の手紙には、ひたすらに私への感謝、そして謝罪が述べられていた。
内容を頭に入れることが困難で、何度も何度も同じ行を辿る。
すべて読み終えたとき、私はうまく息をすることができなかった。
くるしい。
なぜ、どうして。
あいつが、あいつが
死ななければ、いけない。
あいつがマグルでなければ、私が薬を調合してやったのに。
なぜ、私は、どうして、……。
無力感。
絶望感。
空虚感。
この、身を切られる感情。
以前も経験したことがある。
リリーの……ときだ。
もう二度と、凍りついた感情は蘇ることはないと思っていたのに。
ゆえにもう二度と、あのような苦しみを味わうことはないと思っていたのに。
一度溶けた氷は、もとに戻って壊れるとき、かつて以上の音を立てて砕け散るのかもしれない。
私はもう、何をする気力も湧いてこなかった。

「セブルス」
目を開けると、ダンブルドアが私を見下ろしていた。
「セブルス……」
あまりにひどい姿であるのだろう、ダンブルドアは次の言葉を続けるのに時間をかけた。
「心配で、様子を見にきたんじゃ。ノックをしても返答がないから、勝手に入らせてもらった」
心配とは建前で、責めに来たのかもしれない。
いつまで眠りに落ちていたのかはわからない。ただ、一日以上は経っているだろう。授業を、しなかったことになる。
この気分で誰かと話すことはできそうになかったし、ましてや大勢の前で講義をするなど不可能に思えた。
いや、違う。今日は休日だったか。
もはやすべてがどうでもいいことのように思える。
「手紙を、読んだのじゃな」
ダンブルドアは机の上に開け放たれた封筒をちらりと見、言った。私を責めることはしなかった。
「わしも、読んだよ。わしへの感謝ばかりが述べられていた。本当に良い子を亡くした……つらいの……」
ダンブルドアの声は悲痛に満ちている。
「きみに、の病気のことを黙っていたことはわしにも責任がある。の意思を尊重したのだが、残されるきみの立場になると、相当に辛いものじゃったろう。はそのことを心底憂いておった」
もう、あいつの名前を口にしないでほしい。
聞きたくない。
心臓が砕けそうだ。
「セブルス……きみは……この数年の間に、大切なひとをふたりも亡くしてしまった……いたわしいことじゃ。じゃが、は」
「やめてください」
久しぶりに発した声は、がさがさに掠れていた。
内容は聞き取れなかったかもしれないが、ダンブルドアは口を閉ざす。
「もう……いい……何もかも……どうでも、いいんです……」
「セブルス」
校長を前に寝そべったまま話すなど、無礼にもほどがある。しかし私は、身体を動かす気力がなかった。
「
セブルス。ここに、
逆転時計というものがある」
ダンブルドアは懐から金に輝く懐中時計のようなものを取り出した。
逆転時計。話には聞いたことがある。数時間、時間を遡ることのできる時計、だったと思う。
「通常、この逆転時計で戻れるのは数時間が限度じゃ。しかし、わしが“特別な魔法”をかけて、数日なら戻れるように細工をしておる」
何を。
何をしたいのだ、ダンブルドアは。そんなものを持ち出して。
「が死んでしまうという結果は、変えられない。しかし、きみの……きみたちのわだかまりを解くことは、できるかもしれん」
「そん……な……」
「過去は、変えられない。すべては起こるべくして起こった結果じゃ」
ダンブルドアは深い息とともにそう述べる。
「セブルス。これは、“こっそりと”魔法省から拝借してきたもの。悩む時間はない。どうするかね?」
と、あいつと、話せる。
しかし、……。
「このままで、良いのかね。に伝えられなかった言葉を伝える最後のチャンスじゃぞ」
わかっている。
迷う理由はないのだと。
しかし、失うとわかっていて、あいつと面と向かって話ができるだろうか。
返答を出せない私に、ダンブルドアが一枚の写真を取り出した。
と私が写っている写真だった。
寝込んでハロウィンに出席できなかったのために、少人数で食事会を開いたときのものだ。
「はもちろん、この写真のセブルスの表情、わしはとても気に入っておる」
自分でも驚くほど、私は安らかな顔をしていた。
「はきみのことをとても大切に想っていた。きみはどうじゃった?きみの想いを、伝えずとも良いのかな。
いや、老人の戯言じゃ。どうするかはきみの自由」
わかっている。
私は、あいつに何も言えなかった。再会したころは、責めるばかりだった。
私の身体の芯のほうにぼんやりとある何かが、逆転時計を手に取るべきと発していることは、間違いなかった。
「
逆転時計を
」
貸してくださいと、私は小さく告げた。
2021.1.8
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