「そうか。なるほど、よく分かった」

ダンブルドアは長い髭をなでながら、大きく頷いた。

「申し訳ありません。そもそも、私がここに置いてくださるようお願いしたのに」
「いや、いや。そんなことはない。君の好きなようにすることが一番。じゃが、寂しくなるのう、フィリウス」
「ええ」

フリットウィックは、小さな頭をこくりと下げた。

「しかし、またいつでも来てほしい。なんなら、音楽という教科も設けて、教授になってもらっても」
「おお、それは良い案じゃの」
「ありがとうございます」

恩師との別れは、寂しい。けれど、この決心は大切にしたい。

「先生方も、いつでも言ってください。こちらになら、演奏会にいつでも来ます」

ぜひ、と2人の教師は、声を調和させて言った。

 

「一つ問題がある。がピアノをやるなら、俺は何をすればいいんだ」
「いいじゃないの。ボーカルに専念すれば?」
「俺はいつでも歌を歌いたい気分じゃない!」

バンドのメンバーが軽い口調で言うと、伯父は声を荒げて言った。

「大体、魔法学校の先生になる!とか言っておいて、それを今更、メンバーに加えてくれ、だあ?」
「承知してくれたじゃない」
「冗談で言ったと思ったんだよ。まさか、本当に荷物をまとめてくるとは」
「これからよろしくお願いします」

はバンドのメンバーに向かって恭しく頭を垂れた。みな、「おお」とにこやかに返してくれる。本当は、こんな小娘が、と不満はあるのかもしれない。でも、それを心地良く迎えてくれることが嬉しかった。

「前のコンサート、ちゃんとのアンサンブル、なかなか気持ちよかったよ」
「そうそう。男ばっかりだし、華があっても」
「こいつが、華あ?冗談だろ」
「またまた。結構乗り気だったくせに」

やかましい、と、伯父はサックスを手にしていた男に鋭い視線を投げかける。

「私、雑用もするから。料理とか、掃除とか、お困りでしょう?」
「うんうん、それは助かる」
「料理なんて、ほとんど外食だったもんな」
「俺が作ってやっただろ!」
「リーダーの手料理、味つけが薄いんですもん」
「お前らなあ」

乱雑なようで、本当は繊細なひとたち。音楽を愛するひとたち。その中に入ることができるのは、とても幸せだった。
たしかに、教師になる夢も棄てたくはなかった。でも、私にはやっぱり音楽が必要不可欠なのだと、そういう思いが日に日に強くなっていった。今までに二度、このメンバーとセッションをしたが、その体験がつねにの中に居ついていて、離れない。あんなに興奮して、楽しくて、刺激的な体験は、他にはない。それに、音楽は人を幸せにすることができるものだと信じていたし、人を楽しませたいと思ったから。

「伯父さん、私、がんばるから」

彼の目を見てまっすぐに言うと、伯父は少しの間黙っていたが、やがてむっすりとした口調で言った。

「当然だ」

 

伯父のバンドに本格的に参入して、はじめての人前での舞台。
カーテンの向こうのざわめきを感じながら、はピアノと対峙していた。小さなライブハウスでの演奏とはいえ、席に空きはない。伯父たちの音楽が好きで集まっている人々。彼らに、私は受け入れてもらえるだろうか。

ちゃん、緊張しないで。リラックスリラックス」

顔を上げると、ドラムと目が合った。そして、サックス、トランペット、みんな笑顔を浮かべている。

「私、……みんなの邪魔したんじゃないか、って思う時があった。でも、やっぱり音楽が好きだから、同じくらい音楽が好きで、私が尊敬している人たちと、音楽を奏でたかった」
「分かってるよ。類は友を呼ぶ、って言うだろ?」

ウィンクを投げかけてくれる人、笑顔を向けてくれる人。
肩の重さがすっと軽くなったような気がして、も微笑んだ。

音楽が好き。
それだけだ。

間もなく伯父がやって来て、カーテンが開いた。

 

クラシックや映画音楽のアレンジ、そしてジャズと、バラエティに富んだ演奏に、観客は目の色を次々と変えた。演奏者の気分も曲によって変わる。それが、この会場に行き渡って、皆に伝わっている。人々が一帯になる。そんな感覚。

「ええと、お分かりかと思いますが、メンバーが一人増えました」

伯父がマイクの前で言った。

「あ、心配ないです。俺の姪っこで、俺は独り身なので」

どっと笑いが起こる。も笑いながら、マイクの前に立った。

「はじめまして、といいます。何度かメンバーとは演奏したことがあったんですが、今回から一緒に演奏をしていくことになりました。まだ未熟な者ですが、よろしくお願いします」

拍手。人々の目つきに、自分が受け入れてもらえたことを悟った。

「じゃあ、本日最後の曲を」

 

TOP - BACK - NEXT
07.12.15