は、伯父たちと教師たちの間を取り持ち、特にフリットウィックはしきりにバンドのメンバーに質問をしていた。そして、
「とても素晴らしかったです」
ルーピンは伯父に右手を差し出しながら言った。伯父も、笑顔でルーピンの手を握り返す。
「全身に鳥肌が立ったのははじめてです」
「光栄です。それにしても、が一番演奏を聴かせたかったのは、あなたかな」
「え、な、ちょっと、伯父さん!」
伯父は、頬を紅く染めるを見てからからと笑う。
「いやあ、なんとなく、あなたは音楽がお好きなようだから」
「ええ、おっしゃるとおりです。今夜の演奏で、すっかりみなさんのファンになりました」
「そうですか?嬉しいなあ。良かったら、また聴きに来てください」
「ぜひ」
笑顔で語り合う伯父とルーピン。
大好きな音楽、大好きな伯父の演奏をルーピンに聴いてもらえて、さらにルーピンも気に入ってくれた。これほど胸が高鳴ったことは今までにない。嬉しい。良かった。本当に。
「ありがとう、」
ルーピンはそっとに耳打ちして、去るバンドのメンバーたちを見送った。
ありがとう、。ありがとう、ありがとう、……。
ルーピンの言葉を噛み締めながら、は残りのクリスマス・イブ・パーティを過ごした。
ありがとう、か。嬉しいなあ。
……。
……。
え?ちょっと待って。ルーピン先生、私のことなんて呼んだ?
、と言った。さらりと、何となしに。あまりにすんなり彼がそう言ったので、その時はあまり感じなかったけれど、……。
彼が、私をファースト・ネームで呼んだ。聞き間違いだろうか。しかし、そこには馴れ馴れしさは全くなかった。親しみが込められていたように思えた。今夜のことで、たいぶ喜んでくれたのだろうか。
いずれにせよ、ルーピンはもちろん、ダンブルドアやフリットウィックら教師も、生徒たちも喜んでくれたのだから、にとっても幸せなことだった。
もしかしたら、今までで一番のクリスマス・イブかもしれない。
「レコードは、ないのかな」
クリスマスから数日後、顔色が良くなったルーピンが、に声をかけた。
「レコード?」
「君の、伯父さんの」
「ああ、ありますよ」
が微笑むと、ルーピンははにかんだような笑みを浮かべた。
「あの日以来、すっかりファンになってしまってね」
「そうですか?嬉しいです。私もファンの一人なので。全部で何枚出しているのか分からないんですが……私も何枚か持っているので、今度お貸ししますね」
「ありがとう」
ルーピンのありがとうが好きだなあ、とは噛み締めた。優しい声、優しい口調、……。
「君も、伯父さんとピアノを弾くことはあるのかい?」
「ええ。けれど、人前で弾いたのはあれが初めてです」
「私は君のピアノも好きだよ。久しぶりに聴
「え?ええ、私で良ければ、もちろん」
お世辞でも、そう言ってもらえるのは嬉しい。
そう、
彼と話をしていると、楽しい。
彼の姿を見ると、幸せな気分になる。
もっと知りたい。リーマス・ルーピンという人を。彼はどんな家に生まれ、どんなところで育ち、どんな両親に愛され、そんな学生時代を過ごしたのか。友人にはどんな人がいて、どんな風に過ごしたのか。
そうだ。彼は、ある人の影響で音楽を好きになったと言っていた。それは、友人なのだろうか。親だろうか、親戚だろうか。それとも、……。
学生時代。学生時代の彼に会いたかった。思い出を共有したかった。同じ場所で学んだのに。
ホグワーツにやって来た時の彼の顔。懐かしむようで、それでいてどこか痛みのある表情だった。
彼があんな顔をするのはなぜ?
触れたい。知りたい。もっと、このひとを。
「魔法省へ行ってもらいたいのです」
用事があるのだが、とマクゴナガルに呼び出され、は彼女の事務室へ赴いた。
「タイムターナー。知っていますか?」
逆転時計。実際に見たことはないが、時間を戻すことのできる時計だということは知っていた。悪用されては一大事なので、魔法省が厳重に管理しているというが。
「私の寮の生徒で、選択科目を複数受講するため、タイムターナーを用いている者がいます。ですが、時計の調子が優れないということで。魔法省へ行って新しいものと取り替えてきて欲しいのです」
「はい、分かりました」
「できれば、明日にでも行ってもらいたいのですが」
「ええ、すぐにでも。熱心な生徒ですね」
が笑むと、マクゴナガルも口元を緩めた。
昼間、ルーピンから、レコードを返したいので、夕食後に事務所に来て欲しいと言われた。髪を整え、彼の部屋の扉をノックすると、「どうぞ」という声が聞こえた。戸を開けると、いつものように音楽が流れてくる。ルーピンの部屋の匂い。温かい空気。
「すまないね、わざわざ」
「いいえ」
「とても良かったよ。今度、新しいものが出る時には、ぜひ教えて欲しいな」
「もちろん。そう言って下さって、伯父も喜びます」
「今日、ホグズミードでバタービールを買って来たんだが……どうだい、良かったら、一緒に」
ルーピンはレコードを手渡しながら言った。
「ぜひ、……と言いたいところなんですが、実は今からロンドンに行くんです。ナイトバスで」
「ロンドンに?」
「はい。マクゴナガル教授の遣いで、魔法省に。グレンジャー、ルーピン先生もご存知ですよね」
「ああ。とても頭の良い子だね」
「ええ。彼女が、タイムターナーを使って選択科目をすべて受講しているんですが、時計が壊れてしまったらしくて」
タイムターナー?と、ルーピンはなぜか驚愕したように目を丸くしたが、やがて何かを会得したように、なるほど、と大きく頷いた。
「ああ、それで………」
「どうかなさいましたか?」
「いや、……」
ルーピンは首を振り、微笑んだ。机の上に置かれたバタービールの瓶を一瞥する。
「なら、帰って来たら、一緒に」
ええ、とは頷く。それを見て、ルーピンは微笑んだ。
「いろんな話をしながら、ね」
曲は緩やかだけれども壮大な、バッハの曲に移っていた。
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07.10.13
♪『コラール前奏曲 目覚めよ、と呼ぶ声あり J.S.バッハ』