「英雄ハリー!勝因は何だったのですか!?」
ヴォルデモートを倒し、既に10日が過ぎようとしているというのに、ハリーに殺到する人は後を絶たなかった。報道陣もいたが、一般人で、一目でもハリーを見たいと集まる者も多かった。
「みんな……多くの人の力があったからこそ、成し遂げられたことです。僕一人の力ではありません」
初めは、ハリーはそう答えていた。だが今度は、なんと謙虚な!と逆に称賛されるしまつ。
「はいはいはい!握手したい人は並んで!」
「サインは5クヌート!今ならハグもついてくるよ!」
フレッドとジョージは、そんなハリーに群がる人々に向けて声を上げた。
「ちょっと、ロン!やめさせてよ!ハリーが商売道具みたいじゃない!」
「でもさ、ほら、卒業後の生活資金にするのに……」
「だーめ!」
その傍では、ハーマイオニーがいつものように腰に手を当て、ロンを窘めていた。
120. Spectral colors
色とりどりの世界
「それにしても、今回はあなたとセブルスにしてやられましたね」
マクゴナガルは、向かいで呑気に茶を啜る老人を眺め、言った。
「シリウスの件といい
「全てというと過言だのう、ミネルバ。みなの惜しみない協力と、それらが結びついて、今があるのじゃ」
ダンブルドアの隣では、同じくのんびりとフォークスが羽を伸ばしている。平和な光景だ、とマクゴナガルは思った。まったくもって、平和だ。少し前までは、暗黒の闇が辺りを覆っていたのに。そしてその闇は、目の前の彼が死んでしまってからは、ますます深くなったように思えた。ダンブルドアの存在は、大きかった。人々にとって。マクゴナガルにとっても。その彼は、もうこの世からはいなくなってしまったと思っていた。けれど、……彼は、ここにいる。
「結果的には良かったですが、私たちの気持ちも察して欲しかったですね」
「その点に関しては、すまなかったと思うておる。たくさんの者を悲しませてしもうたじゃろう」
シリウスと自分が死んだ、と。セブルスが裏切ったのだ、と。そして、シリウス自身とセブルス自身も苦しむことがあっただろうと、ダンブルドアは思っていた。
「ミネルバにも苦労をかけたのう。じゃが、騎士団をようまとめてくれた」
「私は苦労したとは思っていませんが、……相談は、して欲しかったですね」
ダンブルドアは苦笑した。
初めは、そうしようかと思った。だが、彼女に言うならば、ムーディにも、ならばやリーマスにも、となってしまう。それでは意味がない。身を潜める意味が。裏を探る意味が。
「敵を欺くにはまず味方から、じゃ」
悪戯っぽく瞳を輝かせるダンブルドアに、まったくもうと言いつつ、マクゴナガルも笑みを見せた。
「セブルス」、とリーマスが呼びかけると、呼ばれた彼は少々億劫そうに振り向いた。その表情は、何か用か、用なら早くしろ、と言いたげである。
「君、魔法薬学の担当で良かったのかい?私は防衛術でなくとも、ホグワーツにいられさえすれば」
「10年以上教えてきた科目だ。私に問題はない。貴公に障りがあるなら別だが」
「いや、私にもないよ」
リーマスは、相変わらずのセブルスの様子に苦笑した。
ダンブルドアがホグワーツの校長に復帰。彼の計らいで、リーマスもセブルスもホグワーツの教師に戻ることができた。無論、反対意見もあった。しかし、今回のダンブルドアや騎士団の功績を称える人が圧倒的で、それらに関わった者を悪く言う者はほとんどいなかった。
双方で担当の教科を決めてくれ、とのことだったが、セブルスは魔法薬学を選んだ。
「それにしても
「ああ」
セブルスは短く答え、歩き出すが、リーマスもその隣に並んだ。いやに親しげなリーマスが煩わしかったが、これから脱狼薬を煎じてやるのだ、彼の弱みは握ったようなものだとセブルスは思った。
「君はダンブルドアに余程信頼されているんだねえ。それほど重要な計画を任され、知らされていたなんて。妬けるよ」
セブルスは、ふんと鼻で笑った。
それは、貴様も同じだろうに。そうでなければ、狼人間などホグワーツで働かせたりなどしない。人を信じることは、あの人の性なのだと、セブルスは胸の内で言った。
そして
魔法省は、闇の陣営の残党退治や、その裁判に忙しい日々を送っていた。ムーディも、『元』闇祓いだったが、今では人員不足で現場に駆り出されている。ハリーも、将来は闇祓いになるのだと意気込んでいた。ロンはグリンゴッツに就職するかどうかで悩んでおり、ハーマイオニーは魔法使いとマグルの間に立つ仕事をする。ダイアゴン横丁には双子の店が本格的にオープン。モリーはそのことに気を揉んでおり、アーサーは店の経営に首を突っ込みたがっている。ビルとフラーは新婚旅行へ行っている。
そして、ホグワーツも再会される。
死喰い人の裁判や、負傷者の介抱など、まだ戦いの爪跡は残っている。しかし、それも次第に癒されていくだろう。
けれど、その『一件』がとてもとても長かった。
ひとりのホグワーツの生徒が起こした事件。それは争いに、戦争に発展した。多くの命が失われ、多くの者が傷ついた。
結局、彼は何を望んでいたのだろう。それに気づくことができなかった。しかし、気づけたとして、自分に何かができたろうか。今ならば、きっとしてみせる、と豪語できる。だが、当時はそう言えただろうか。まさかこんな事態に発展すると、考えただろうか。
でも。
本当はきみと語らいたかったんじゃよ、トム。
彼の望んだ闇の世界と、自分の望んだものは違った。彼の力はあまりに強大になりすぎて、彼を止める術は、彼の存在を失くしてしまうことしか方法がなかった。
彼は、何かを憎むことで、自分を成り立たせていた。自分を独りだと思い込んでいた。
でも、彼を本心から慕うものも存在した。そのことに、気がつくべきだったんだ。
ダンブルドアは、森の中に佇む大きな樹木の根元に、墓石を作った。その上に、黒いマントをそっとかける。そして、真紅のバラを添えた。それを、木の葉の隙間から漏れた陽の光が照らす。
君は、花なんて、と嫌がるじゃろうか。光の下を嫌悪するじゃろうか。
でも、君には似合うと思うよ。君が認めないだけで。
今度は、栗でも持って来ようか。
ひとびとは、この戦いのことをいつか忘れてしまうかもしれない。
でも、わしは忘れない。けっして。
君が、たしかに存在していたことを。
ずっとずっとずっと、胸に刻んでゆくよ。
風が吹いた。紅いバラの花びらが微かに動き、木々が揺れ、木漏れ日の作る影も振れ動く。
きらきらと、影の中に光の波を作っていた。
ご覧。君のいない世界は、こんなにも美しい。
けれど、どこか物哀しくも思うんじゃ。
君という色を失った、この世界は。
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08/1/20