ダンブルドアの後ついて、ロンドンの病院へとたどり着く。
ダンブルドアはを送り届けているので、場所を知っていた。
胸のあたりが始終ざわざわと震えていて落ち着かない。
周囲の会話も耳に入らないまま、が入院しているという病室へとたどり着いた。
しかし、そこにの姿はなかった。
ダンブルドアが、看護師にの所在を訊ねる。看護師は視線を落として、言った。
「ああ……昨日、亡くなったんです」
ダンブルドアも私も、言葉が出なかった。
ぐらり、と視界が揺れる。
ああ、これは夢なのだと思った。
「あの、もしかしてダンブルドア先生というお方?」
看護婦に問われ、ダンブルドアは珍しくうろたえながら「はい」と頷いていた。
「さんから、手紙を預かっています。ご両親経由だと、渡してもらえないかもしれないからと、私に……。ダンブルドア先生宛と、セブルスさんという方宛に、お預かりしています」
ダンブルドアは看護師から二枚の封筒を受け取り、二言三言やり取りをして、私を振り返った。
「セブルス、きみ宛じゃ」
ダンブルドアは一枚の封筒を私に手渡してくるが、もはや私はそれを“いちシーン”としてしか認識ができなかった。ダンブルドアが手を差し出してくる。ダンブルドアが台詞を吐く。反射的に私は手を伸ばし、差し出されたものを受け取る。
どれくらいそうしていただろう、ダンブルドアは私を促すでもなく、何を言うでもなかったが、後ろから「あなたたちは?」という男の声が聞こえた。私は振り返らずに、ダンブルドアが相手をした。
「私は、アルバス・ダンブルドアという者でして」
「あなたが……」
男は怒りを滲ませている。声を聞けばわかる。はっきりとした嫌悪感だった。
「私はの父親です」
その内容に驚き、私はようやく振り返った。
顔色は悪いが、目にはぎらぎらとした光を滲ませている中年の男だった。
「看護師から聞いたのでしょう。は昨日、亡くなりました。私は荷物を取りに来たのだが、あなた方と会えて幸か不幸か」
「このたびは、……」
「いや、けっこう。あなたたちからの言葉なんて、何も聞きたくない。私は、私たちは、恨んでいるんです。娘は、あなたたちのところに行かずに治療していれば、治ったかもしれないのに」
の父親の言葉に、ダンブルドアは言葉を閉ざす。
「そもそも、ホグワーツなどというところに行かせたのが間違いだ。私は、……。ああ、もう、いい。言いたいことは山ほどあるが、帰ってくれないか。あなたがたの顔など見たくない」
「お待ちくだされ」
ダンブルドアは私たちを押し返そうとするの父親に、何枚かの写真を手渡した。
が写っている。や、ホグワーツの教師や、私の姿が。
「なん……なんだ、これは」
「魔法界の写真です。動くのは珍しいでしょう。いや、いまはそのことはいいですな。この一年で撮影した、の姿です。わしには、は心から幸せそうに見えています。あなた方ご両親のことを思うと、胸が痛い気持ちもありますが、は確かに、良い一年を過ごしたと、思います」
ダンブルドアは、去ろうとするの父親に向かって、少しばかり早口で述べた。
写真の中のは、微笑んでいた。
がやってきた日の歓迎会での一枚。
教師たちと写る姿。
私と話をする姿。
私の知っているもの、知らないもの。
いつの間に撮影したというのか。
の父親は、それらの写真をかき抱き、涙を流しはじめる。
私はその光景を、ただぼんやりと眺めることしかできなかった。
の父親とダンブルドアが何かやり取りをしているが、まるで頭に入らない。
この世界は、現実か?
夢の中にいるのだろうか。
頭の中に霞がかかっており、すべてが遠い夢想のように感じられる。
ダンブルドアが振り返り、私に部屋を出ていくよう促す。
私はされるがまま、足を運びの父親に背を向ける。
振り向きざま、いくぶんか落ち着いた彼の表情が目に写った。
ダンブルドアと私は、病室を後にした。

何をどうしたのか、まるで覚えていない。
ホグワーツの自室に戻ってきてようやく、ここがどこか、いま何どきなのかを意識する。
真夜中の城は、気が安らぐ。
もはや闇の魔術へ傾倒こそしてはいないが、黒暗は未だに肌に馴染むらしい。
杖を取り出して仄かな明かりを灯そうとしたとき、かさりと床に落ちるものがあった。
屈んで拾おうとする。
一枚の封筒。
ぐらり、と視界が歪み、床に手をつく。
表面には「セブルス・スネイプさま」と書かれている。
その字のクセのせいで、嫌でも執筆者の顔が浮かんでくる。
めまいのほか、吐き気もする。
何も考えたくない。
この常闇に身を沈めてしまいたい。
ただ。
なぜだかあいつの筆跡が「読んでくれ」と告げているような気がして、私は封を開けた。
手が、どうしようもなく震えた。
2017.12.26
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