ホグワーツ入学後。特急列車で運命的な
と勝手に私は思っている
出逢いを果たしてからというもの、私はセブルスについて回るようになった。
言葉ははっきりとわからないし、魔法なんて使ったことがなかったから、周りは未知のものだらけだった。頼りになるのはセブルスだけだと思っていた。
セブルスには鬱陶しいと考えられていたに違いないけれど、会話を重ねていくうちに、きちんと受け答えをしてくれるようになった。
セブルスは私に、英語と、魔法界の知識と、魔法を教えてくれた。
「こんなことも知らないのか」「なぜわからないんだ」と言葉尻は冷たいのだけど、教え方はとてもわかりやすく、丁寧だった。
このときから、セブルスは教師に向いているんじゃないかと思っていたっけ。
もっともあけすけな物言いさえ直せば、だけれど。
セブルスが言葉を教えてくれたおかげで、「鼻ぺちゃ日本人」だの「セブルスの腰巾着」だの言われても言い返せるようになったし、授業にもついていけるようになった。
ただ、セブルスのほうが私のことでからかわれてしまうのはしのびなくて、彼にべたべたとつきまとうのはやめた。
それでも、セブルスと一緒にいるのは居心地が良くて、一緒に勉強をしたり、話をしたり、というのはやめなかった。やめられなかった。
セブルスは、まだ十歳を少し回ったくらいの少年とは思えない冷静さを持っていて、話をしていると気持ちがすうっと落ち着くような気がした。
他の友だちとは少し違う位置に、セブルスはいた。

ホグワーツ二年目の、1月9日。
セブルスの誕生日を知った私は、日ごろのお礼も兼ねてプレゼントをすることにした。いつも寒そうに手を擦り合わせて、ローブに手を突っ込んでいるセブルスをずっと見ていたから、手袋を贈ることに決めた。クリスマス休暇で家に帰ったとき、あれこれ悩んで、五本指のシンプルなネイビーの手袋を買った。
当日、セブルスがひとりで廊下を歩いているところを見計らって、私は突撃した。
いつも話をするとはいえ、贈りものをするのははじめてで、セブルスがどういう反応を見せるのかまったく予想がつかなかった。
いらないと拒否されたら、どうしよう。
かえって迷惑になったら、どうしよう。
そんなことを考えて、前の日は眠れなかった。
「これ」
私は青い包み紙に黄色のリボンがついた包み紙を、セブルスの前に差し出す。
手が、震えた。
セブルスが驚いたように目を大きくしたのが見えたけれど、顔を直視することはできなかった。
「その、……誕生日、プレゼント」
「誕、生日……?」
セブルスはかすれた声で呟く。
包み紙を、受け取ってはくれなかった。
「いつも、いろいろ、お世話になってるから……その感謝の意味も、こめて」
声まで震えてきてしまう。
一向にセブルスの反応がなくて、私はおそるおそるセブルスの顔に視線を移した。
セブルスは、口をわずかに開いて、ぽかんと私の差し出す包みを眺めていた。
「セブルス……?」
私が声をかけると、セブルスははっとしたように目を何度か瞬いて、「ああ」と小さく唸った。視線をあちこちに泳がせている。
ああ、困っているのだなと思った。
「あ、あの、迷惑だったら、べつにいいから」
手袋じゃなくて、食べものにすれば良かったと心から後悔した。
かたちに残らず、さらりと渡せて、さらりと受け取れるものにすれば良かったと。
けれども、セブルスは「いや」と相変わらず戸惑うような表情をしながら言った。
「べつに、迷惑っていうわけじゃ」
セブルスが言葉を選んでいるようなようすがあったので、私は続きを待った。
セブルスはぽつぽつと語りはじめる。
「その……こういうことに、慣れていないんだ。というよりも……はじめて、かもしれない」
「え、……誕生日プレゼントが?」
セブルスはこくりと頷く。
今度は私が驚く番だった。
誕生日にプレゼントをもらったことがないなんて。
もしかして、セブルスの家庭事情はあまり良くないのかもしれない。私は子どもながらにそう察することができた。
セブルスも私もぼんやりしていたけれど、やがてセブルスが青い包みを手に取ってくれた。
「開けても、いいのか?」
「う、うん」
私が頷くと、セブルスはリボンをするすると解き、ネイビーの手袋を手に取った。
「ほら、セブルス、いつも手が冷たいでしょ?ローブに手を入れるのも危ないと思って……」
