ホグワーツ在学中、セブルスには天敵とも言うべき相手がいた。
馬が合わないというか、犬猿の仲というか。
いや、むしろお互いに“存在自体が大嫌いな相手”というレベルだったかもしれない。
彼らの言動にいちいち反応するセブルスもセブルスなのだけど、寄ってたかってセブルスに悪態をついてくる彼らのことが、私も好きになれなかった。ホグワーツ一の秀才で人気者だったから、なおさらだ。
彼らは私のことをおもしろくないと思っていたようだった。私がセブルスと仲が良く、他の生徒たちのように媚を売らなかったから。
とうとう私に目が向いたことがあった。
「ねえ、えっと、さん」
高いトーンで呼びかけられて振り向くと、黒髪に眼鏡の男の子と、同じく黒髪で眉目秀麗な男子が立っていた。
ジェームス・ポッターとシリウス・ブラック。
グリフィンドールに所属していて、ホグワーツで一番有名なコンビだ。
そのふたりが私にいったい何の用だろう。
不審感を隠さずにじろじろ見ていると、ポッターが一歩近づいて来た。
「ひとつ、参考に聞きたいんだ」
ポッターは唇を片方に吊り上げて、勿体つけるように切り出す。
「きみ、いったいぜんたい、セブルス・スネイプのどこがいいの?」
その質問は、ほかの人からも訊かれたことがある。
セブルスと付き合っているのか?
セブルスのどこを好きになったのか?
そのたびに、「付き合ってない」「友だちとして好きだけど、異性としての好意は抱いていない」などと繰り返してきた。
たまに「友だちとしてもどうかと思う」なんてひどいことを言ってくる人もいたけれど。
セブルスと私が一緒にいることは目立つのだろし、何より年ごろの男女だから、そういう質問が飛んでくることは仕方ないのかなと思っていた。
けれども、同じことをポッターに問われると、なぜ腹立たしさが湧き出てくるのだろうか。
たぶん、彼らがセブルスのことを心から嫌悪していて、あえて私にたいして皮肉を言っていると、わかるからだろう。
だから私は、いつもの返答とは違うことを返すことにした。
「セブルスは、うるさくないし、人気を鼻にかけたりしないから」
逆効果だったようだ。ポッターと、そして少し後ろにいたブラックは、ゲラゲラと大きな声で笑い出す。
「人気って、アハハ、スネイプに鼻にかけるほどの人気なんてないし」
ポッターは笑い声の合間から言葉を絞り出すように言う。
相手にするだけ無駄なのだ、と悟った。
何を言ったところで、彼らは反撃してくるに違いない。
彼らを精いっぱい睨みつけて、この場を後にしようと足を踏み出すと、「ちょっと待って」と相変わらず笑いのトーンが残る中でポッターが言った。
「いや、ほんとに素朴な疑問なんだ。スリザリンの陰気なやつらならいざしらず、きみみたいに普通のレイヴンクローの女の子が、どうしてスネイプにかまうのかが」
セブルスがどうして彼らに突っかかってしまうのか、少しわかった気がする。
どこか挑戦的な言い方に、言い返さずにはいられないのだ。
「ふつう?普通って、なに?私は日本人で、英語がヘタだったから、全然普通じゃなかった。だからホグワーツ特急でいじめられて、セブルスが助けてくれたの」
ポッターに負けないように威圧的に返したつもりが、彼は歯牙にもかけないようだった。
「へーえ?あのスニベルスがねぇ……」
どうも彼らはお互いに変なあだ名で呼び合っているようで、セブルスにたいしても「スニベルス」という嫌な呼び名をつけていた。
「おいプロングズ」
これまでひと言もしゃべらなかったブラックが呼びかけて、ポッターの隣に並ぶように立つ
「はっきり言えよ、エバンズのことが気になってるんだって」
耳元で言うわりには、はっきりとした声音だったので、私にも聞こえてきた。
ポッターは少し頬を赤らめて、「うるさいな」とブラックを振り払う。
エバンズ。リリー・エバンズ、……?
