んだ。
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08/1/18