これからは、騎士団の任務に集中することになる。けれども、何をすれば良いのだろう。ハグリッドは巨人族の説得に当たっているし、魔法省に出入りできる者はその中で任務があるし……。
ああ、そうだ。グリモールド・プレイスに行く前に、オリバンダーの店に行こう。すっかり忘れていたが、これからはパトローナス・チャームを使えねば不便だろう。
あ、でも。
グリモールド・プレイス12番地。一体、どうやって行けば良いのだろうか。
97. PATRONUS
守護霊
は固まった。嫌な汗が流れてくる。
そうだ、今までポート・キーでしか移動したことがなかった。グリモールド・プレイスには一度だけこの足で行ったことがあったので、おおよその位置は分かるが、仕掛けをどう抜けていけば良いのかが分からない。どうしよう。ふくろう便
しかし、の危惧はキングズ・クロスに着いた時にあっさり解消された。駅にはリーマスの姿があった。彼は、「やあ」と手を掲げる。
「リーマス!どうして」
「ダンブルドアから聞いたんだ。場所、分からないだろう?」
「ああ、うん、そうなの。ありがとう」
リーマスの機転だろうか、それともダンブルドアの提言だろうか。いずれにせよ、ありがたかった。
「リーマス、その前にダイアゴン横丁に行きたいんだけど、良いかな」
「ああ、もちろんだよ。買い物かい?」
「ううん、杖のこと。この前の」
ああ、とリーマスは頷く。
「なら、オリバンダーの店に向かおうか」
「君にしては随分派手なことをしたね」
ダイアゴンへ向かう道中、リーマスが言った。笑っている。
「……リーマスも、アンブリッジと仕事をすればよく解るわよ」
「解るよ、そうしなくとも。もっとも絶対に共に働きたくはないがね」
リーマスは笑みを浮かべてはいたが、声音には嫌悪の色が混じっているような気がした。
そうだった。アンブリッジは半人間を嫌い、『反人狼法』を作った人物。リーマスが彼女を快く思わないのも、当然。やっぱり、もっと痛めつけておけば良かった。
「でも、シリウスだったら、1日ももたないと思うな」
は何気なく言ったが、リーマスはそうだね、と何かもの言いたげな表情をした。
「どうしたの?」
「いや、
ははっとした。この前のことはあまり考えないようにしていた。
「誤解を解いただけ」
「それだけ?」
「……どうして?」
「最近、考え込むことがあるんだよ、シリウス」
「それ、他に理由があるんじゃない?ハリーのことよ、きっと」
そうかなとリーマスは腕を組む。そうよとは答える。
そうだ。リーマスと共に働けると嬉しがっていたが、シリウスと顔を合わせなければならないんだ。
でも、落ち着いたらまた彼を話し合わなくては。
この指輪を、返すことになるかもしれないから。
「結論から言うと」
オリバンダーは、カウンター越しにとリーマスの顔を交互に見、言った。シーズン・オフであったためか、店内には客はいなかった。彼に事情を話すと、ううむと考え込んでから、そう口を開いた。
「そういうことは、ある」
「そうなんですか?」
「そう。杖によって得意な呪文もあれば、不得意なものもある。君の杖の場合、それが極端なのじゃろう」
オリバンダーは、売った杖は全て憶えているというが、半身半疑であった。まさか、本当に憶えているとは。本当に、『一種の職業病』なのかもしれない、……。
「でも、どうしてパトローナス・チャームだけ?他の呪文は、大丈夫なんです」
「パトローナス・チャームは闇の力への抵抗力が強い。君の杖は闇の力が強い。故に、その力同士が反発しあうのじゃろう。それに、君に杖を売った時よりも、杖の闇の力が強まっているようじゃ。何かあったのかね」
思い当たる節はあったが、いいえと首を振った。
「なんとかなりますか?」
「ふむ……まあ、ならんことはないが」
オリバンダーはあまり気乗りしない様子で言った。
「もう1本杖を持つことじゃ」
「そんなことができるんですか?」
「本来ならば、最も相性の合った杖を持つことがベストじゃ。が、相性はこの際、致し方ない。パトローナス・チャームを使いたい時だけ、別の杖を使えばよい」
少々面倒だが、オリバンダーの言う通り、仕方ないだろうと思った。守護霊を出せなければ仲間に迷惑がかかる。お願いしますとが言うと、オリバンダーは頷き、奥に行って小箱を持って来た。
「この杖で、どうじゃろう」
オリバンダーは箱から1本の杖を取り出し、に渡した。手に取り、眺めてみる。いつも使っているものより、若干小さかった。
「使ってみなさい。パトローナス・チャームを」
オリバンダーとリーマスに見つめられ、気恥ずかしかったが、は2人にぶつからぬよう一歩後ろに下がって、杖を掲げた。
「エクスペクト・パトローナム」
杖先から銀の物体が現れ、はほっと胸を撫で下ろした。良かった、守護霊を呼べなかったのは、杖のせいだったんだ。この身体が、闇の力に侵されていたからではなかったんだ。
しかし、出現したその銀の塊のかたちを認識して、息を呑んだ。リーマスも目を丸くさせていた。彼は何か言葉を言おうとしたようだったが、それは途切れた。も我を忘れた。
現れた銀の生物は
「オリバンダーの店はね、ジェームズとの思い出の場所なの」
グリモールド・プレイスへ向かいながら、はリーマスに語った。ポケットには、先ほどの杖が入っている。
「ダイアゴン横丁に来ると、いつも思い出す」
「そうだね。そうかもしれないが、驚いたよ」
「私も。でも、良かった。変な生き物が守護霊だったら嫌よね」
確かにね、とリーマスは笑う。も笑い、ふと考えていたことを口にしたくなった。
「……私……こうやって、死んでしまった人のことを語るのを避けてた。もういない人のことを話しても虚しいだけだ、って」
ジェームズやリリーのことを思い出すと、胸がちくりと痛んだ。もう2人はいないんだ、と。それが嫌で、ふたりの思い出話をあまり思い浮かべないように、口にしないようにしていた。
「でも、違うのかもしれない。こうやって、ジェームズとリリーのことを思い出したり話したりすることで、ふたりを近くに感じられる」
彼らが確かに存在していたという事実が、彼らと共に過ごした日々の記憶が、傍にいてくれる。彼らの面影の、温かさを感じられる。
「それに、私が死んだら、私のこと、思い出して欲しいし」
が静かに笑みを浮かべると、リーマスも同じように微笑み、ゆっくり頷いた。
「そうだね
もそっと頷いた。その証が、きっと、この守護霊。
ありがとう、ジェームズ。きっと、ずっと傍にいてくれていたんだね。リリーも傍に、いるんだよね。
私が憶えている限り。ずっと、傍に。
これからはもっと、思い出を大切にしていかなきゃね。
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08/1/18