詳しく聞きたかった私は、訊ねようと口を開く。
けれども。
「私が、何?」
ポッターたちは左、私は右を見た。
赤毛の女の子が立っていた。
まさに名前が出ていた、リリー・エバンズさんその人だった。
「やあやあエバンズ。ご機嫌うるわしゅう」
ポッターが私に対する声音とは九十度くらい変えて、リリーさんに呼びかける。
「いま私の名前が話に出ていたみたいだけど?」
「あ、いや、気のせいだよ、うん」
「そうかしら。それに、あまりいい雰囲気じゃないみたいだけど」
リリーさんは私の表情を伺うように目を向ける。
気づくと私は相当なしかめっ面をしているようだった。眉間に力が入っている。
「あー、べつに、ちょっとさんとおしゃべりしてただけ」
苦々しく笑うポッターに、ブラックが声のトーンを落として言う。
「この際はっきり聞いたらどうなんだよ。スニ……スネイプのことどう思ってるか」
「わー馬鹿!」
ポッターが止めるのも虚しく、リリーさんは「セブルスが、どうしたの?」と訊ねる。
リリーさんのきれいな声で「セブルス」と告げられると、なぜか胸がちくちくと痛む。
それはさておき。
そうか、ポッターはリリーさんに気があるのか。
リリーさんとセブルスは旧知の仲のようだから、リリーさんもセブルスのことを特別視していると考えていたのかもしれない。
それで“参考まで”に、私にセブルスのどこが良いのか聞いてきた、と。
「なんでもない、なんでもないよ」
慌てて手の平を見せるポッターを押しのけて、ブラックが前に出る。
「なあエバンズ。スネイプとどういう関係なんだ?」
「ば、馬鹿ー!」
ポッターが止めるのも聞かず、ブラックは訊ねる。
彼女の答えは想定できるのだけど、それでも怖いというか、聞きたくないような、はっきり聞きたいような奇妙な気分だった。
リリーさんは大きな目を何度か瞬かせてから、あっさりした口調で言った。
「どういう関係って……ただの幼馴染というか……ホグワーツに入る前に知り合っただけよ」
そう、だよね。
心の中で納得する。
セブルスとリリーさんが特別な仲なのであれば、セブルスがあんな目でリリーさんを見たりしないもの。
ふたりが両想いなのでなくてよかったと安心する反面、セブルスが心変わりすることなんてありうるだろうか、と思う。
その間にリリーさんがセブルスのことを好きになったりしたら
。
「セブルスなら、私よりもさんのほうが親しいんじゃない?」
突然話を振られ「えっ」と声を上げてしまう。
言葉の内容もそうだけれど、リリーさんが私の名前を知っていることに驚いた。
直接話したことなんてあったっけ、と過去をたどるけれど、思いつかなかった。
「よくセブルスと一緒にいるわよね。セブルスもさんのことを話していたし」
「え、……」
セブルスが、私のことを。
いったいどんなふうに話していたのだろう。
その疑問にたいする答えは、リリーさんがすぐにくれた。
「さんが間違えて髪の毛を燃やしかけちゃったとか、そんな話」
くすくすと可愛らしい笑顔で笑うリリーさん。
いつのことだ、それは。
私は顔が熱くなるのを感じた。
私のことを話してくれてうれしい。
そう思う半面。
セブルスの意図が想像できてしまう。
好きな人の前でしどろもどろになって話すことが、友だちの失敗話というのはよくあることだと思う。
「仲が良いのね」
リリーさんは、ポッターたちとは違って一切の刺々しさなく言った。
そうなんです、と言いたかた。
だからセブルスには近づかないでもらえませんか。
そんなやましい気持ちは、なぜかしぼんでゆく。
リリーさんはとても可愛らしいのに、嫌なところがなくて、明るくて、優しそうな人だと思った。
だから
セブルスが、心から想っているのだ。
「セブルスは、……たまたま最初にホグワーツ特急で知り合った人で、……勝手に私が頼りにしただけで」
セブルスのために、必死で弁解をした。
そうだ、セブルスなんてさっさと想いを叶えてしまえばいいんだ。リリーさんと。
そうなの?ときらきらした瞳で見つめてくるリリーさんが、とてもとても眩しかった。
その明るさに耐えきれなかった私は、「それじゃあ授業があるから」とその場を去った。
この光はいつまでもセブルスを照らし続けるのだろうな、と思った。
一方で、私には薄っすらと暗闇が近づいていることに、当時の私はまるで気づかなかった。
2018.6.25
ヒロイン視点:
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セブルス視点:
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