なぜか言い訳がましく私が言うと、セブルスは何も答えずに手袋を手にはめた。
そして。
「あったかい」
セブルスは。
やわらかく、とてもやわらかく、微笑んだ。
私は
息ができなくなってしまった。
今まで、皮肉っぽく笑ったりすることはあったけれど、こういう穏やかな笑い方は見たことがなかった。
とても。
とても、うれしかった。
とても幸せな気分になった。
目の前が何段階も明るくなったように見えた。
もっとセブルスに笑っていてほしい、と思った。
私がぼんやりしていると、セブルスはすぐに真顔に戻って、
「まあ、手が冷えていたら……薬の調合とか、いろいろ不便だし……使ってやる」
とつっけんどんな口調で言った。
私は、胸がいっぱいになって、
「ありがとう」
と口にしていた。
セブルスが怪訝そうな表情をする。
「それは……その、……こちらの台詞じゃないのか」
「ううん。いいの」
理由はわからなかったけれど、私はたくさん感謝したい気分になった。
今、思うと。
ぶっきらぼうなセブルスがプレゼントを受け取ってくれたこと。
日ごろの感謝。
セブルスに出逢えたこと。
そして、セブルスが生まれてきてくれたことへさえも、ありがとうと言いたかったのだと思う。
「渋々使っている」という態度とは裏腹に、セブルスは手袋を大事に使ってくれていた。サイズが小さくなってしまうまで、ずっと。
私の中で、セブルスが少しずつ特別な位置を占めるようになっていく。
そのことが、否定できなくなっていった。
いろいろなことを教えてくれる親切な同級生というわけではなくて。
友だちのような関係でもなくて。
尊くて、くすぐったくて、大切な存在になっていく。
セブルスを異性として見ることはすまいと、早い段階で無意識のうちに意識していたはずだった。
だって、
セブルスに好きな人がいるのは明らかだったから。
セブルスはいつも、見ていた。
ひとりの少女を。
少年とは思えない、大人びた目線で。
相手は、リリー・エバンズ。
同い年で、グリフィンドール寮で、赤毛で目が大きくてとても可愛い子。
セブルスとは、ホグワーツ入学前からの知り合いらしい。
セブルスは、リリーさんと話せた日は目を輝かせていた。声の色が違った。いつもにはなく生き生きとしていた。
ああ、セブルスはリリーさんが好きなのだな、と、入学後すぐにわかっていた。
だから、セブルスに特別な好意を抱いても無駄だと、感じていた。
それなのに。
毎日の些細なことや、ちょっとした特別な出来事を重ねていくうちに。
私の気持ちは、打ち消せないものになってゆく。
この想いは報われることがないと、わかっているのに。
一時は、セブルスとは縁を切ろうかとさえ思った。
けれど、私の本能は正直で、どうしたってセブルスを目で追ってしまう。
さらに、セブルスにあまり話しかけないようにしている私の努力を知らない当事者は、こういうときに限って私に接してくる。
ホグズミードに買い出しに付き合えだの、ライバル
ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラック
に投げつける魔法薬の調合に手伝えだの。
三年生や四年生のころは、一番辛かったかもしれない。
どうしたって叶わない片想いから逃れられないことに。
いっそセブルスとリリーさんが恋人どうしになってくれれば諦めがついたのかもしれないけれど、リリーさんはセブルスを昔なじみ以上には思っていないようだった。
私は、毎日頭から煙が出そうなくらい悩んでいるうちに、もうこういう関係でもいいか、と思うようになっていった。
少なくとも、セブルスにとって私は、数少ない友人のうちのひとり。
私自身も、親友としての感情もあったから、そういう関係でもいいかと考えるようになった。
いつかきっと、もっと格好良くて、優しくて、素敵な男性が現れるに違いない。
それまでは、想い悩むことはやめて、セブルスの隣にいよう、と決めた。
このころの私のほうが、強かったかもしれない。
2018.3.8
ヒロイン視点:
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セブルス視点:
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