リーマスの後を継いだ防衛術の教師は、マッド・アイ・ムーディという男性だった。一風変わったいでたちをしているが、防衛術の教師はどうしてこうも個性的な人物が多いのだろう、とは思った。そして、毎年毎年、その担当が替わる。生徒たちが噂するように、呪われた科目、なのかもしれない。
その呪いにかかって去った人物は、いま    

 

『やあ、久しぶり。元気かい?
私は今、イギリスのはずれの田舎町にいるよ。そこで、ちょっとした事務のような仕事を見つけてね。なかなか面白い仕事だよ。ゆったりと流れる、田舎独特の時間間隔も、心地良い。
君のほうはどうしている?ホグワーツは、あいかわらずかな。今年は三校対抗試合があるから忙しいだろうが、暇があったら、「例の件」を、よろしく。
そうそう。この町にも、小さいが品揃えが良いレコード店があるんだ。よかったら、今度、来てみてくれ。
じゃあ、また。
リーマス・ルーピン』



ふくろうが運んできたその手紙を、は何度も読み返した。懐かしいリーマスの筆跡。そこから漂ってくる、彼の穏やかで優しい雰囲気。そっと手紙の表面を撫でて、はそれを封筒にしまった。
彼の言う通り、今年は忙しかった。ホグワーツ、ダームストラング、ボーバトンの三校で、対抗試合が開かれるためだった。しかも、このホグワーツにおいて。ダームストラングとボーバトンの生徒たちは、先日ここにやって来て、今月の24日に第一回目の課題がおこなわれる。そのための準備に、も教師たちは忙しかったが、ひとまず一回目の課題が終了すれば、次までに日にちが開くため、時間の余裕はできるはずだ。

伯父のコンサート。今年も、クリスマスにやるだろうか。
ということが気になって、ロンドンにでかけた際、電話で尋ねた。
BGMは、『ムーン・リバー』。アレンジによって雰囲気が変わる曲だが、電話の向こうのアレンジは、軽快でいてしっとりとしたアルトサックスのメロディだった。

「いや、今年はクリスマスにはやらない」
「そうなの?」
「ああ。でも、大晦日にカウントダウンイベントでもやろうかな、なんて。おもしろそうだろ?」
「へえ」
「お前も来るか?あ、そうだ。例の彼も一緒に」
「ああ……うん」
「どうした?まさか、ふられたとか?悪かったな、それは」
「ちがうよ、失礼な。    少なくとも『まだ』ふられたわけじゃない」
「ふーん。どうせお前のことだ、まだ大したアクションを起こしてないんだろ」
「そのことはもういいでしょ!とりあえず、もしかしたら行くかもしれない、っていうことだけ」
「分かった。2人ぶん、空けておくよ。特等席で」

そういう席じゃなくていいよ。
は、あいかわらずの伯父の様子に懐かしさを感じながらも、苦笑してそう答えた。

 

もし、その機会があったら、と、リーマスは電話番号を記していた。
その場で何度も躊躇し、せっかくだし、と番号を押すが、その手を止める。やっぱり手紙で書けば良い。それに、この時間だから、仕事に出ているに違いない。
でも    久しぶりに、リーマスの声が聞きたい。
結局はその欲望に負けて、受話器を取った。そして、何度目かのベルの音の後、「もしもし」と応答があった。その声に、どきりとする。

「あ、の……リーマス?」
「ああ、かい?久しぶりだね」
「今、大丈夫?」
「大丈夫だよ。今日はちょうど、仕事が休みの日なんだ」

数ヶ月ぶりのリーマスの声。電話越しでも、変わっていないことが感じられた。優しい声。聞いていると、胸が締めつけられるくらいに。

「手短に話すね。……今さっき、伯父さんに電話をしたの。コンサートの件でね。そうしたら、今年はクリスマスのライブはないけど、カウントダウンのイベントで演奏会を開く、って」
「へえ。おもしろそうだね」
「そういうの、初めてらしいんだけど……気合いは入っているみたい」
「伯父さんの様子が目に浮かぶよ」

ふふ、とリーマスは電話の向こうで笑った。彼の息遣いがすぐ傍に感じられた。

「もし、リーマスの都合が良かったら……一緒に、どうかな」
「ああ。ぜひ、お願いするよ」

その言葉に、は受話器にはかからないように、大きな安堵の息を吐いた。

「でも、君のほうは?大丈夫なのかい?」
「ええ。年明けは、教師も生徒も、自由にできるようだから」
「それならば、楽しみにしておくよ」
「詳しいことは、また手紙で送るね」
「ああ、よろしく」

がちゃん、と受話器を置いて、はそのまま前のめりに倒れそうになった。
    良かった。断わられたら、やっぱりちょっと、ショックだっただろうけれど。
リーマスと、また会える。また伯父さんの演奏を一緒に聴くことができる。
飛び上がりたい気持ちを抑えこんで、電話ボックスを後にした。

 

『やあ。手紙、ありがとう。
カウントダウンのライブは、私の住んでいる場所からそう遠くないところで開かれるようだね。良かったら、少し早めに来てくれないかな?ここを案内したいんだ。この前言っていた、例のレコード店もあるし、美味しいチョコレートの店もあるんだ。
返事を待っている。風邪には気をつけて。
リーマス・ルーピン』

 

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07.12.1
♪『ムーン・リバー』