アンブリッジの態度は日ごとに大きくなってゆく。それと比例するように、彼女への怒りは日に日に増していった。それを抱いているのはだけではない。教師も生徒も、皆そうであろう。
ダンブルドアは忙しいらしく、アンブリッジの傲慢で横柄過ぎる態度に対処できる暇がない。いや、もしダンブルドアがいても、彼女には魔法省がバックについているのだ、ダンブルドアとて止められないだろう。教育令や高等尋問官という立場を利用して、アンブリッジはいまやホグワーツを牛耳っていた。

 

96. tempt EVIL
動いたら負け

 

階段を下りていくと、玄関ホールが騒がしいことに気がついた。急ぎ足でそこへ向かうと、生徒たちに囲まれて、ハリーとロン、アンブリッジがいた。至極嫌な予感。

「ポッター。こんなことが許されると思っているのですか?」
「僕、知りません」

アンブリッジはかなり腹を立てているようだったが、ハリーも同じ様子だった。顔が引きつっている。

「そう。あくまで白を切るつもりね。それなら」
「ちがう!」

アンブリッジの言葉を遮り、生徒の輪の中から飛び出したのは、双子の一人だった。ロンがフレッド、と口を動かしたので、フレッドの方なのだろう。

「ハリーじゃない。臭い玉を『落とした』のは、俺です」

アンブリッジは片方の眉をぴくりと上げた。

「落とした?見え透いた嘘ね。いずれにせよ、こんなものを持ち込んだ罰は受けてもらいましょう。私のローブがこんなに汚れて……おまけに臭いまで。厳しい処分を覚悟しなさい」

フレッドは顔を歪める。ハリーがかっとなって口を開いた。

「そんな!フレッドは『落とした』だけって言ってるじゃないですか!それを、先生が勝手に踏んだんだ!」

成程、大体状況が見えてきた。フレッドが臭い玉を『落とした』くなる気持ちは、よく解る。それに、普段の彼らの悪戯を考えれば、こんなことはほんの些細なことに過ぎない。

「ポッター、教師にそんな口の利き方は許しません。あなたも共犯ですね?また罰則を受けたいようで」

アンブリッジは顔を赤くさせながら、ハリーの右手を見やった。もそちらに目を向ける。彼の手の甲には、傷痕があった。罰則だって?まるで体罰ではないか。

「待って下さい」

は生徒の群れをかき分けて、3人の前に歩んで行き、アンブリッジと向かい合った。

「アンブリッジ先生。まさか、彼の手の傷は、あなたの罰則によるものなんですか?」
「単なる書き取りの罰則ですよ」

突然入り込んで来たを嘲るように、さらりとアンブリッジは言った。

「ハリー、どういうこと?」

は振り返り、本人に尋ねたが、ハリーは目を伏せた。

「書き取りの罰則です、確かに。ただし、ハリーの手に、鋭い羽ペンで!」

訴えるように答えたのは、ロンだった。ハリーはもさらに抗議をしたかったようで、何か言いたげだったが、黙っていた。はアンブリッジに向き直る。

「そんな体罰が許されるんですか」
「体罰?人聞きの悪いことを言わないで頂きたいわね。これは『教育』です」

アンブリッジはふんと鼻を鳴らす。

「この学校には教養のない生徒が多過ぎます。私が正していかないと」
「校長にでもなるおつもりですか」
「いずれはそうなるかもしれませんね」

生徒がざわりと騒ぎ、背後の3人も、え、と声を上げた。

「残念ながら、それを望むのはごく僅かだと思いますよ」

アンブリッジの口端は上を向いていたが、目は笑っていなかった。

「あなたも口の利き方に注意した方がいいですよ。私がどんな役職かお忘れ?」
「さあ、何でしたっけ」

は吐き棄てるように答えた。アンブリッジは顔をしかめたが、何かを思い出したように、再び笑みを浮かべる。

「そうそう、あなたのことを調べさせてもらいましたよ。素敵な友人をお持ちだったのね」

アンブリッジは意味深げにハリーを見、続けた。

「癇癪持ちのポッターのご両親に、脱獄犯。極めつけが、半獣。これでは、口が悪いのも当然かしら」

はこめかみの辺りが痛いくらいにかっと熱くなるのを感じた。しかし、背後ではハリーが怒りを爆発させ、叫んでいた。

「自分のことは棚に上げて!自分なんてよっぽど酷いじゃないか!この鬼ば    
「ハリー!」

は怒りを忘れ、ハリーの言葉を遮ったが、遅かった。アンブリッジの顔からはすっかり笑いが消え、顔を真っ赤にさせていた。

「ポッター、もう許しませんよ」

アンブリッジは杖を取り出した。ハリーは身構える。
しかし、アンブリッジが杖を振り上げる前に、は杖を掲げ、「エクスペリアームス!」と唱えていた。次の瞬間、アンブリッジは吹き飛び、床に頭を打ちつけて意識を失っていた。生徒たちは、ハリーもロンもフレッドも含め、皆呆然とする。
やってしまった。
は心の中で舌打ちをし、杖を下げた。いつかこういう時がくるかもしれないと思ってはいた。アンブリッジの態度に我慢ならなくなる日がくる、と。けれども、ここで行動に移していなければ、ストレスで身体が蝕まれていたかもしれない。どこかすっきりとした気分があるのも、また事実だった。

