新学期。
新たな生徒が入学し、組み分けがおこなわれ、学内はばたばたとした喧騒に包まれるる。
ホグワーツに不慣れな生徒が入ってくるこの時期は、何かと忙しく過ぎてゆく。
余計なことを考えないまま秋が過ぎてしまえばいいと、毎年思っていた。
だが。
今年は“ハロウィンパーティー”などというものをしようと、ダンブルドアが言い出した。
いい加減、死者の喪に服す期間は過ぎたということだ。
私はダンブルドアにたいして悪い感情は持っていなかったが、このときばかりは恨めしく思った。
喪に服す期間は過ぎたと宣言されることで
死者が
いなかったことにされたような、そんな気分になった。
私は当のイベントには何も関わるまい、と決めた。
そのことを事前に宣言してしまえば、周りからとやかく指摘されそうな気がしたため、黙っていることにした。
当日になれば、体調が悪いなどと言って自室にこもっていれば良い。
もっとも、あたりが部屋に押しかけてきそうなものだが。
しかし
前日になって、ダンブルドアが私のところにやってきて言った。「が熱を出して寝込んでいる」と。
私ははじめ、鼻で笑ってしまった。
誕生日やクリスマス、旅行の前などに子どもがはしゃいで、当日熱を出してしまうようなものだと思ったからだ。
ダンブルドアにそれを告げると、口元は微笑んだが、瞳は笑っていなかった。
「そうかもしれんのう。ただ、本人は辛いだろうから、薬を調合してやってはくれぬか」
反論はせずに、私はの部屋に向かうことにした。

夜、の部屋は当然のことながら薄暗かった。
ベッド脇にある明かりがほのかに光を放っているが、なぜか部屋全体が濃い闇に包まれているように感じた。
そのなかで、は苦しそうに呼吸をしていた。額にはびっしりと汗をかいており、何かを振り払うようにもがいていた。
魔法で作り出した半氷の布を額に当てているが、それを取って、の額に手を載せると、はっきりとした熱が伝わってきた。
想像していたよりも重い風邪らしい。咳などは出ていないようだから、発熱がひどいのだろう。
私は早足で自室に戻り、熱を自然に冷ますような薬を調合した。おそらく倦怠感もあるだろうから、体力をつける薬草も配合した。
の部屋に戻ると、あいかわらずは苦しそうにまぶたを閉ざしている。
少し揺すってみたが起きる気配がないので、仕方なくサイドテーブルに薬を水を置いてゆくことにした。
再び自室に戻るが、なぜかのことが気がかりだった。
日付は、いつの間にか10月31日に変わっていた。
ハロウィンの死神は、私の前から人を奪ってゆく。
そんな言葉が頭を過り、気がつくと私はの部屋に向かっていた。
に手をかけようとする黒い存在が見えたような気がしてしまった。
馬鹿馬鹿しい。たかが風邪だというのに。
そう解っているにもかかわらず、踏み出した足は止まらない。
の部屋に足を踏み入れると、やはり依然として暗く、重い気配に満ちていた。
薬にはまだ手をつけていないようで、サイドテーブルに置かれたままだった。
先ほどと変わらずは苦しげな息を漏らしている。
叩き起こして薬を飲ませようか、と思った。
そのとき。
「セブ……ルス……」
小さく開かれた口から私の名前が発せられて、が目を覚ましたのかと思った。
しかし、瞼は固く閉じられたままで。
寝言で私の名を呼んだらしい。
やはり起こそうか。
だが、風邪のときは睡眠を取ることが最善だ。ようやく眠れているのだとすれば、このまま寝かせておいたほうがいい。
私はしばらくに付き添うことを決めた。
死神が、こいつを連れて行かないように。

朝日が昇る時間になるとの呼吸が落ち着いてきて、部屋に光が入るのと同時に嫌な気配も薄らいでいった。
私は一度自室に戻ることにした。
万が一、この光景を他の教師
主にダンブルドア
に見られては面倒だと思った。
研究室に戻り、軽く朝食を取る。今日の授業は午後からだったので、私は午前中のうちにを見舞うことにした。
まだ寝ていたら本当に起こして薬を飲ませようか。
そう考えての部屋に入ると、ベッドの上で身体を起こしているの姿が目に入った。
思いのほか、体調は悪くなさそうに見えた。
「起きたのか」
私はつい数時間前まで腰を掛けていたスツールを引き、ベッドの脇に座った。
「うん。ダンブルドアが置いてくれた薬を飲んだら、楽になったみたい」
「ああ、……それは、私が調合したものだ」
咄嗟にそう返事してしまってから、べつにダンブルドアが手配した薬だということにしておいても良かったのでは、と思い直す。わざわざ自分が調合したと、恩着せがましく伝えずとも良かった。
しかし、私も疲れているのか、頭の回転が普段より遅い気がした。
「ダンブルドアから、が熱を出したと聞いて
熱を下げて、身体を楽にする薬草を粉にした」
「そうだったんだ……ありがとう」
はいつもの笑い方で微笑む。
もう大丈夫だ、と感じた。
どこか気が抜けたのか、思考する前に私の口はぺらぺらとしゃべり出す。
「……ずいぶんうなされてひどく汗をかいていたから、心配した……から生気が抜けていくように見えて」
は目を丸くする。
何を言っているんだ私は。
「その、なんだ。一応、同僚……だろう、おまえは」
私の言葉を聞くと、はくすくすと笑い出す。
「同僚には昇格できたんだ、私」
つい数時間前までは虫の息だったくせに、いまではもうころころと笑っている。
心配などして損をした、と思ったが
良かった、という考えもあることは否定できなかった。
何を言い返そうか迷っていると、が先に言った。
「ありがとう、セブルス」
なぜ、礼を言われなければいけないのか。
会話を辿って考える。
「ああ……薬か。また風邪を引いたら作ってやる」
は目を何度か瞬かせ、苦笑した。
「治ったら、お礼にカボチャのお菓子作るね。セブルスは何が好きだっけ?クッキー?パイ?」
「……甘いものはあまり好きじゃない」
「じゃあ塩入れてあげようか」
「そういう問題じゃないだろう」
はまたくすりと笑う。
こいつは泣くよりも怒るよりも、苦しむよりも
笑っていたほうがいい、と思った。
2018.8.7
ヒロイン視点:
7 ---
8 ---
9
セブルス視点:
7 --- 8 ---
9
Top