11. 過去-卒業-



 春の息吹が聞こえる。
 ホグワーツとの   セブルスとの別れが近づくにつれ、私はますます過去の自分のおこないを後悔するようになっていた。

 どうしてホグワーツの卒業と同時にセブルスと決別するような真似をしたのか、と。

 でも、過去の私にはその道しかなかった。
 セブルスが堕ちてゆくさまを見るのが耐えられなかった。
 私には彼を引き戻すだけの力がないと諦めるしかなかった。
 ジェームズ・ポッターと仲が深まるリリーさんを見て、ぼろぼろに傷つくセブルスを見るのが辛かった。

 セブルスは、ジェームズ・ポッターとリリーさんが付き合うようになって、ますます闇の魔術に心酔するようになった。
 闇の魔術を使いこなし、強くなれば、リリーさんは自分を見直してくれるのではないかと、そう思っていたのかもしれない。

 むしろ逆効果だということに、盲目したセブルスは気づかなかった。

 セブルスも深く傷を負っていたのだと思う。
 この世で一番嫌いな人と、この世で一番好きな人が一緒にいるのだから。

 私は何度かセブルスに闇の魔術から離れたほうがいいのでは、と伝えたことがあったけれど、彼は聞く耳を持たなかった。
 むしろ、私も闇の魔術に傾倒するよう勧められた。

 闇の魔術があれば。
 力があれば。
 強くなれば。
 どんなことでも成し遂げられると、信じていたのかもしれない。
 スリザリンを中心とする生徒は、闇の力に吸い込まれるように盲信していた。 

 私は怖かった。
 セブルスがセブルスでなくなってゆくようで。
 セブルスが遠くにいくようで。

 いや、もともと手を伸ばしても届かない存在だった。
 私では駄目なのだ。

 もう限界だ、と思った。

 私は、七年の間抱いた想いを諦めることを選んでしまった。
 一生届かない気持ちを抱えたまま生きる強さを、私は失ってしまった。
 
 だから私は、日本に帰ることにした。
 親から帰って来いと言われていたのを理由につけて。

 両親は魔法使いなどではなかったけれど、どこからかイギリスの情勢が良くないことを察していたらしい。
 闇の帝王のことを両親が知っていたのかはわからないけれど、何となく悪い影響が強まっていることは知っていたのだろう。
 ホグワーツを卒業したら日本に帰るよう、何度も手紙を寄越してきた。

 私はそのことを理由につけて、ホグワーツ卒業と同時にイギリスを去ることに決めた。

 ホグワーツの卒業式。
 晴れやかな顔をしている同級生の中で、私はいったいどんな表情をしていただろう。
 この地と決別することへの迷いが依然としてあった。

 でも。
 
 眩しそうな笑顔を浮かべるジェームズ・ポッターとリリーさんが抱き合う姿を見て、セブルスが顔を歪める光景に。

 最後まで残っていた私の心の一部が、ほろりと砕けた気がした。

「セブルス」

 感情を失ったまま、私は人の輪から外れたところにいるセブルスに呼びかけた。
 セブルスは不機嫌そうに「なんだ」と答えた。

   お別れを言いに来たの」
「は?」

 私は口先だけでしゃべった。

「私、日本に帰るから。もうここには戻らないから」
「な……にを」

 これまでもセブルスと卒業したらどうするか、という話を何度かしたことがあった。
 そのときは、ホグワーツで何か仕事ができたらベストだとか、できなくても魔法界で仕事に就きたいとか、そんなことを話していたと思う。
 だから、セブルスに日本に帰ると告げるのは、はじめてだった。
 セブルスは驚いたように目を丸くしていた。

 もうひんやりと冷え切っていた私の感情は、それでもセブルスを目前にすると熱を持とうとしていたけれど、私は何も考えないようにして、ただひと言、最後に伝えることにした。

「さよなら」

 と。

 そしてセブルスの返答も待たず、彼に背中を向けた。



 セブルスが私の名前を呼んだのが聞こえたけれど、振り返らずに、早足で歩いた。
 そのまま荷物を持ってホグワーツ特急に乗った、のだと思うけれど、日本にどうやって帰国したかまるで記憶がない。

 久しぶりの我が家で、両親が「おかえり」と心から嬉しそうに出迎えてくれて   そこで私は、何かが事切れたように号泣してしまった。

 胸が、苦しい。
 
 どうしてこんなに好きだったのに、私は去ったのだろう。
 イギリスも。
 魔法界も。
 ホグワーツも。
 セブルスのことも。

 大好きだったのに。


 両親は驚いてどうしたのかと訊いてきたが、私は答えずにただ泣きじゃくった。




 それから私は   日本で、魔法から離れた仕事に就いた。
 けっして充実しているとはいえない日々だった。

 私のなかで大事な何かが欠けてしまったようだった。

 だから。
 いまは、きっとしあわせなのだ。

 私は、今度は選択を誤らなかったのだ。

 そう、信じたい。

 

2018.11.9
ヒロイン視点: 10 --- 11 --- 12
セブルス視点: 10 --- 11 --- 12

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