春という季節は、どこか儚い気配がする。
厳しい冬を乗り越えて暖かな時節がやってくるというのに、なぜだろう。
そのように認知するようになったのはの影響が大きい。
学生時代、は春になると決まって、「なんだか切なくなる」と言った。
日本では、春は“別れの季節”なのだという。
日本において、一年のうち三月は物事の区切りで、卒業や入職などはこの時期に行なわれるのだそうだ。
イギリスでは、新学期は九月に始まる。卒業は夏だ。それゆえ我々の“別れの季節”といえば晩夏になるのだが、気候柄寂しいなどという感情を抱く人間は少ない。
イギリスの春は、ターニングポイントでもなんでもないはずなのに、今年はなぜか“何かの終わり”を強く感じずにはいられなかった。
は、冬の出来事など何もなかったかのように振る舞っていた。
中途半端な寄る辺なさを抱えたまま過ごしていると、突然朝にとダンブルドアがやってきて、今日日本に帰るのだと言い出した。
「は……?」
あまりに唐突過ぎて、私は立ち尽くした。がここを去るのは、予定ではもう少し先のはずだ。
「ちょっと、風邪をこじらせちゃって」
は苦笑しながら、コホコホと咳をしている。その顔色は悪く、声は弱々しかった。
なぜか背筋が寒くなる気配がした。
「しばらく病院で過ごして、日本に帰ることになったの」
が言うと、ダンブルドアは「移動の準備をしてこよう」と言い、去った。
フルーパウダーを使うのかもしれない。
「そんな……突然、過ぎるだろう」
私はただ、そんなことを繰り返すしか言いようがなかった。
「うん……ごめんね。他の人に風邪がうつっちゃうといけないし」
がいなくなる。
明日から
いや、この数刻後からすぐに、だ。
いや、だが。
「治るまではイギリスにいるのか?」
「え?え、えっと……うん、そう。ダンブルドアがロンドンの病院を手配してくれて」
「そうか」
しばらくロンドンにいるというなら、授業のない時間帯にでも見舞ってやることはできるだろう。
私の心臓は、鼓動を緩める。
「マグルの風邪に効くかはわからんが、薬を持って行ってやる」
はわずかに目を細めたあと、「ありがとう」と笑った。
私はすでに、どの薬草を調合するか頭のなかで組み立てはじめていた。
ふとを見ると、どこか悲痛な面持ちを浮かべているように見えて、私は「どうした?」と訊ねた。
なぜかいまにも泣き出しそうな表情で、は何かを振り払うように、首を横に振る。
「あ、……ちょっと、喉が、痛くて」
目が潤んでいるように見えたのは、痛みを堪えてだったのか。
「そうか。喉にいいハーブがある。あとで持っていく」
ありがとう、とは静かに微笑む。そして間を置いたあと、
「セブルス」
まっすぐに私を見て、言う。
「この一年、本当に楽しかった。ありがとう」
やはりその笑顔は泣いているように見えた。私は、返す言葉が思いつかず、ただ小さく「ああ」とだけ口にした。
教師陣に見送られ、ダンブルドアとはばたばたと去っていった。
やはり校長室からフルーパウダーでロンドンまで移動するらしい。
急に、ホグワーツが広くなったように思えた。
授業を終え、自室に戻り、眠り、朝を迎える。
起きたときにもうはいないのだという事実が急にのしかかってきて、私は自分の感情がわからなくなった。
これは寂しさというものなのだろうか。
身体のどこかに穴が空いて、風がひゅうひゅうと吹き抜けているような心地。
今年の春風は、やけに身に堪える。
「セブルス」
ダンブルドアが私の自室にやって来る。
が去ってから一週間が経とうとしていた。
私は、あいつの不在にいまだに慣れることができなかった。
ノックをされるとあいつがティーポットを持ってやってくるのではないかという気がして、扉を開けるたびに幻滅するということが続いた。
私がホグワーツの教職に就任して以来、誰しもがどこか私を避けているような空気があった。
だが、あいつが来て変わった。
あいつは
はどんどん私の壁を蹴破り、なかに入ってきた。
はじめはわずらわしかったが、しだいにの来訪を望んでいる自分に気がつく。
私にも他人と過ごして楽しいなどと思える感情が残されていたことに、驚いた。
私は、あいつに渡す魔法薬の材料をそろえるという目的で、日々を過ごしていた。
ダンブルドアは珍しく沈痛の面持ちで、私のほうに歩み寄ってくる。
「
が、」
ダンブルドアは一度そこで区切ったかと思うと、長い間を開けた。
「危篤だそうじゃ」
2020.11.6
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