 

「申し訳ありません」
「謝る相手は私ではないでしょう」

マクゴナガルは、カーテンのかかったベッドスペースに目を向ける。

「まったく。まさか、あなたがこんなことをするとは」
「すみません。ご迷惑をおかけしたことはお詫びします。でも、私、後悔はしていません」

がはっきり言うと、マクゴナガルは若干眉を寄せた。

「あの人のもの言いや振る舞いは、あまりにも酷すぎます」
「……その点は、否定しません。が、呪文をかけて失神させることは、良いこととは言えません」

は閉口した。だが、今回ばかりは、マクゴナガルにそう言われても反省の念はなかった。むしろ、どうせこんなことになるのだったら、呪いでもかけておけば良かったと、後悔した。
やがて医務室の扉が開く。やって来たのはダンブルドアだった。久しぶりに会う、彼。その穏やかな顔を見て、は具合の悪さを感じた。

「先生、あの」

を手で制し、ダンブルドアはアンブリッジの眠るベッドに近づいて行った。とマクゴナガルはその後を追う。彼はカーテンを勢いよく開けたが、アンブリッジは眠ったままだった。ダンブルドアは手馴れた動作ですっと杖を取り出し、横たわるアンブリッジに向けた。すると彼女はぴくりと身体を痙攣させ、ぱちりと目を開けた。

「おや、ちょうどお目覚めのようじゃな」

さらりとダンブルドアは言ってのける。疑う風もなく、はっとして、アンブリッジは上半身を起こした。

「信じられません!」

先ほどまで眠っていた者とは思えないくらい甲高い声で言い、アンブリッジはをきっと睨む。

「私、いまだかつて、このような惨い経験はありません!一体どういうおつもりで!?」
「まったくじゃ」

とマクゴナガルは驚いてダンブルドアを見る。

。君の振る舞いを、わしはまことに遺憾に思う」

ダンブルドアが、事情も聞かずに一方を悪いということは、今までになかった。ショックだった。確かに、客観的に見れば、『多少』やり過ぎたきらいはある。しかし、彼女にも汚点はあったのだ。ダンブルドアなら理解してくれると思っていたのに。

「残念じゃが、君を処罰せねばなるまい」
「当然ですわ」

アンブリッジは何度も頷いた。

「君には辞職してもらおう」

辞職。ホグワーツを辞めろ、と?は口を開けたまま、立ち尽くした。

「お待ち下さい!いくらなんでも、そこまでは」

マクゴナガルが慌てて言った。

「いや。高等尋問官を失神させたのじゃ。その罪は重い」
「もっともですわ」

はダンブルドアの態度をじっと見つめていて、彼の意図がなんとなく分かってきた。ダンブルドアの瞳は、いつものように澄んでいる。マクゴナガルもその様子に感づいたようだった。

「先生。私はハリーたちを守ろうとしただけです。先に杖を出したのは、アンブリッジ先生です」

は必死を装って言った。マクゴナガルもそこに加わる。

「そうです。もう少しの言い分も聞いて下さい。なにも、解雇だなんて」
「いや、ならん。にはホグワーツを去ってもらう。これでよろしいかの、アンブリッジ先生」
「そうですわね。まあ妥当でしょう。もう少し厳しくしても良いくらいです。『今度こそ』裁判がおこなわれても良いくらいに」

彼女の皮肉には、誰も同意しなかった。アンブリッジは続けた。

「できるだけ早急に去って頂きましょう。新しい職が見つかれば良いですね」

アンブリッジは淡々と言った。は残念そうな表情を作る。

「先生、どうしてもここを去らなければいけませんか」
「もう決定したことじゃ」

アンブリッジはごきげんよう清々しそうに言った。

 

部屋で荷物をまとめていると、案の定、ダンブルドアがやって来た。

「これで良かったじゃろうか。もしここに留まりたかったのなら、すまぬことをした」
「いいえ、いいんです。実際に……不本意ですが、辞職に値するような行為ではあったと思うので」
「そうかの。君の弁解は、聞かんでも分かる。そうそう、すまんが、列車で向かってくれるか?」
「ええ、もちろん」

さすがに、ダンブルドアの部屋のポート・キーを使うのはまずいだろう。

「大きな荷物はわしが運んでおこう」
「ありがとうございます」

とは言っても、それほど大きなものはないように思われた。家具はここのものだし、主な荷物は服だ。

「でも、少し、不安です」
「何が、じゃ?」
「ホグワーツのことが。これからどうなるか」
「そうじゃの」

ダンブルドアは深いため息を吐いた。

「魔法省が理解をしてくれれば」
「そうですね……」
    ともあれ、本日において、、君のホグワーツでの任を解く。じゃが、いずれまた戻ってくれるか?」

は苦笑し、答えた。

「ええ。ただし、彼女が去ってくれれば」

ダンブルドアも笑みを浮かべた。

「では、君の大切な黒犬に、よろしく」

 

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08/1/18